けものの脇道 ~軍事派と共和派~
ルイ達が議会に到着する2時間ほど前――
ウルド・ライディンの報告を受け、議会には招待したルイ達への対応をあらかじめ話し合うために各国の重鎮たちが首をそろえていた。
「さて、我らが〝正義の使者〟様の言葉を信じるとするならば、魔獣を従えた異界人に我々を害する意図は無いようですわ。それを踏まえて、我々が彼らをどう扱うかが重要になってくるわけですけど――」
口火を切った壮年の女性は手元にある報告書に目を通し頬杖を突いた。
「無論、我々の指揮下に置かなければなるまいよ! 軟弱な異界人どもならつゆ知らず、強力な魔獣を従える事ができる異界人となれば、王国を始めとする敵対勢力への牽制になる! 彼らを他国家よりも先に制する事こそ我らバルヒュージの軍事力強化に不可欠である!」
他の者に圧力をかけるように言い放つ軍服を着た老人は鍛え抜かれたたくましい腕を机に叩きつける。
急に始まった口上に壮年の女性は老人を睨みつける
「バルジ将軍、議長の私の断りなく発言することは控えていただきたい」
「これは議長、失礼致しました。しかしながら、かの異界人一行がここに到着するまでさほど時間は無いでしょうから、円滑に話し合いを進めたいと思ったまででございます。それに王国の動きが不穏なのも事実でございましょう?」
睨まれている事を意にも介さずにバルジと呼ばれた老人は話を続ける。
それに耐え切れなくなったかの様に議員の一人が声を上げた。
「ま、待たれよバルジ将軍! 聞けば彼らはかの王宮でも暴れ、多くの被害を出したという噂ではないか! もし、この共和国議会でもそのようなことになり、混乱が生じればそれを理由に王国の進行を許すことにはなりかねんかね?」
「そ、その通りですぞ! ただでさえ王国の戦力が不穏な動きを見せている状況でこれ以上の厄介事を自ら呼び込むことは避けたほうがよろしいのではないかな?」
その意見を皮切りにバルジ将軍の意見への反対が続出する。
暫くはその意見を聞いていたバルジ将軍だったが、無論そのような反対が出ることは予想済み。
「確かにそのような心配が起きることはごもっとも。しかし裏を返せば、王国の動きが不穏な今こそ王国に対抗しうるだけの戦力を整えて置くことが重要なのだ。それに――今、幸運にも三英雄が全員凱旋している。これは絶好の好機ではないのか?」
その言葉に議会はざわつく。
三英雄の凱旋、しかも時を同じくして召集無しで三名が揃うということは極めて珍しい事。
そして、その情報は共和国の玄関口であるバルヒュージが一早く取得していた。
「もし、懐柔に失敗して異界人が魔獣をけしかけたとしても、三英雄なら問題なく処理できるだろう。奴らを認めたウルドは拒否するかもしれないが、他二人は何とでもなる!」
自信満々にそう宣言した将軍に同調する様に軍事強行派が騒ぎ出した。
「それは良い考えですなバルジ殿! 私もそれに賛成です。危険な存在は飼い慣らしておくに限りますからな」
「共和国の力を示すことにもなりますからな! 三英雄がいるならば問題は起こらないでしょう」
壮年の女性は嬉々として話す強行派を怪訝な面持ちで見つめ、隣にいた貴族風の男に目で合図を送る。
その貴族風の男が場を鎮めるように手を掲げると再び議会に静けさが戻る。
場が静まったのを見届けると咳払いと共に男は喋り出した。
「此度、かの異界人一行を見極めたウルド・ライディンからは彼らが善意の存在であるため誠意ある対応を願うとのことでした。バルジ殿の言われる通り、彼らに過激な対応をすることは反対の立場にあります。対応を誤れば三英雄間に無用な緊張を生むことになるのでは?」
「左様、現行の勢力でも三英雄さえいれば王国と一戦交えることになろうと対応が効く。それにのう、異界人を強制的に徴兵するというのは王国と差別化を図ってきた我らのやり方とはどうも合わんように思える」
力説しながらも冷や汗が止まらない男に女性の左隣にいたローブを纏う老人が助け舟を出す。
この二人を中心とする共和派は共和国内において古くから主流派であり、バルジ率いる軍事強硬派の動きを制している。
その後、議会は紛糾し二つの意見は真っ向から反発し合っている
二つの意見が一通りぶつかり合った所で女性が手を掲げた
「時間もない事だし、そろそろ採決を取るとしましょう。かの異界人一行を強行的に軍部に引き入れるか、他の異界人たちと同じように自由な居住権を与えるか」
その声と共に議員一同は手元にある水晶にそれぞれ手を置いた。
すると水晶玉が光り出し、その光は議長の手元にある大きな水晶へと集約する。
「採決の結果、かの異界人一行は軍部に組み込まず、自由な行動を保障するものとします。しかしながら、強大な力を持っている事を考慮し、議会に召集しその目的を調査、その後には監視をつけることとします。これでよろしいでしょうか、バルジ将軍?」
バルジを覗く笑顔の瞳の奥には威圧の様なものが感じられる。
それを感じ取り開きかけた口を閉ざしたバルジは忌々し気に女性を睨む。
「異界人一行は馬車に乗ったようですね。この議会に着くまで一時間と言ったところでしょうか。それまでしばしの休憩といたしましょう」
それを聞いた共和派の議員たちは遠隔投影を切り始める。
暫くして議会に残ったのはバルジのみ。
彼は拳を握りしめ、誰もいない議長席を睨み続けていた。
「おのれ、共和国に巣くう女狐め! 共和派と結託して我らの意向を通さぬように動きよって! 今に見ていろ――」
そう呟いたバルジは遠隔投影と揺らめく野心をその場に残し、席を離れていった。




