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異世界で歩むけものみち ~魔獣保護機構設立物語~  作者: Rom-t
禍根の道 ~序章~ 〈共和国入国編〉
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第六十六歩 【広がる浮評】

 転送魔法〈テレポート〉の光が晴れていき、俺たちの目の前には大きな門と高い壁が姿を現す。

 ここは共和国の玄関口にして、王国に睨みを利かせる軍事大国:バルヒュージという国だそうだ。

 共和国に入国するためにはまずここで入国検査を受けるとのこと。


「さぁ、中に入ろうか!」


 レイナルドさんは意気揚々と言い放つが、俺たちは大きな不安を抱えていた。

 何故なら――


「ちょっ! レイナルドさん、周りが俺たち一行をガン見してるっす……しかも、武器や魔法を構えている人たちまでいるっすよ!」


 周りの指すような視線に晒されて、膝が震えているシュウスケがレイナルドさんに助けを求めているが無理もない。


 周囲の冒険者や番兵たちは明らかな臨戦態勢で、いつ襲い掛かって来てもおかしくはない程だ。

 その理由は明らかである。


「おい、ルイ! 身体のサイズが変わらねぇぞ!」


「うむぅ、本来の姿に戻ってしまっているな。これでは警戒されても無理はないが……」


 俺たちの傍には巨大な狼とサメが鎮座している。

 この門の周囲にあるサークルを通った辺りでフェルとメガロは巨大化――と言っても元に戻っただけなのだが……

 とにかく、二人の〝体躯変化〟が機能しなくなり、現場は大混乱になっていた。


「あぁ、この魔法陣か。これは変装や擬態を見破るための術式が組まれているからね。それに反応してしまったんだろう!」


 レイナルドさんは勝手に納得しているが、こっちは冷や汗が止まらない。


「つ、次の者たち、入れ!」


 暫くしてようやく俺たちの番が来た。

 俺たちはそそくさと門の前に設置された入国審査場に入って行く。


「大丈夫、大丈夫! 君たち、あのウルド・ライディンから協議会への招待状を貰ったんだろ? それを見せればすぐに済むって!」


 先に審査を終えたレイナルドさんが手を振って審査室を出ていく。

 これだけの騒ぎになっているのに全く応えていない辺り彼もかなりの大物なのかもしれないと改めて思った。

 フェルたち魔獣組とは別に俺、シュウスケ、リンは取調室の様な部屋に通され、椅子に座らされた。


「さて、お前たちは共和国に何をしに来た?」


 目の前には落ち着いた雰囲気を持つ中年の兵士が机越しに腰かけ質問してくる。


「そっちの嬢ちゃんは人族じゃねぇな! どの種族だ? 何の言葉なら理解できっかなぁ?」

フードを深々と被ったリンを一瞥し、男は頭をポリポリと掻く。


「龍人族よ……普通に話して貰って構わないわ」


 リンがフードを取り話しかけると、男は面食らったように呆気に取られた後に笑い出した。


「アッハッハッハ! こいつは珍しいお客さんだ! 龍人族とは初めて見たぜ! しかも普通に話せるとはありがてぇな。龍人族の言葉なんて流石に喋れねぇからよ!」


 男は持っていた調書に何かを書き終え、今度は俺たちへと顔を向ける。


「そっちの二人は異界人だろ? 出身地と入国目的は?」


 俺たち二人分の調書を取ろうとしている男を見て、シュウスケが肘で俺を突いてきた


「ルイさん、緊張感で胃が痛くなってきたっす! あの封筒渡してさっさと通っちゃいましょうよ!」


 シュウスケの冷や汗を見て、俺もその考えに納得しバッグに手を入れる。


「あ、あの……これを渡されているのですが」


 俺は話を簡潔に進めるためにウルドさんに渡された封筒を出す。

 男はその封筒を丁寧に開けると中を|検〈あらた〉める。

 一通り目を通したところで男は納得したように封筒を返した。


「まぁ予想は付いていたが、やっぱりあんたらが噂の異界人一行だったって訳だな」


「……噂になってるんですか?」


「まぁ、上層部と役人、兵士たちの間で少人数、しかも魔獣複数を伴って王国に喧嘩売った命知らずがいるってな。しかも、王国に囚われてた異界人を大量に共和国に送るっつう厄介なことまでしでかしたとんでもねぇ野郎ってのは坊主の事だったのか!」


 確かに間違っちゃいないが……俺、さほど何もやってないんだよなぁ。

 暴れてたのはほとんど魔獣組だし、共和国に転送先が開かれていたことも後から聞いたことだし――

 悪名はともかくとして俺に大それた力があるとか誤解されてしまうと、思いがけない所から狙われかねない。

 それが噂として広まってしまえばなおさらだ。

 ウルドさんの一件しかり、この令状しかり――

 恐らくその噂が原因だろう。


「どうした? 顏が青褪めてんぞ?」


 項垂れる俺に男が声をかける。


「気にしないでください。ルイさんはいつもの勘違いがもう取り返しがつかないレベルまで広がっている事に打ちひしがれているだけっすから!」


 シュウスケが俺の代わりに答え、リンは俺の肩に手を置く。


「まぁただ話せるだけの能力をそれだけ過大評価されたら項垂れたくもなるわな」


「「「え!?」」」


 その言葉に俺たちは硬直する。

 目の前にいる兵士はあっさりと俺のスキルを見抜いたからだ。


「そんなに驚くなよ。これでも共和国の玄関を預かる尋問官だぜ? それくらいは分かるっての」


 ニヤリと笑うと男は書類に判を押すと俺たちへと差し出す。


「ほらよ、入国許可証だ。この先に共和国議会行きの馬車が停まっているからそれに乗って行くと良い。あと、くれぐれもあの魔獣たちを共和国内で巨大化させないようにな!」


 なんともあっさりした態度に俺たちは呆気に取られてしまった。

 魔法陣のせいとはいえ、あれだけ緊迫した状況を作り出してしまったのだからもうひと悶着くらいあると思っていたのだが――


「え? もう良いんですか?」


「協議会からの令状があるんだったら俺がやることはなにもねぇよ。さぁ、次がつかえているからな。さっさと行きな」


 俺は男の部下が開けたドアから外に出ていく。

 そこにはレイナルドさんの姿があった。


「ほらね、すぐに終わるって言っただろ。さて、君たちとはここでお別れだね。今まで楽しかったよ」


「こちらこそ! ここまで連れて来ていただいてありがとうございました!」


 レイナルドさんは俺たちに手を振り、国の中へと入って行く。

 俺たちはその背中を見送った後に、用意されていた馬車に乗り込んだ。


 その馬車が向かう先は共和国議会。

 そこに渦巻く思惑は俺たちを巻き込み、さらに大きく膨らんでいくことになる――

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