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「とりあえず……実力をはっきりさせておこうか。どれ小手調べだ」
そう言ったホルスト君は巨大な炎の塊を上空に作り出し地面にたたきつけた。
ものすごい熱が運動場の真ん中で爆発して、運動場がものすごく熱くなる。
運動場はその一撃で炎の海に沈み、巨大ディスプレイは砕けちる。
「さぁ次々行くぞ!」
ホルスト君はその手を天に掲げる。
「いきなりなにしやがる!」
「む?」
叫んだのは炎の中、無傷で立つ時坂君。
彼の周囲はセピア色に変わり、急速に広がって運動場全体を包み込む。
彼が腕を一振りすると、アレだけ燃え盛っていた炎は一瞬で消え去り、溶け落ちていた施設まで、逆再生のように元の姿を取り戻した。
ホルスト君は手を掲げたポーズのまま動かなくなってしまった。
ホルスト君は時坂君を目で追い、ぞっとするほど冷たい声で問いかけた。
「これは?」
「オレの領域だ。動けねぇだろ? 炎を締め出す事だって楽勝なのは見ての通りだ。そして捉えた中のものをばらばらにする事だってな。 お前ら全員捕らえた、今すぐ降参するなら――」
「誰を捕らえたのかな? 時坂くん?」
不意打ちで、こつんと時坂君のおでこをべぇだ君がつつく。反射的にその場を飛びのいた時坂君は手を振るべぇだ君を見て、目を見開いた。
「お前! ……動けるのか?」
「当然。余裕だね」
べぇだ君が声をかけるまで、確かに彼はそこにいなかった。
空中から稲妻のようにそこに現れたべぇだ君を僕は確かに見た。
恐ろしく速い。そして時坂君の空間にさえ捉えられない体は、彼の能力をすり抜けたのだ。
だが僕が思うに、気になるのはべぇだ君がホルスト君の火の玉をわざわざよけたことだろう。
あんな身体ならよけなくても大丈夫そうだが、熱いのは嫌いなのかもしれない。
僕は色んな能力の人がいるもんだなーと思って、口をぽっかり開けつつ腕を組む。
だけど感心して頷く僕に、なんだか三人の視線が自然に集まってきて。
「「「って! 何でお前は普通にしてんだ!」」」
「へ? あ、ゴメン」
だけどさっきまでものすごくシリアスだったはずの三人から同時に怒鳴られて、僕はシュンと肩をすくめる。
しまった、また僕は空気を読めていなかったらしい。
だがその随分そろった怒鳴り声を最後に、三人は距離をとって攻撃を控えた。
僕は向かい合っている三人の中で、この時熾烈な戦いが繰り広げられていたなんてまったく知る由もなかった。
ホルストの場合
太古のファラオの転生体、彼はそう呼ばれている。
太古の王としての記憶を生まれながらに断片として持っていた彼はその深い知識と見識をもってして、若くして大成していた。
そして彼の特質すべき能力は、太陽神の力をその体を憑代にして体現することが出来るという物だった。
太陽をこの地上に顕現させる異能は焼き滅ぼせないものなど存在しない。本気を出せばこの星自体を滅ぼせるほどの力だ。
そのすべての能力が、今生でも彼の生を王道たらしめている。
だが、人類に対して絶対の力は、必ずしも人知を超えた力の前にして、万能とはいかないようだった。
人類を新たな段階へと進めるというばかげた試みを物見遊山に来てみれば、なかなかどうして侮れない。
ホルストは目の前に立つ男達の能力について考察する。
(思った以上に規格外の能力だ。勝てないとも思わないが、超能力者の方が厄介だな。どんなにエネルギーを内包していようと我が憑代は人体だ。空間ごとバラバラにできるというのなら意味がない)
時坂 タクマの場合
超能力研究所には様々な能力者が存在する。
発火能力、転移能力、予知能力、念動力。
そんな中で彼が目覚めた能力は空間と、時間に干渉する能力だった。
突然変異の中の突然変異体。
超能力の中の超能力とまで言われた能力は、彼が知覚できる空間を区切り、中に存在するモノを自在に分解、時さえも進め、そして巻き戻すことが出来る。
これまで彼の敵になる者は未だかつていなかった。
だがしかし目の前の相手は、冗談ではなかった。
(太陽と、宇宙人だと? 太陽野郎の方は……まぁ人間だ、何とかなる。だが宇宙人ってなんだ? 俺の感覚で捕えられないのか? 寿命があるのかどうかもわからん。体がエネルギー体だとしたら、バラバラにしたところで意味がねぇ)
べぇだの場合
彼は宇宙をさすらうエネルギー生命体である。
そんな彼が生まれる前の現地生物と融合してからすでに普通の高校生と同じだけの時間が経過していた。
元の能力はそのままに、人間としての能力を手に入れたべぇだは、この学園の話を聞いて存分にその能力を発揮し、正規のルートでスカウトされることに成功した。
宇宙を自在に飛び回ることが出来る彼にとって、肉体を持つ相手など文字通り相手にならない。
だがしかし、彼もまた初めて、この地球上で脅威と呼べる相手に遭遇していた。
(うーん。超能力の彼の話を聞くと、そっちは大丈夫そうなんだよねー。でも、太陽? あの恒星の? そんなもの人間の体に収まりきるのかな? もし本当だとしたら、僕なんてひとたまりもないよ! 溶けて消えてなくなっちゃう!)
こいつはやばい!!
三人はそれぞれに天敵を抱え、動けない状態だった。
そして、もう一つ彼らにとって不確定な要素は、山田 公平と名乗る謎の男。
彼は自分の能力は不明と口走ったが、まさに正体不明だ。
こいつは炎の中で服すら燃えず、領域の中で普通に動き、べぇだの動きを目で追った。
彼らの強者としての勘は、確実に警鐘を鳴らしていた。
(一目見てわかった。侮れない相手だと。こいつはこちらの力を見てなお、一筋も脅威と感じていなかった)
(半信半疑だったがあいつは俺の知覚圏内で普通に動く。絶対に何かある)
(僕、銀行の時にちょっとお仕置きの意味も込めて、握手の時ばちっと弾けようと思ったんだよね。……普通に握手されちゃったけど)
彼ら三人は、それぞれに山田 公平を警戒していた。
その結果、彼の答えに対する反応は全員が沈黙だった。