10
僕は緊張の汗が背中を伝うのを感じていた。
ものすごく見られている。
だけど、まったく僕を見ている彼らは動く気配がなかった。
いうなれば、動きたくても動けない。そう言う感じである。
「?????」
でも動けないなら動けないで、こっちを怖い顔で睨んだまま固まらないでほしいのだけれど。
僕もまたどうすればいいのかわからず、動けないでいた。
今の僕達には、外からのきっかけが必要だった。
都合よくというかなんというか、こういう事態を見計らっていたかのように、そのきっかけは空からやって来る。
「いかんな! 若人達! 君らは考え込むにはまだ若すぎる!」
「!」
ものすごく大きな叫び声は、その場で耳を押さえたくなるほどに僕らの体を揺らし、見上げた時に彼はすぐ僕の頭上にいる。
繰り出された拳を、僕は右手を突出し受け止めた。
猛烈な衝撃波のせいで地面が盛り上がり。土煙の舞う衝撃の中で見たのはとっても濃い恐ろしくでっかいおじさんだった。
彼は拳を突き出したままの姿勢で、僕に話しかけてくる。
「ほう……さすがだね」
「いきなり何するんですか?」
「いや、きっかけさ。どうにも君達は固まってしまっていたようだったからね」
気安く、そう言った彼はいちおう人間ではあるようだった。
スキンヘッドに顎髭の男は、唖然とする僕達にこう名乗る。
「ふむ。初めましての人は初めましてだな! 私はこの学校の校長だ! よろしく頼むぞ青少年たち!」
「「「「はぁ!?」」」」
驚いてはみたものの、僕は彼を知っていた。
彼は僕をこの学校にスカウトした人だ。
いきなり拳の洗礼とともに乱入してきたマッチョ系校長先生は僕達に言った。
「考えるよりまず行動することも大切だ! だが争い合う事ばかりが青春ではないのも確かなことだ! よって君達にはやってもらいたいことがある! 校長権限で、宿題を言い渡す!」
僕達に全うな思考回路が戻る前に、宿題を出してきた校長先生。
先ほどとはまた違う意味で顔を見合わせるクラスメイト達と今なら、心が通じ合っている気がする。
おう……さすが都会の学校は何もかもが先進的なようだった。
そして校長の宿題により、僕らは学外での緊急ミッションと相成ったわけだけれども。
全員がなんとなく勢いに負けてしまった感は否めない。
「……で、なんで俺達はこんなことしてんだ?」
「……さぁな」
「いいんじゃない? 別にボクは無理に戦わなくてもいいと思うけど?」
「ええっと! ようこそいらっしゃいました! ゆっくりしていってね!」
結果僕こと山田 公平の寮の一室は、なんだか即席の集会所と化しています。
みんなして一つの座卓を囲むこの状況、僕はなんだか幸せだ。
一方でさっきまでの確執が残っている三人は、けっこう険悪な空気だった。
「大体ファラオって何だよ? うさんくせぇ。発火能力者じゃダメなのか? なんだ? デュエルか? デュエルがしたいのか?」
「なにを抜かす。超能力者も大概だろうが、なんだ? スプーンが曲げたいのか? 買ってやろうか?」
「まぁまぁお二人さん! そんなに目くじら立てることないじゃない!」
「ああん? 大体お前が一番胡散臭いわ宇宙人」
「そうだ。生息地域は夏場の扇風機の前か?」
「む!」
今にも喧嘩が再会しそうだけど、ここで戦われたらたまらない。
「ええっと。仲良くしようよ。クラスメイトなんだから」
僕はとっておきのお菓子とジュースを全員分用意すると時坂君から睨まれた。
「なんだってお前はそうニコニコしてられるんだ?」
時坂君の態度はとげとげしているけれど、僕は実に複雑な心境で自分の頭をかいた。
「いやー、こんな風に友達を家に呼ぶことなんてなかったもので……」
言っていてむなしくなるが、今までの人生でこんな経験はない。
どんなに怪獣をがんばって倒したところで、友達は増えないのである。
僕は一瞬フラッシュバックした嫌な思い出を振りはらう。
おおっといけないいけない、ここでしょんぼりしたらせっかくの集会が台無しだ。
気を取り直して盛り上げていこうと僕は気合を入れる。
ところがなぜか、僕の台詞に時坂君の方が今度はきょとんとした表情を浮かべていた。
「あーそう言えば、オレもこういうのは初めてか? 最近まで能力開発ばっかりだったからなぁー……」
なんと!
まさかこの悲しみを共有できる相手がいるとは!
「あーそれボクもボクもー! どうしても特殊体質だと、友達ってできにくいよねー!」
うんうんと力強く頷くべぇだ君。
まさかのぼっちトークで話が合うとは、掘り下げるべきかそっとしておくか悩ましい所だ。
だがそんな僕らを、ホルスト君だけが鼻で笑った。
「ふん、さびしい奴らめ」
「なんだ? それじゃあお前友達いるのかよ?」
すかさず時坂君は言うが、ホルスト君は余裕の態度で言った。
「馬鹿を言え、その尺度は王に当てはまらん。下々の物と仲良こよしなど王の沽券に関わるわ」
「やっぱりお前もボッチなんじゃないか」
「……殺すぞ庶民」
「おお? やってみろキングボッチー」
「誰がキングボッチーだ。妙なキャラに仕立てるんじゃぁない、殺すぞ……」
なんだか瞬く間に険悪なムードに戻ってしまった。
なんだか楽しそうだなって思ったことは口には出せないが。二人の掛け合いはテンポがよくて愉快である。
だが同時に僕は思った。やっぱりこの話題あんまり続けても傷口をえぐるだけだと。
僕は何とか別の方向で会話を続けるべく、二人を仲裁した。
「ええっと……喧嘩しないで! こうやって集まったのも何かの縁だよ。仲良くしよう」
「そうそう! 地球人同士で憎みあってるなんて、なんだかとっても小さいよ?」
べぇだ君もそれに乗ってくれ、僕にこっそりウインクしていた。
しばらく睨みあっていた時坂君とホルスト君だったが、同時に舌打ちして僕が用意していたジュースを飲み干した。
「別に怒っちゃいねぇよ」
「このような事で一々腹を立てていられるか」
思わぬ宇宙スケールの仲裁は、宇宙人が言うと妙な説得力がある。
二人もどうにか矛を収めてくれたが、そんな中、大きなため息を吐いた時坂君はトントンと机を叩いて注目を集めた。
「腹を立てる以前にだ。お前ら自覚が足りなくないか? そもそも俺達は全員、敵同士なんだろうが?」
一人寝耳に水と驚いたのは僕だけだったようである。
「ええ!? なんで!?」
衝撃的な情報に僕は声を上げるが、それに対して時坂君は勘弁しろよと頭を抱えた。
「何でって……お前、本気で言ってるのか?」
「う、うん。僕は仲良くしたいなって思ってるんだけど」
こんなに変わった能力を持っている人ばかりが集まる学校なんて他にあるわけない。
共通の価値観もあるみたいだし、仲良くなれるのではないか? というのは入学前からの僕の願望でもあるわけだ。
「それが甘いってんだよ」
「そうだな。そこは、時坂よ。お前の見解は間違っていない」
「えぇ! ホルスト君まで!」
彼の言葉を肯定したのは先ほどまでいがみ合っていたホルスト君だった。
ホルスト君は頬杖を付き、皿の中にあるお菓子を一つつまんでこう言った。
「この学園は要は蠱毒のツボのようなものだ。いつまでも呑気にしてもいられまいよ」
「蠱毒って何? 宇宙人にも分かるように説明して!」
いまいち地球の文化に詳しくなさそうなべぇだ君が一番に手を上げてくれて、実は僕もこっそり助かった。
僕も蠱毒っていうのはあんまり知らない。
ホルスト君は基本面倒見がいいのか、解説してくれた。
「……蠱毒というのは、毒虫を一つのツボの中で戦わせ、猛毒を作り出すという呪術だ。この学園は方々から戦う力のある者を集め、押し込んだ。表向きは、それぞれ違うアプローチで進化を遂げた者達を集めて、更なる進化を促すということだが……お互いを潰し合わせることで究極の一を作り出す。思惑がそこにあれば、穏やかにはいくまい」
「「な、なるほどー」」
僕とべぇだ君は二人してホルスト君の解説に感心して頷いた。
そんな態度の僕らは、時坂君をさらに呆れさせてしまったみたいだった。
「なるほどってな……。はぁ、まあいいか。馬鹿らしい。学園側が仲良くやれってんだから。別に今すぐやり合う必要はねぇわな」
ため息をついて語る時坂君はきっとこの集まりのことを言っているのだろう。
それにホルスト君もニヒルに笑い、頷いた。
「まだ入学初日。時間はこれから山ほどある。それに愚者の思惑通りに私が踊ってやる義理もない」
「……まぁな、別に俺だってあんたらに恨みがあるわけじゃねえ」
軽くため息つきではあったが、時坂君もようやく肩の力を抜いていた。
「そうだよ。やっぱり地球人どうして戦うなんて意味ないしさ」
カラカラ笑うべぇだ君に、時坂君は冗談めかして言った。
「じゃあ、宇宙人のお前は対象外か?」
「えーひどいなぁ。半分は地球人だってばー」
「なんかその物言いは、ひどく不安になるな……お前地球人に寄生するタイプのエイリアンじゃないだろうな?」
「んー。それは後のお楽しみ?」
どうやら僕らの話し合いは無駄ではなかったようで、丸く収まりそうな雰囲気に僕は胸をなでおろした。
だけど突然、時坂君は主に僕の方を見て尋ねた。
「じゃあよ? 戦う気もなく、お前らはどうしてこの学園に来たんだ? 普通に暮らすならこんなところ窮屈そうじゃねぇか?」
本当に不思議そうに聞かれても、そこに大した理由があったわけじゃない。
「僕は、お金も全額免除だっていうし、一人暮らしがしてみたかったからかなぁ……」
ちなみにそれは理由の50パーセントくらいだ。
同じ様な変わった能力を持った人が集まるなら、友達もできるんじゃないかなーというのが本当の理由である。
だがしかしそれを聞いた、三人は三人ともきょとんとした顔をしていた。
「うえー。そこ食いつく奴いたんだな」
「まぁ正直ピンとこん理由だ。生まれてこの方、金に困ったことはない」
「……それもそれで嫌味だぞ? ファラオ野郎」
「黙れ、庶民。お前らとは尺度が違うのだ」
おおう、さすがお金持ちは言う事が違った。
すごいなと思いつつ、僕的にも動機が気になる人はいた。
「えっとそれゃあ。べぇだ君は何でこの学校に?」
僕は自然な流れで尋ねたつもりだったが、ちょっと熱が入っていたかもしれない。
だって、宇宙人が地球の学校に入学する理由なんてすごく興味がある。
するとべぇだ君は不敵に微笑み、勿体をつけてその場で立ち上がる。
「むっふっふ。聞きたいかね? いいでしょう教えましょう……」
「勿体ぶるな、宇宙人」
忌々しそうなホルスト君に対して、べぇだ君はやたら楽しそうクククと笑う。
「えー、いいじゃん楽しいし。僕はねー実はこの星にお嫁さんを探しに来たんだよ!」
「「「!!」」」
そしてべぇだ君はまったく真逆の方向に話題を転換したのである。
僕達は色めき立った。




