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 ホルストは、内心不可解だった。


 なぜ彼女はここに来たのか?そんな些細な疑問の答えをマリーベルはすぐに口に出した。


「あの……私に……力の使い方を、教えてください……」


 そう頭を下げ、再び見上げられた視線にはなにやら必死さが見て取れる。


「ほぅ、なぜ?」


「貴方と私の能力が似ていると貴方は言ったから。私は……その……自分の能力をうまく制御できなくって」


「だろうな。見ていてそうだろうと思ったが」


「どうすればうまく力を扱えるか……わかる?」


「ふむ。わからないではない」


 マリーベルはホルストに向ける目を見開く。


 なるほどと、ある意味では少し納得した。


 想い人を吹き飛ばして、いよいよ焦りが出てきたか。


 おそらくこのマリーベルという女は、戦闘経験もそう多いとは思えない。


 本人の実績のほかにも、潜在能力への期待が大きければ、このクラスの選考基準になると、ホルストは聞いていた。彼女もまたそうなのだろう。


 だがまぁ、勢いどうにかなる的なことを言ったが、ホルストはまだはっきりとその能力を掴んでいるわけではなかった。


 口には出さないが、なんとなく近いものを感じる程度である。


 それでもファラオは曖昧であることなど認めない。


 適当だとかそういう評価は許しがたいからである。


 わずかな不安材料などないものとして無視する。あくまで余裕を持って姿勢を正し、自身満々だと声のハリで主張するこれぞ王の言霊というものだと信じていた。


「では、お前は何を差し出す?」


「え?」


「当然だろう? なぜタダで教えねばならん?」


 そしてけして自分のことを安売りしないのは、ホルストにとって譲れない部分だった。


 しかしマリーベルにしてみればそれは戸惑う答えだったようで戸惑いが目の光に現れていた。


「それは……ごめんなさい。私は貴方に渡せる様なものは持っていない」


「ん? そうなのか」


 目を逸らし自信なく言ったマリーベル。


 彼女の態度にホルストは眉間にしわを寄せる。


 さて、ここで話を終えてもいい。気に食わないところがないわけではないが……馬鹿共の嫉妬の視線も面白い。


 ホルストはしばし彼女に付き合うことにした。


「教えて欲しいというが、お前は何か訓練のようなことをしていたと思ったが?」


「あのままじゃ危ないと思って……大和君にも進められたから」


「ふぅん。そうか、そうか」


 ホルストはうなずく。大和は頼めば訓練くらい多少危険でもつきあうだろう。しかし専門外なのは間違いないだろうし、安全が保障できない。


 わずかでも望みのある方に傾く、ホルストはそういうことだと理解した。


「本当は……自分でどうにかしたいけど。私だけじゃ……どうにもならないから」


「それで我に教えを請うか?」


 尋ねたホルストにマリーベルはコクリと頷いた。


 意外と、はっきり物を主張する。


 ホルストはちらりと男共を確認する。


 真ん中の山田は特にどうと思っているわけでもなさそうだが、他の二人は親の敵でも見るようだ。


 ならばもう少しどちらも等しくからかってみるとしよう。


 ホルストはそう決めると、マリーベルに顔を寄せた。


「そうだな……お前は何もないと言ったがそんなことはあるまい? 少し考える時間をやろう。お前が差し出せるものに興味があれば引き受けてやらないこともないぞ?」


 あえて挑発するようにホルストは言った。


 それはある意味では覚悟を試すための質問でもある。


 どう出るかと楽しみに待っていると、マリーベルは自分の胸に手を当てて、即答した。


「私に差し出せるものなら……なんでも」


 ザワリと動揺した男共が、騒いでいる。


 さてどうしたものか? 決意は固いとは思ってはいたが何でもと来たか。


 だがこういうのは好きではない。


 ホルストは唇をゆがめた。笑みのようだが、ある種の恐怖を感じるようなそんな風にである。


「何でもとはまた、安売りしたものだな。そんなだからダメなのだ。少しは物を考えよ」


「でも……私は何も持っていないし。貴方が何が欲しいかもわからない」


「そんなわけがないんだよ。何も持たない者などいるものか。ただ価値を見出していないのはあきらめているだけだぞ。それではどんな力でも宝の持ち腐れというものだ」


「だったら……どうすればいいの?」


 何もわからないと縮こまるマリーベルに、ホルストは、彼女の目の前に山となってる駄菓子から、一つお気に入りの物を取り上げて、彼女に見せた。


「そうだな。ではこうしよう。お前の持つこの菓子を私によこせ」


「え?……これは私のものじゃない」


「お前のものだ。あいつらがお前をもてなすために用意したんだからな。そして今、私は駄菓子にはまっている。お前にはどうでもいいものかもしれんが、私は欲しい。そしてそれが最も簡単な価値を見出すということだ」


「……それで教えてくれるの?」


「そうだな、ひとまずこの菓子分くらいの手ほどきはしてやろう。そもそも教えられるような話でもないのだからな」


 そう言うとホルストは立ち上がり、店の外へと歩き出した。


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