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「さてあっという間に討ち取ってやっから覚悟しとけよ?」


 ピッチャーは時坂君。周囲の空間をいびつに歪ませているのはプレッシャーの演出だろうか?


 意外にも様になったポーズで、バッターを不敵な笑みで挑発する。


 バッターボックスに立つホルスト君は、炎を体にまとってものすごく燃え上がっている。


 心理的にとかではなく、バットの先までメラメラとだ。


「こいつは相手にもならなさそうだな……」


「ふん、言っているがいい。返り討ちにしてくれるわ」


「ではしまっていこー!」


「はーい」


 ちなみに僕は玉拾いである。


 ちょっと後ろの方過ぎてさびしいけれど、僕も野球初体験なのでここは一つ遠目で確認だけでもしておきたい。


 ピッチャーが振りかぶって――投げた。


「やっぱ野球の主役は――ピッチャーだろ!」


「!」


 ズバン!


 とてもきれいなフォームからの一投は、鋭くキャッチャーミットに吸い込まれた。


「おおーすごいねトッキー! 本当に初めて?」


「もちろん! オレくらいの天才になると見よう見まねでこれくらいのこたぁできるんだよ!」


 にやりと得意満面な時坂君に対して。


 完全に振り遅れたホルスト君は、ものすごい不満そうだった。


「……ちっ」


「おいおいー残念キングー。オレの球見えなかったの? ビビっちゃった? もしかしてビビっちゃったのかな? ぷぷぷ!」


 そして時坂君はやめておけばいいのに、ここぞとばかりにスポーツマンにあるまじき煽りでホルスト君を攻めたてた。


 僕はそう思ったが、なんだかんだ楽しそうな気がするから不思議である。


 ホルスト君の額に青筋が増えていたが、まだまだ口調は穏やかだった。


「……馬鹿を言え。今のは見送ったのだ。次は空の果てまでさよならだ」


「できるかぁ? 無理だと思うけどなぁ?」


「言っていろ。次の一投を投げた瞬間。お前はファラオの偉大さを知ることになる」


 このまま、能力バトルに突入してもおかしくは無いほどの殺気をぶつけ合う二人だが、幸か不幸か、この場はマウンドであった。


「いくぞ……」


 時坂君は腕を大きく振り上げ、渾身の球を投じる。


 しなる腕からはじき出された、先ほどよりも明らかに速い、ストレート。


 前の球速にタイミングを合わせたとしても、まず空振りするに違いない。


「はぁ!」


 だが、ホルスト君のスイングもさきほどの比ではなかった。


 コンパクトなフォームからの素早い振り。


 唸るバットはインパクトの瞬間、チカッと光ったと思ったら熱風がここまで届いた。


「……」


 ボールの姿はない。べぇだ君の構えるミットの中にすらである。


 どうやら完全に燃やされてしまったらしい。


 何の音もせずしばし沈黙した時坂君だったが、すぐに何が起こったのか気が付いていた。


「てめぇ! ホルスト! 能力使いやがったな!」


「ん? 何のことだ? 私の素晴らしいスイングが、摩擦で熱を生んだのだろう。あの手ごたえはホームランだな。どこまで飛んで言ったか知らんが、実際見せられないのが残念でならんよ」


「この……悪びれもせずによく言いやがったな……。まぁいい、じゃあ次だ」


「ふむ。いいだろう」


 僕はある意味驚いていた。


 あれを認めちゃうのか。なんだか意外だ。


 ちなみに、偶然見つけた燃えカスのようなものを回収しておいたが、これを今出すと面倒なことになりそうだ。


 次また、同じことをされたら。かわいそうなボールがまた一つこの世界から消滅するだろう。


 投球モーションに入る時坂君は、投げる瞬間笑う。


「よしこい!」


 スイングに能力を乗せたホルスト君は更に能力を上乗せする。


 炎の塊と化したバットは豪華にボールの軌道を一閃するが――。


 ズバン


 ボールがいい音を立ててミットに突き刺さるのを聞いて、ホルストは驚愕の表情を浮かべた。


「……貴様」


「ん? どうよオレの魔球。それにしても間抜けなフルスイングだったよな?」


 へらりと馬鹿にしたように笑う時坂君。


 ホルスト君のこめかみに青筋が浮かんだ。


 嫌な予感しかしないにらみ合い。


 しかし二人はいきなり襲い掛かるようなことはせず、あくまでバッターボックスとマウンドにこだわるあたり意地を感じた。


「……ふっふっふ。いいだろう挑戦と受け取ったぞ」


「はっは。受けていいのか? 勝負になるとは思えんぜ?」


「笑止! 王に敗北はない!」


「よく言った!」


 場外乱闘というわけではなく、二人はあくまで野球で勝負するようだ。


「仲がいいなぁ……」


「……うぅ」


 ホルスト君と時坂君が白熱して来た頃、ふらふらと僕の方に誰かが歩いてくる。


 それは大和君で、随分全体的にずたぼろだった。


「大丈夫大和君?」


 声をかけると、疲れ果てていた大和君がゾンビのように顔を上げた。


「あ、ああ。これくらいで参ってたら。強くなんてなれないって。でも、喧嘩はやめて欲しいなぁ」


 全体的に後半のほうが本音っぽい感じだった。


 向こうも向こうでかなり嫌な感じに盛り上がっているらしい。


「いい加減にしなさいよ! 手加減できるうちに降参しとかないとどうなってもしらないからね!」


「手加減? うぬぼれないでくれる? あなたごときが死力を尽くしても私の魔法に勝てると思ってるの? 豚にするわよ!」


「……貴女たちやりすぎですよ! おいでなさい! 鬼達! あの二人を止めるのです!」


「……」


 女の子の喧嘩とは思えない。爆音と、生々しい打撃音が響き渡っていた。


 僕と大和君はそこからそっと視線を外してお互いに笑いあった。


「ははは……すごいよな女の子って」


「ははは……そうだね。まぁ仕方がないね」


「ホントに、どうすればいいんだろう?」


 ふと、光のない目で悩む大和君の闇は深そうだった。


 僕は、一先ず話題逸らすことにした。


「でも、けっこう男子もすごいよ? あの野球」


 指差した先には。ホルスト君と時坂君が、ボールとバットを直接投げ合っていた。


 もはや野球の体裁すらなくなって、よい子はけして真似しちゃいけない感じだった。


「……すごいよな。あれって喧嘩なのか?」


「仲がいいんだと思う……憧れる」


「え!? どこら辺に!」


 大和君は本気で驚いていたが、僕にしてみれば友だちとキャッチボールとかしてみたい。


 なんなら投げ合うのがバットでないとダメだというのならそれもまたありである。


「……なんか、闇の深そうな顔してるぞ? 山田?」


「そう? でもアレだけ派手に動いてたらそのうち疲れると思うし、とめなくてもいいと思うよ」


「そ、そうだな」


 まぁその前に野球の球のストックが消えてなくなりそうだけど。


 それでも彼らが疲れるまで、まだ少し時間はありそうだ。


 僕はふと大和君の顔を見て、聞きたいことがあったのを思い出し、何気なく尋ねた。


「そういえば、大和君って今どこに住んでるの?」


「へ?」


 不意を突かれたといった様子の大和君。


 そして、男子にも僕の質問は聞こえていたらしく、ピタリと爆発と、空間のゆがみがなくなる。


 ずばりな質問だったが僕はけっこう悪くないんじゃないかと思っていた。


 みんな難しく考えすぎだと思う。


 案外あっさり聞いたほうが、こういうのは気軽に事情を教えてくれるんじゃないだろうか?


 だけど大和君は、ものすごく気まずそうに視線を彷徨わせていて。


「そ、その……ゴメンな! 言えないんだ!」


 手を合わせて僕に謝ると走っていってしまった。


「……こ、この反応は?」


 どうやらまた、僕は気軽に地雷を踏みぬいたらしい。


 だがすぐにはっとする。


 割りと最悪に近い返答を聞いてしまった今、どうなってしまうのか?


 僕は泣きそうになりながら、野球をしていた三人に視線を向けると、そこにはすごい顔をした時坂君、ホルスト君、べぇだくんがこちらを見ていて。


「……お前すごいな。直に聞くとは思ってなかったわ」


「衝撃の答えがほぼ待っているというのに」


「大丈夫なの? この空気修復可能?」


「……えぇ」


 僕は呻く。


 どの方面からも予想もしていなかった反応で、僕はじっとりと手に汗をかいた。


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