38
「……あぁ、なんつうか、ダメだなオレは」
夥しいアンドロイドの瓦礫の上に時坂は腰をかける。
鉄くずは四角く折りたたまれて、きっちりブロック上にして積み上げられていた。
アレだけ広かった運動場は切り取られ、元の原形すらとどめていないありさまに成り果てていた。
「ちょっと暴れすぎだよなぁ……だって、お前まさかあんなぞろぞろ出てくるとか思わねぇよ。ちょうどよすぎたんだ」
時坂の視線の先には逃げる体勢で固まった男が静止させられていた。
そしてこの恐怖にひきつった名も知らない技術者の表情が、やりすぎた証明でもあった。
「……まぁ引かれるわなぁ。そりゃ」
ホントに何をやっているのかと時坂は笑いが込み上げてきた。
ここまで派手に能力を使えたのだから喜びこそすれ、落ち込むことなど一つもない。
なのに気が晴れないのはなぜなのか。
深く考えてはいけない気がした。
「何を迷うことがある、オレはここに戦いに来たんだ。それは相手がだれであっても変わらない……」
「はぁはぁはぁ……嘘ちょっとこれ、全部あんたがやったの?」
時坂はビクッと普通に身をすくめた。
心臓は口から出そうなほど心拍数は上がっていたが、時坂はつまらなそうな口調で彼女。早乙女かりんに声をかける。
「お、おう。ってか、戻ってきたのか」
「思ったよりも早く終わったから……そっちも思ったより早く片が付いたみたいね」
「思った通りだ。そっちは弱かったのか?」
「ううん……なんか沢山襲ってきたけどいきなりばらばらになった?」
「なんだそれ?」
とは言ったものの時坂にはなんとなく何が起こったのか予想は付いた。
どうせ馬鹿共がこっそり付いていくなりしていたんだろう。
よくわからないで倒すなんて真似ができるのはべぇだか。ひょっとしたら山田が何かしたのかもしれない。
「ともかくまぁお疲れさんだ。すぐさま戻ってくるとは思わなかった。関心関心」
「そりゃあ来るでしょ。透明人間が私とおんなじくらいの怪力アンドロイドにぼこぼこにされるところなんて想像したくないからね」
「そりゃお優しいことで」
時坂は自分の座っている、金属ブロックをコンと軽く蹴った。
能力を黙っていたのは時坂自身である。かけた心配もすべて時坂自身がついた嘘のせいだと自覚はあった。
「でも、この有様だもん。去り際の強がりだったらどうしようかと思ってたけど、あんた相当能力隠してたのね」
「……まぁな」
「こんなすごいことが出来るのに何で秘密にしてんのよ?」
「それは――」
ただ時坂は咄嗟に言葉が出なかった。
俺たちみたいな力に引かないやつはいない。
気にかける必要がないはずの言葉で、言葉をひるがえした理由はつまり……。
言えるわけがなかった。
だから時坂はもったいぶった風を装ってにやりと笑う。
「決まってんだろ? 脳ある鷹は爪を隠すっつってな。ライバル相手にホイホイ能力教えたりはしねぇんだ」
そしてまた嘘をつく。
「そうなんだ。ライバル……ライバルねぇ。私はてっきり覗きの言い訳かとばかり思ってた」
「ノゾイテネェヨ! 自分が見えるところで醜態さらしただけじゃぁねぇか!」
「偶然でも覗きは覗きですー。姿かくしてこそこそしてるから見ちゃいけないものまで見るのよ」
「おいおいおい……良くぞまぁそこまで付け上がってくれちゃってんなぁ」
時坂はさすがに青筋を浮かべるが、そこで気まずそうな顔をした早乙女に気がついた。
「でもまぁいいわ。私も実はあんたに隠してることあるし」
「なんだそれ?」
「実は……私、その、料理とかそんなにうまいわけじゃないのよ。お弁当もあの時初めて作ったくらいで……」
それは……あれだ。さぞ今回の提案は余計なお世話だったことだろう。
軽く考えただけでも、頭が重くなるくらいの罪悪感がわいてくる。
「……まじか。それは余計なお世話だった。正直すまん」
「いいわよ別に。準備期間があったおかげで少しは上達したから。今度学とももう一回ピクニックにはいけそうだしね。あんたのおかげといえばおかげだから」
「……そいつはよかった」
たどたどしく堪える時坂。
言葉を捜し、結局言葉に詰まった早乙女は唇を尖らせる。
「……あー。やっぱなんかあんたと話してると調子狂うみたい」
「オレだってそうだよ。終始調子が狂いっぱなしだよ」
「あんたもそうだったんだ。でもさ……その、こういうのってアレっぽくない?」
ただあまりにもいきなりな早乙女の言葉に時坂の胸は高鳴った。
それはまさか……恋人的な?
いやいちゃまさかこの短期間でそんなこと。でもまさか?
瞬時に脳みその中身で自問自答を繰り返すが、こればかりは答えが出ない。
「アレって……なんだ?」
時坂はつい尋ねた。
早乙女の視線は彷徨い、照れたようにぽつりと言った。
「ほら、その、友達とか、そんなの……」
時坂は思った。
うん。意外とピュア。
だがそう。友達が一番的を射ている。適切な関係だとも言えるのだけれども。
時坂はなんだかばからしくなってきて、肩の力を抜くとへっと笑った。
「そうだな……お前友達いないもんな」
「それ最悪! 最悪の返事じゃないの!」
「ああ、でも。そうだな、オレも友達っぽいなと思ったよ」
「なによ、ひねくれもの」
「そうだな。でもよ……素直になるって相当難しくねぇか」
「そうね。……私がんばるよ。あんたにも助けてもらっちゃったし」
「おお、まぁがんばんな。暇だったらオレもまぁ相談くらいは聞くよ。恋愛相談なんて聞けるほど経験豊富じゃねぇけどな」
なにはなくとも、悪い関係ではない。
これからも相談をされれば答えるし、こっちも困ったことがあったら相談するかもしれない。
それこそが心地いいのだと、時坂はそう言う事にしておいた。




