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「なんだったんだろうか、あの騒ぎは……」


 絶望的に出ていくタイミングを失い、行き場のない気持ちを抱えた男子高校生達。


 自室で血を洗い流したのち、僕らは自棄ジュース会となった。


 校長先生じきじきの宿題だということもあっただろう。自然と集まったのは僕の部屋である。


 おかげで奮発した買い置きのストックは底をついたが、何か大きなものを成し遂げた満足感が僕の中には存在した。


「あれはもう、友達でいいんだよね?」


 僕の家で集まって、話をするように提案してくれた校長先生には感謝である。


 結果、昨日は僕、山田公平にとって、人生の飛躍を感じた一日となった。


 そんな僕が今何をしているかと言えば、日課の朝の散歩だ。


 早朝の冷たくて湿っぽい空気の中を歩いていると、ちょっとだけ朝のけだるい感覚が空気に解けてしまうようだった。


「家では、よく危ないものをやっつけてたものな」


 ほんの数日前まで普通にやっていた日課だが、別の土地でやると懐かしさを感じるのは不思議としか言いようがない。


 しかし改めてぶらぶらと散歩していると、ここはとても変だった。


「本当に……何にもないな」


 普通、何もないとは言ったって、畑があったり小屋の一つもある物だが、この学校の敷地の外には本当に何にもない。


 なまじ最新鋭の建物が敷地の中には密集している事もあって、敷地の外の殺風景がより引き立っていた。


 敷地の中を彷徨っていても、なんだかよくわからない建物が沢山あって気分は社会科見学だ。


「建物は無人って話だよね……本当に人がいそうな建物はないのかな?」


 出来れば、昨日すっかり消費してしまった備蓄の買い出しがしたいのだが、望み薄か。


 あったとしても立ち入り禁止そうだなーなんて思って期待もしていなかったのだが。


「……!????」


 僕はその店を見つけた。


 それはなんというか、開いてさえいなかったが木造の駄菓子屋だったのである。




「というわけなんだ……」


「夢でも見たんじゃないか?」


「いや、たぶん幻じゃなかったと思うんだけど……」


 お昼時、近くに座る大和君に今朝見た事を話してみると、完全に疑われた。


 これでも寝起きはよい方だ。寝ぼけて見間違ったという事はないと思う。


 しかし疑っていた大和君は、すぐにそれを改めてくれた。


「でも面白そうだよな! じゃあ、その店を見に……」


「まーくん! ねぇねぇちょっといい!」


「うお!」


 がばちょと大和君が抱きつかれた。


 とは言っても、僕の方からは大きな帽子しか見えないわけだが、おそらく寸前の様子から察するに、首にガッツリ腕が絡んでいる。


 首っ丈じょうたい、なんちゃって。


 何事かと僕が目をパチクリしていると、抱きついてきた女の子、リオンさんは大和君に更に顔を近づける。


「昨日は話しそびれちゃってさびしかったよー!」


「ちょ、ちょっと待って! リオン! 苦しい!」


「おおっと、ごめんね! ちょっとはしゃぎすぎちゃったみたいかな!」


 大きな帽子の下でてへっと舌を出す彼女の顔を僕は写真でしか見たことがなかった。


 ああ、あの魔女だっていう。


 金髪の下から見える青い瞳は東洋の色に慣れている僕からしてみれば、不思議で神秘的に見えた。


 魔女のリオンさんはやはり、大和君と知り合いみたいである。


「ええっと……お友達ですか?」


 あまりの熱烈な抱擁に、恐る恐る尋ねてしまうと、大和君は苦笑いで頷いた。


「ああ、そうそう、紹介するよ。彼女はリオンって言って、昔、俺の住んでた寺に来てたことがあるんだ」


「リオンちゃんです。よろしくね♪」


「よ、よろしく」


 今まで身近にいなかったノリである。


 どう対応していいかわからずに、僕は微妙な反応になった。


「君ってまーくんの友達?」


 友達……その響きが胸にしみた。


 その言葉をかみ締める僕に、リオンさんは首をかしげる。


「えっと……友達なんでしょ?」


「う、うん! そうだけど!」


「じゃあ私もお昼一緒してもいいよね?」


 そして思わぬ申し出に、僕の胸は盛大に跳ねた。


 そうか、そういうこともあるのかと、手を打ちたくなったくらいである。


 大和君はモテる。彼と話していればこういう事態は極自然なことであろう。


「もちろんだよ……」


「よかった! じゃあお言葉に甘えて――」


 ならばそういうことにもなれる必要があると僕は硬い返事を返す。


 すかさずリオンさんは椅子を引っ張って来たわけだが、完全に収まる前に、後ろから襟首をがっちり拘束されていた。


「……アラ? なにをなさるのかしら?」


「そっちこそ……。なに普通にご飯食べようとしてるのよ」


 拘束したのは、りんごのヘアピンをしたこれまた女の子、早乙女 かりんさんだった。


 早乙女さんはまるで猫の子でも捕まえるみたいに軽々と、女の子とはいえ人間一人を持ち上げている。


 これが噂の改造人間かすごいなぁ。


 感心しながらその光景を見ていたが、それどころではなさそうだ。


「えぇーお昼くらい食べるよー。ちゃんとお友達の許可もとったよー?」


 リオンさんは『ね?』と僕に振ってくる。同時に僕にはギロンと刺すような早乙女さんの視線も追ってきたが、うまいことも言えずに頷くだけだった。


 忌々しげにだが、怒りを飲み込んで早乙女さんは言った。


「……でもそんなのダメ。迷惑でしょ?」


「えぇーそんなことないと思うけど? それともー早乙女さんもまーくんとご飯食べたいの?」


 襟首を捕まれたままなのにクフフと笑って、早乙女さんを挑発するリオンさんに僕は青くなった。


 その瞬間、早乙女さんの目に怒りの炎が灯る。


「まーくんって……いや、別にそんなんじゃないから!」


 そして飛び出すこの期に及んでのツンデレのツンの部分に、僕でさえ顔を覆いたくなった。


 この瞬間口での勝負は決したと言ってしまっていいみたいだ。


「なら、貴女は一人でご飯を食べる。私はまーくんとご飯を食べる。ハイおしまい♪」


「んな!?」


 手を叩き、強引にまとめに掛かるリオンさんに早乙女さんは怒りで顔を真っ赤に染める。


 ああ……どうなってしまうのか?


 はらはらして目だけで右往左往する僕。


 だがその時、特に気負った様子もなく大和君は笑顔で言った。


「そんなこと言わずに、かりんも一緒に食べよう。久しぶりで話したいことも沢山あるんだ」


「「え!」」


 と、2人の女の子から出た同じ台詞は、一人は完全に意表を突かれ、そして一人は喜びの驚きであった。


 あえて波乱を呼び込んでいくスタイル! これは僕でも戦慄した。


「な? リオンもいいだろ? かりんのこと知らないわけでもないんだし」


「え? えーっと……まーくんがいいならいいけどー」


「じゃあ決まりな!」


「……」


 大和君に見えないところで、にやりと笑う早乙女さん。そして頬を膨らませているリオンさんの背後のオーラは獣じみている。


 だが参戦者は、二人ではなかった。


 ランチタイムはまだ始まったばかりなのだ。


「あ、あの! 私も一緒にランチをしてもかまいませんでしょうか!」


 褐色の頬を染めて、決死の覚悟で踏み込んでくるシーラさんが、この嵐の中に飛び込んだのは決死ゆえか、それとも空気を読めなかっただけなのか。


「ああいいよ!」


 そして大和君は気前よく即答して、毒を更にあおっていくスタイルだ。


 僕はさすがに、大和君に一声かけた。


「あ、あの……本当に大丈夫?」


「なにが? ご飯はみんなで食べた方がおいしいって!」


「そ、そうだね」


 そして完璧な一般論は否定することなど出来なかった。一点の曇りもない笑顔で断言されればなおさらである。


 そうして、彼は自らの正義を信じ、また一つ悲劇を呼び込むのである。


 クラスでまだ一人でいる女の子が、彼の目にはさびしそうに見えたのだろう。


 100パーセント善意で、大和君はそのさびしそうに見えた知り合いの女の子に声をかけるわけだ。


「なぁ、よかったらマリーも一緒に行かないか?」


「「「!!!」」」


 三人の女の子は戦慄し、僕はなんかとめた方がいいんじゃないかって気がしてきた。


 今までの娘と違って、とっても気の弱そうな娘である。


 間違ってもこんな戦場では生き残れなさそうだ。


 この空間はいつの間にか大和君を中心として闘志渦巻く戦場……いや、大和君を中心にした狩場へと変貌していた。


 そして気が弱いと思われた女の子もまた、一人のハンターだったのである。


「……よろしくおねがいします」


「ああ! みんないい奴だから俺、絶対仲良くなれると思うんだ!」


「……!」


 大和君の言うことは間違っちゃいない。食事はクラスメイト同士親睦を深めるいいチャンスだ。


 しかしそれは、君一人に全員が惚れこんでいなければの話だ。


 僕は、その瞬間フル回転で頭を回した。


 どう考えても、仲良くとはいかなさそうなんだけれども。


 っていうか、この中でちゃんと食事が出来るのかわからない。


 そして、解決策を思いつく。


 そうだ。女の子ばかりだからダメなんじゃないか? 


 僕には昨日友達になったばかりの、頼もしい助っ人がいるんじゃないかと。


 素早くクラスを探す。そして僕は三人でいる男子を見つけてそこで完全に沈黙した。


「……」


 クッチャクッチャとガムを音を立てて噛む者。


 腕を組み机に足を投げ出して、天井を見つめたまま微動だにしない者。


 鉛筆を占領したゴミ箱でシャッシャッと削り続ける者。


 だが彼らは確実のこちらを捉えていて、視線を送った僕に訴えていた。


 今そこにだけは呼ぶな、なにをするかわからんぞと。


 だくっと噴出した汗をぬぐい、僕は無言で頷く。


 そして僕は――。


「ええっと……そういえば僕、用事を思い出した! 昔の知り合いも多いみたいだし、今回は遠慮させてもらおうかな!」


「ええ! そうなの!?」


 本気で悔しそうにする大和君にはすごく悪いけれども。


 僕も、友達とのランチも女の子とのランチもすごく惜しいけれども!


 それでもどうやらこの場にいるには僕の覚悟はまったく足りないみたいだった。


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