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 ああいけない。僕が余計なことを言ったせいで、男子の中の大和君の評価がおかしなことになってしまった。


 まさかみんながここまで取り乱すとは。


 友達なのにそれはまずい。


 なんとか大和君の株を上げようと僕は慌てて、付け加えた。


「ええっと……クラスメイトだけが彼女になるわけじゃないし」


 だがそれはまったくの逆効果だった。


「お前ここに来るまで外をみなかったのか!? 陸の孤島だぞ!」


「ついでに言うとここにある建物! 各機関の観測機器ばっかだからね! ほとんど無人だよ!」


「怪獣その他もろもろを引きつけ、迎撃する装備も満載だ! 我が社も出資したわ! ここに近寄ってこれるやつなんぞそういるものか!」


「えぇ? ホルスト君、社長さんなの? すごいなぁ……」


「そこは今はどうでもいい! 話の腰を折るな!」


「ご、ごめんなさい!」


 話を逸らす作戦は一蹴されてしまった。僕の方ではほぼ万策尽きた感じだったが、ここで引き下がれるわけもない。


 ダメだこうじゃない。僕は好印象そうなエピソードをひねり出した。


「でもね! ええっと! 僕は大和君と話したんだけど! とってもいい人だったよ! ほらさっきだって、気を失った女の子を保健室に連れていってたし!」


 するとべぇだ君が両手で自分の頭を掴んで、悲鳴じみた叫んだ。


「シーラちゃんでしょ! 彼女があいつの毒牙にかかってなかった唯一の存在だったんじゃないか!!」


 時坂君は、床を見つめて絶望の表情だ。


「へっ……それももう手遅れってわけかよ。……穢れてるわ―」


「すべてにおいて奴が一歩先をいっていたという事だな……策士が。気がついた時にはもう手遅れだ、ここにいる間、我らは常に後塵を拝するしかないわけだ」


 ホルスト君も嘆かわしいと、悲嘆に暮れていた。


 完全に三人は、この場のテンションに飲まれてしまっているようである。


「いやーそんな悪意だらけのとらえ方をしなくても……」


 ああ、でも今のは女の子の話題を少しでも出した僕が馬鹿だった。


 僕の大馬鹿野郎。


 だが後悔してももう遅い。


 訳の分からないテンションになった彼らの視線はちょっと殺気立ち始めていた。


「今わかったよ。このクラスで最大の敵が一体誰なのか……ボクの中の宇宙放射線が、奴を撃ち貫きたがってる」


「はっはっは。そうだな。まぁ新学期早々だが、早すぎるってこたぁねぇよ」


「そうだな。私も戯れに乗ってやるのも一興だという気がしてきたところだ。今奴は保健室か?」


「ちょ、ちょっと待って!」


 慌てて僕は止める。


 だがもう出来上がってしまっている彼らは止まらない。


 ゾンビのような足取りで僕の部屋を出て行った彼らからは、あんまり触れたくないオーラが出ていた。


 そして更に混乱の最中にあった僕に追い討ちをかけるように、ウーウーとけたたましい警報まで鳴り始め、僕はいよいよ涙目になる。


「な、なにこれ!?」


 キョロキョロ周囲を見渡すと、べぇだ君が教えてくれた。


「ああ、これなんか出たね危ないやつが」


「そうなの! じゃあ、止めに行かなきゃ!」


 僕は人生で初めて思った! トラブルさん今出て来てくれてありがとう!と。


 戦うことになれば、同級生に対する嫉妬くらいあっという間に霧散するに違いない。


 寮の外に出るとすでに見えるでっぷりと質量のある怪獣がもうすぐそこまで来ていて、僕は思わず拳を握り締める。


 だけど三人は死んだ魚のような視線をそいつに送ると、軽く準備運動しながらにたりと笑った。


「……まぁ、ちょうどいい肩慣らしだ」


「……そうだな。準備運動にでもなりゃ上等だ」


「……はは! それじゃあ景気づけに派手にいっちゃう?」


「……うぅ」


 ああ、彼らにとって巨大生物の進撃程度、ただの景気づけでしかないらしい。


 僕は人生で初めてというくらい焦った。


 このまま行かせたら、絶対友達がいなくなる!


 それだけは絶対に嫌だ!


 混乱し、正常な判断を失った僕は、体が先に動いた。


 とりあえず出鼻をくじこう!


 僕のひらめきはただそれだけである。そして僕に出来ることなんてコレくらいだった。


 少なくとも、光より早く接敵。


 少なくとも、太陽よりもパワフルに攻撃。


 少なくとも、空間に閉じ込められないように跡形もなく。


「「「!?」」」


 僕は人生で最も迅速に怪獣飛び掛り、怪獣を蹴り上げ。


 おもちゃのように空中に飛んだ怪獣を標的にエネルギーを込めた何かを生成、発射する。


 一瞬で命中したそれは、怪獣に炸裂。


 空中で景気よく弾け飛ぶ。


 血の雨が降る中、僕は両手の拳を握りしめて彼らに精いっぱい呼びかけた。


「……やめようよ。 僕達、友達だろ?」


「「「……お、おう」」」


 僕のその姿を見た彼らは冷や水を浴びせられたように冷静になって、みんなひとまず矛を収めてくれたみたいだった。


 時坂君は僕に尋ねる。


「おい……今、ビーム出してなかったか?」


「えっと! なんか気張ったら出たよ!」


「いや出るわけねーだろ? お前ビームを何だと思ってんだ?」


 そしてホルスト君は怪獣の残骸を見て言った。


「怪獣を蹴り上げる人間も初めて見たな」


「そんなことないよ! やって見れば案外簡単なもんだよ!」


「そうだろうか?」


 更にべぇだ君は僕に質問をした。


「よ、容赦ないね。いつもあんな感じなの?」


「? 怪獣は敵でしょ? 敵は素早くやっつけないと」


「ちなみに……ボクらは敵なのかな?」


「そんなわけないよ! 僕は友達になりたいんだ!」


「「「……」」」


 僕は勢いに任せて本音をぶちまけると、三人は視線を彷徨わせていた。


「いや、オレ達も妙な事で意地になったよ」


「私もどうかしていたな。嫉妬に狂うなど王にあるまじき感情だ」


「う、うん。ついついムキになっちゃったかな?」


 どうにかうまく止めることが出来たようで僕はその場にへたり込み、胸をなでおろした。


「よかった! わかってもらえて!」


 僕は純粋にうれしかったのだが、そこで気が付く。三人の僕に向けられる目はどことなくよそよそしいことにである。


 僕はしまったーと今更ながりに失敗に気が付いていた。


「お前……敵にはマジで容赦ないな」


「本当に能力が正体不明だ。本人に明かすつもりがないというのなら自分で暴く他ないが……」


「一瞬とんでもなく速くなかった?」


 好感度は確実にマイナス。へこむ事実である。


 でもそれでも、すべてを失うよりはよほどいい。


 彼らはとっても強く、まだ挽回の余地はあるはず。


 それに別の混乱は起きてしまったけれど友達が無事なら、それでよしだ。


「こっちだ!」


 ただ、警報が鳴ったからだろう。


 命を狙われていた当人がこの場に駆けつけて来てしまったのは大きな誤算だった。


 不幸中の幸いだったのは、女子も一人、同じく駆けつけてきたことか。


 二人分の人影を見つけた僕らは、前後の会話の流れも手伝って、ささやかな混乱が起きた。


「どうする?」


「ひとまず隠れようよ! 血でドロドロだし……」


「仕方がない。こそこそするのは性に合わんが」


「そうだよ! そうしよう! うん!」


 僕かここぞとばかりに全員を押して、近くの物陰に身を隠し、様子をうかがう。


 やって来たのは予想通り大和君とシーラさんで一面血で真っ赤に染まった怪獣出現エリアに、ドン引きしているみたいである。


「いったい……これは何があったんだ?」


「ひどいですね。……ひょっとするとこの学園の迎撃システムが決着をつけたのかもしれません」


「迎撃システム? そんなのあるのか?」


「え、ええ。この学園は、人以外の物が集まりやすいように色々と工夫を凝らしているんです。ですから対策として武装も施してあると聞いたことがあります。この惨状です、人間がやったとは思えません」


「ああ、残酷すぎるもんな」


 僕はなんだか身を隠していてもざっくり傷ついた。


 我ながらちょっとやりすぎた感はあるけれど、敵なんだからしょうがないと思う。


 堅い話は長くは続かない。


 シーラさんが周りをキョロキョロし始めて、ものすごく周囲を警戒している。


 そう言えば彼女はシャーマンという話だ。


 ひょっとすると目に見えない、まだ潜んでいる脅威に反応しているのかもしれない。


 そう思った僕も周囲を警戒する。だけどシーラさんは、大和君の袖をくいっと引っ張ると、真っ赤な顔で言った。


「あ、あの。先ほどは、本当に申し訳ありませんでした。私は、あの、大和先生に憧れていまして、その、朝の事を恥をかかされたと……だからあんな風にムキになってしまいました」


 たどたどしく泣きそうな顔でしょんぼりするシーラさんに大和君は、気まずそうに一瞬だけ視線をさまよわせていた。


「俺の方こそ、ちょっとムキになりすぎた。でもさ……」


「?」


「今日戦えたこと、俺、無駄じゃなかったと思うんだ。ああいう力ってすごくがんばんないと強い力は借りられないって知ってるんだ、俺。だから姉さんも君みたいな人、好きだと思う。俺も――がんばってるやつは好きだよ」


「!」


「それじゃあ俺、戻って姉さんに報告してくる!」


「え? ええ! えっと……」


 大和君は言いたいことを言って、学校の方に駆けて行ってしまった。


 残されたシーラさんは手を伸ばしたまま固まっていて。


「……ふふっ。変な方!」


 幸せそうに軽い足取りで去って行った。


 残されたのは、怪獣の残骸でどろどろの男共4人組である。


 大和君、君ってやつは……。


 なんでだろうか? ちょっといろんな意味で言葉にならない。


 僕はしかし、一緒に隠れていた面々に視線をやると――。


 ギリッ


 漫画なら嫉妬に狂った同級生とかが出しそうな効果音を出す、男子達を見た。


「……ああ、なんだかなぁ」


 でもひとまず今日この日、共通の連帯感が生まれたのは間違いないことだった。


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