第5話 2人の決断
すいません時間が空いてしまいました。
あの男。エリの父親を名乗っていたが、間違いなくまともに子供を育てるような奴ではない。
オレは見たことがある、あの目を……前世で。
そう、シスターを陵辱していたあのクソ領主だ。
施設長もわかっているみたいだったが、法律ではあの男に親権があるのだろう、無理にこの施設に引き留めておくことは無理だ。
とりあえず詳しく話を聞かないとな……
オレとエリ以外の幼年組が雰囲気の悪さに怯えていたが、なんとか宥めて昼寝の時間に合わせ寝かしつけることができた。
そして待つこと1時間、施設長室の扉が開き3人が部屋から出てきたのだが、その表情は対照的で中でどのような会話が繰り広げられていたのか容易に想像がつく。エリは泣き腫らし目を真っ赤にして、施設長は俯いたまま両手を握りしめているのだ。
男の方はというと、唇の片方を吊り上げ沈んだ表情の二人を見下ろしている。
これは夕食の後みんなで観た時代劇、その劇中で悪代官が悪巧みを成功させた後の嘲笑と同じだ。
しかもオレを一瞥した後勝ち誇ったかのような顔を見せて去っていった。
器が小さすぎる、5歳児に対して何を考えているのやら。
「エリはみんなと一緒にお昼寝しておいで。心配しないでいいからね、エリの嫌な事にはならないよ」
泣いているエリの前にしゃがみ込み髪を優しく撫でながら落ち着かせる。こうするとエリは泣き止んでくれるのだ。信頼してくれているのが伝わってくる。
「施設長、詳しい話を聞かせてください。僕にも何かできるかもしれません」
エリを幼年組2人の横で寝かしつけた後、施設長に事情を聞くことになった。
その施設長によると、エリとあの男が親子なのは間違いないらしい。
日本人の母親と、アメリカに国籍を持つ父親。二人の間に産まれたエリは、生後1年程まで大事に育てられていたらしいのだが、父親の失業を転機に家族生活が崩壊し始めたようだ。
それ以降、真面目に働くことを嫌った父親は、その後も就職しようとせず母親の収入に頼りっきりで当然その生活レベルは最低ランクのものだった。
しかも酒に溺れ、ギャンブルにハマり暴力を振るう。典型的なクソ親父だ。
さすがに母親も嫌気がさし家を出て行くことになるのだが、女手ひとつでまだ小さかったエリを育てるのは無理だと判断し、収入が安定した後迎えに来る事を条件にこの施設にエリを預けることになる。
ここで施設長は万が一迎えに来れなくなることを見越して、棄児だということにしたらしい。いつか実の母が迎えに来ると期待させておいて、それがダメになった時子供の心は壊れかねないからだ。
そして不幸なことにそれは現実になった。
母親が死亡したのだ。
過労死だったらしいのだがその辺りのことを調べた施設長曰く、何者かに仕組まれたようだったと……
母親が働いていた職場への妨害(母親の名前を叫びながら)、住んでいるアパートへ扉を叩きに行ったり等。
おそらく噂が広まり働くことができるのは劣悪な環境しか残っていなかっただろうし、家に帰っても精神的に休まることができない地獄のような日々を送っていたようだ。
そしてその環境がたたり過労死。
愛する娘と過ごす事を夢見て頑張っていたのにもかかわらず……
その話を施設長から聞き終わった時、オレは無意識のうちに泣いていた。
この世界で出会った初めての理不尽な不幸。そして自分への無力感。
悲しさと悔しさがごちゃ混ぜになり涙となって頬を濡らす。
「施設長。その嫌がらせはエリの父親が実行していたのですか?」
「いや、オレも最初はそうだと思っていたんだが、別人だ。なぜそいつがエリの母親に対してそのような行動をとったのかは分からんが……」
「_____証拠等はないのですが、あの父親の意思が介入していたのは間違いないと思います。そしてその目的はエリをもう一度自分の子供として手に入れる為。母親が生きていれば親権は間違いなく母親にあるでしょうから」
「うむ、あの男のエリを見る目つきは異常だったからな、執着というだけでは生温いものがあった」
「ええ、問題はあの父親が何かしたという証拠が何もない今。日本の民法上エリをこの施設に留めておける強制力はないということですね。ちなみにエリ施設を出るのはいつの予定ですか?」
「色々と手続き等が終わって、一週間後だ……」
予想以上に早いな……外国に連れて行かれたらお手上げになる、その前にどうにかしなければ。
「親父殿……その前にあの父親に育児能力がない事を証明しましょう、エリをあんな奴に渡せません!どうかお願いします!」
オレは座っていたソファセットのテーブルに頭を打ち付け頼み込んだ。
オレが出来る事ならなんでもする、命をかけても構わない。血は繋がっていないがエリはオレの妹のような存在になっている。
いくら頭が回ろうともオレは5歳の幼児でしかない、大人の力必要なのだ。
しばらくそのままでいると、施設長の大きな手がオレの頭を優しく包み込みこむ。
「太陽……お前はやっぱりすげえな……オレが今まで生きて出会った人間の中で一番男前だよ。ホントこんな話を真面目に話せる5歳児なんて後にも先にも太陽だけだよ」
顔を上げ見上げた施設長の顔は誇らしげで、なぜかオレの中の正義感にがっしりと芯が通ったような気がした。
「とりあえず、お世話になってる弁護士の先生に相談しないとな。何か法律の抜け穴みたいなもんがあるかもしれねえ、やれる事は全部試してみる! ほらっ、太陽はお昼寝の時間だろ、何か進展があったら教えてやるから」
強引に布団に寝かせられたオレは、5歳児の身体欲求に逆らうことができず眠りに落ちていった。




