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3話 「浅い深海」 後編

 グレンの答えに驚きのあまり言葉がでない三人であったが、そのうち臨戦態勢を解いた。そしてアクリアだけは質問した責任もあるという二人の視線を感じて会話を継ぐ。


 「(二人の視線が痛い…)えっと、その…なにが、あったのですか?」


 アクリアはなんとか言葉を発することが出来た。


 グレンは周りがそんな状態であるにも関わらず、特に気にせず答えた。


 「悪いけど、詳しいことは言えない。…でも、本当のことさ。」


 「おい、グレン。2つ聞くぞ。」


 アクリアの言葉を待たずランスロットは割り込んできた。


 割り込んできたランスロットは内心はなんとか冷静になることが出来て、考えごとをするまでにはなっていた。ランスロットはグレンのことをほとんど知らない。知っているといえばせいぜい子供であること、殺しに慣れていること、才能があることぐらいだ。軍に入る前のことは全く知らなかった。

だからこの機会にどんどん聞いていこうと思った。今のグレンは油断をしている。そう思えるほど口が軽かったのだから。


 「ひとつめ、お前はどうやって竜の血を取り込んだのか。ふたつめ、そもそも狂化するはずの「呪い」を受けてなぜ平然としていられる。」


 ランスロットの重点を絞った質問にグレンは少し考えてから答えた。


 「まず、竜の血だけど、これは気付いたら取り込まれていた。たぶん竜が分け与えてくれたんだと思う。」


 ひとつめの答えからランスロットが自分自身に向かって憤慨しなければ言葉にだしてしまうようなものだった。それぐらいどうしようもなく、また感情の行き場がないほどに有り得なかった。


 「(ふざけるな!気高い竜が人のために力を貸すのは彼らに認められるか、それこそ幼子のころから共に歩んでこなければ無理だ。そして自らの命を他人に分け与えることができるようなすべを持つ竜は竜王か、最悪竜神ぐらいだぞ!)」


 アクリアも同じ考えに達したのか見るからに狼狽えていた。


 その様子を見かねたグレンは当たらずとも遠からずなことを言う。

 

 「たしかに竜が無償で命を分け与えるのはおかしいよな。…でもこれは、よくわからないんだが、一応俺がその竜の命を助けたらしいんだ。らしいってのは、一回気を失って、目が覚めたら全てが終わっていたからよくわからないんだ。」


 グレンの説明はちぐはぐだった。そして曖昧だった。それでは嘘だといっているようなものだが、ランスロットにとってグレンがそこまでなにかを思い出そうと必死になる様子は初めて見た。だからランスロットもその話を、竜に認められたと仮定して、とりあえず信じることにした。


 「なら、その竜が戦っていた相手はなんだったんだ?竜は基本的に強い。しかし、その竜が苦戦をして、なおかつ人間の助けを借りる程度で勝てる相手だったのか。もしくは竜が怪我などをして弱っていた場合もあり得るが。とにかくお前は竜に認められるような行動が出来る相手と戦ったんだろ?」


 ランスロットは畳み掛ける。いま、グレンは言葉を選んでいる。しかし、慣れていないが故に綻びが出てくるのだ。その隙をついて、ランスロットはグレンの過去を見出そうとしていた。恐らくこの話は今のグレンを形作っているもののひとつなのだろうから。


 グレンは突然、遠い目をした。先ほどランスロットが先ほどグレンに目指しているモノはなんなのかと聞いた時と同じような雰囲気を醸し出していることに気づく。


 グレンの表情は怒りのような、しかし、悲しそうな顔だった。そんな顔をして口から絞り出すように言った。


 「……俺が戦ったのは、「邪神」だよ。名は邪神オプルスクニル。厄災の神さ。」


 「「!!!」」


 アクリアと執事はもう驚くことしかできない。ランスロットも、また、理解したくない現実を見ようとしていたのだ。


 「なん…だと・・・まさか!!お前の右手の呪いは…」


 ランスロットは気づく。グレンの右手には呪いが罹っていることに。


 「そのまさかだよ、ランスロット。俺の右手には本当に邪神の呪いが掛かっているんだよ。」


 三人は絶句した。その意味も理不尽さも知っているから。その中でアクリアは椅子の背もたれに身体を預けた。


 アクリアはもうこれ以上続けたくないという気持ちにもなっていた。彼女は優しかったのだ。だからこれ以上グレンのつらい過去を思い出させることはしたくないとも思った。しかしランスロットには後一つだけなんとしても聞きださなければならないことがあった。


 「なら…お前はその呪いを制御出来ているのか?」


 最後の質問。それは暗に邪神の呪いによって暴走するのかと聞いていた。


 呪い。それは魔物を魔物足らしめているもの。呪いに掛かったら最後、理性を失い、殺戮に快楽を見出す。その目にはもうかって親しい真柄の人間は見えていない。思えばグレンが人殺しに躊躇がないのもこれが影響していたのかもしれない。


 そして、邪神の呪いともなれば、その効果は比ではないはず。本来は体全体を侵食してしまうほどの呪力を持っており、そこらの呪いとは訳が違うのだ。ましてや制御するなんて簡単なものじゃない。右手だけ侵食されていようがとてつもない痛みと苦しみと絶望が襲ってくる。そして楽になろうと主導権を渡したが最後、その人間は魔物に成り果ててしまう。

過去に邪神の呪いを受けた人間が街一つを滅ぼしたという伝承さえあるのだ。

そんな恐ろしいものをグレンは制御出来ていると言った。だからランスロットは明確な理由を求めた。


 ランスロットの真剣な気持ちにグレンは今度は迷うことなくはっきり言った。


 「制御できるさ。俺は昔一度だけ暴走した。その時に当時一緒にいた師匠が命を賭けて止めてくれた。それからは師匠が教えてくれた方法で少しずつ制御できるようになった。いまではその気になれば闇の力を刀に付与して打ち出すことも出来る。」


 成程。ランスロットはようやく理解した。グレンが何故歳に見合わず達観しているのか。それはすでに死を、壁を乗り越えていたからか。強いわけだ。


 「ならば、最後にもう一つだけ。なぜ邪神の呪いが右手だけに留まった。お前自身に特別な力でもあったのか?」


 「いや、なかった。というか、俺の考えはみんなが考えているのとは逆だ。俺は邪神の呪いに掛かった。けれど、その時に竜が邪神の呪いを抑えるために、命を分け与えてくれたのだと思っってる。」


 「そうか・・・すまないな。いろいろ聞いて。」


 「気にすることはない。答えられる範囲で答えたまでだ。」


 「・・・。」


 ランスロットはこれ以上聞き出せることはなにもないと悟った。そしてアクリアのほうを向き、無言で催促した。


 アクリアはなかなか立ち直れなかったが、意を決したのかグレンのほうをしっかりと見据え言った。


 「あなたの力はわかりました。竜と邪の力。…本当に怖いものですね。」


 「それは自分でもわかっている。でも言ったところで今すぐ罰をうけるわけじゃないだろう。だから国が俺の力を必要としている間は仕えるさ。」


 グレンは普段からは想像も付かない程しっかりと大局を見据えていた。


 「そうですね。私としても、あなたたちは惜しい人材ですし。なんなら、この戦争が終わったら魔法研究院で働いてみませんか?少なくとも安全は保障しますよ。」


 アクリアはふと、彼らの力を有効に使えないかと考えた。


 「いや、俺は戦いのなかで生きていく方が性に合っているよ。」


 しかし、グレンはそれを一蹴した。


 「そうですか、残念ですね…。」


 アクリアは残念そうにしていたが気を取り直して次にランスロットを見た。


 「あなたのこともお聞きたいところですが、グレンの異常さのせいで何を言っても霞んでしまうでしょうね。だから、あなたのことは聞かないで上げましょう。「家」のことも関係してくるでしょうしね。」


 「っ!…分かりました。」


 ランスロットは「家」という単語に反応したが、思うところがあってもおとなしく従った。それを見届けたアクリアは軽く伸びをしてお開きにする。


 「さてっ、今日はこのあたりでお開きにしましょう。ごめんなさいね、いろいろと聞いてしまって。でもあなたたちのことは悪いようにしないわ。だってあなたたちは「英雄」なんだからね。」


 そう言って片目をつぶると、アクリアは執事に指示して、グレンとランスロットにお菓子を詰め合わせた袋を渡した。


 そして執事が扉を開けたので、二人はそこから出ていく。出ていく際に二人は感謝の言葉を述べていった。




 「竜人と邪神の呪い…か。」


 アクリアはいま聞いた内容を上層の連中にどう伝えればいいのか悩んでいた。


 「御主人様。私としては、彼らは最重要危険人物として報告した方が良いかと思われます。ランスロット様は非常に生き急いでいるようですし、グレン様に至っては、国を滅ぼせる可能性もあります。」


 「そうよね。でも、それでも私は彼らに最後まで戦場にいて欲しいと願っているわ。」


 「と、おっしゃいますと?」


 「見てみたいのよね。この戦争に負けた後の、彼らの人生を。」


 「っ!。私はなにも聞いておりません。しかし、どこに角が立っているか分からない故に気をつけてくだされ。」


 「わかっています。さて、そろそろここから去らなければなりませんね。なにしろ敵の大群が攻めて来そうですもの。後は彼らの無事を祈るとしましょう。」


 「はい、お嬢様。」




 グレンとランスロットが家から出ると周囲の景色は完全に黄金色に染まっていた。ずいぶんと長い間話し込んでいたようだった。どちらからともなく二人は歩き始める。


 「なあ、ランスロット。」


 「なんだ。」


 ある程度歩いたところでグレンがランスロットに今日の疑問をぶつける。


 「お前は俺のことを聞いてどう思った?」


 「随分と直球だな。…そうだな、正直恐ろしくもあるよ。」


 そして焦燥感もな。


 「そうか…」


 「だが、お前とはこの先もやっていくさ。」


 「そうか、分かった。ありがとな。」


 そして会話は途絶える。


 そしてランスロットの住んでいる部屋の前にたどり着くと、二人は「じゃあな。」と手を挙げて別れていった。


 グレンを見送ったランスロットは、ひとつ理解した。それはさっきの会話から分かったことだ。グレンは最初に詳しいことは話せないと言った。しかし、会話が進んでいくうちに秘密にしていることまで喋っていた。それは詳しいことではないのかと思ったが、グレンは肝心なところは話していなかった。


 それは、いつどこで起こり、なにがどうなって、こうなった。の内、「こうなった」ことしか話していない。つまり、結果だけしか話していなかった。グレンにとっての詳しいことは全く話していなかったのだ。そう理解したので、ランスロットはグレンを見直した。


 「(お前には、人には絶対言えない過去があるのだな。俺と同じように。)」


 そう結論づけるとランスロットは部屋の扉を開け、中に入っていった。


会話だけでここまで長くなりすぎたことは反省している。しかし、ここの部分はどうしても入れなければならなかったので後悔はしていない。

ちなみにグレンの過去は2つありますが、本編では片方しかやらないと思います。

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