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4話 「鋼鉄の軍馬」 前編

今回は機械派の視点から

追記 ルビを振りました。

1189年 冬 アイリ・スタ国 中央部


 「ファイアーボール!」

 「サンダーアロー!」

 「エアロストーム!!」


 三人の魔法使いがそれぞれ魔法を唱える。その視線の先には一機のCTRが突っ込んできているのが見て取れる。まず雷の矢がCTRを貫こうと宙を飛翔する。それをCTRは感知して右に避けてかわす。その場所にあらかじめ放っていた火の弾がCTRの目の前の地面にちょうど着弾する。爆発に飲まれたCTRの装甲はボロボロになったがそれでも前進することをやめなかった。しかし、必中の距離まで詰め寄ったところで風で出来た砲弾の直撃を受けた。風の砲弾はCTRを胸から裂いて突き抜けていき、機体が中の人間ごと切り刻まれてバラバラになった。


 バラバラになって鉄の塊となったCTRと同様の光景が三人の前にはいくつもあった。


 「俺たちにかかれば、CTRなんぞ敵ではないな。」


 「ああ、俺たち三人なら戦争にも勝てるぞ!」


 「むっ、また獲物がきたぞ!」


 そう風の魔法を使った魔法使いが言って見ていた先には、遠くから一機のCTRが推進器を吹かして近づいてきているところだった。その機体は今までのCTRとはところどころ違っている。装甲はところどころ削られていて、推進器の数が増えていた。特に、今までのCTRは全身を灰色で塗られていて無骨な印象を受けていたが今回の獲物は黒一色だった。


 「もしかすると、偉い奴の機体かもしれねぇ。」


 雷を放った魔法使いはそう見当をつける。それをうけて炎を放った魔法使いが催促する。 


 「なら、あれを倒すぞ。そして名を挙げるぜ。」


 「わかった。作戦はいつもどおりだ、いくぞぉ!!」


 三人はそれぞれ自分の得意な魔法を唱える。まず雷の矢が黒いCTR目掛けて飛翔する。その矢に対して黒いCTRは左手に持っていた盾を正面に構えて速度を緩めず、突っ込んだ。


 雷の矢は盾に当たると、強烈な火花を散らして周囲を一瞬真っ白な世界へと変えるが、すぐに消え去った。しかし、CTRは盾とともに健在で雷に構わずに突っ込んできた。


 「んなばかな。CTRの装甲を貫ける矢を防ぎやがった!」


 「次は俺だ!」


 次に飛来したのは火の弾。それはさきほどと同じようにCTRの目の前に着弾するよう調整して高速移動中のCTRに向けてはなった。しかし、それを黒いCTRは一度右足で地面を踏み込むと、推進器の力も使って真上に跳躍することで回避した。火の玉はCTRのいなくなった地表に炸裂し、爆発した。


 跳躍し終えたCTRは着弾した場所より前方に着地した。その際、荷重を軽減するためにサスペンションが働き、足回りから排気煙が出た。それを煙幕代わりにして三人の魔法使いに一瞬の迷いを生ませてから煙を突っ切って黒いCTRは再び加速した。


 そこへ狙っていたかのように最後の風の砲弾が黒いCTRに直撃した。


 「やったか!」


 暴風がCTRがいた場所の周りに吹き荒れていて確認できない。しかし魔法使いは倒せたと思った。


 風が止んだ後、思いも空しく黒いCTRは健在だった。黒いCTRは風の砲弾が直撃する直前に右手で剣を抜き、魔法の中心を切ったのだ。切った剣には魔力が纏わっていて、その魔力で風の魔法を相殺していたのだ。そのため、その余波で周囲に風が吹きすさぶっただけだったのだ。


 悠然と佇んでいる黒いCTRを見て三人は恐怖した。


 「なんなんだよ、あれは!」


 「ば、化け物だ!」


 「おい、逃げるぞ!」


 三人が黒いCTRに背を向けてでも逃げ出そうとすると、再び黒いCTRは動き出した。そして肩に搭載されているロケットランチャーを三人に狙いを定める。


 「ひぃぃぃ!!」


 黒いCTRはまずロケットランチャーを発射し、それは曲芸のように宙を踊りながら三人の周囲に着弾した。その爆風で一人、破片を全身に浴び肉体ごと吹き飛んだ。それを確認してから、左手に持っていた盾を投げ捨て、背後に格納してあったライフルを取り出し、残りの二人に照準を合わせた。


 二人は魔力を使って身体能力を強化し、上下左右に動いて逃げ回っている。その片方に黒いCTRは照準を合わせて、跳躍後の硬直時間の際に発砲する。運悪く跳躍後のタイミングを狙われた一人は胸から弾丸が突き抜けふわりと地面に倒れる。そしてそのまま動かぬ骸となった。


 「くそっ、くそっ、くそぉぉぉ!!」


 残った一人は必死に走っているが、黒いCTRはそれを意にも介さず背後の推進器を最大まで吹かした。膨大な推進力で最後の一人まで迫ると右手の剣を斜め下に傾け、最後の一歩を踏み出すと同時に残った一人を背後から切り裂いた。切り裂かれた一人は身体を斜めに切り裂かれ臓物をまき散らして倒れた。


 三人の肉塊を無視して一連の動作を終えた黒いCTRは即座にライフルを背後に格納し、来た道を戻って投げ捨てた盾を回収し、またどこかへ去って行った。




 第五次中央部攻防戦は機械派の勝利で終わった。それに一役を買ったのが黒い塗装を施されたCTRの一団。彼らは全機で十二機の一個中隊もどきで行動をしている部隊だった。彼ら一人一人の技量は凄まじく、並み居る魔法使いたちをものともせず、蹴散らして勝利に貢献した。彼らは「スレイプニル隊」と呼ばれ、数々の魔法使いを倒してきたことで魔法派から恐れられているのだった。




 一機のCTRが機械派の基地へ帰還する。その機体は戦場の血を浴びすぎて黒い塗装に赤いペイントを乱雑に塗ったような姿だった。

そして基地の一角にある格納庫に入ると、整備員たちが出迎えるので、彼らの誘導に従い、縦に備え付けられている安置台のひとつにくくりつけられる。その機体の周囲には黒で統一された同じ塗装の機体がいくつも並んでいた。そこでようやく役目を終えたCTRは目の光を消して物言わなくなる。そして中央部分のでっぱりが押しあがり、コクピットの中からしわが目立ち始めた一人の男が出てきた。彼の名前はジンテツ・オンワ。このスレイプニル隊の隊長を務め、齢50を迎えた老人の仲間入りをしそうな風貌を持っている男だった。


 「隊長っ!!」


 そう私を呼ぶ青年の声が聞こえる。彼は私が見出した部下で、この戦争にて頭角を現し始めている、非常に将来が有望な青年だ。しかし、いまだ私への依存が抜けなく、こうして最後に帰還した私をねぎらうようにそばまで寄ってくる。


 「御無事でしたか。あなたが帰ってこなかったらと、心配しましたよ。」


 「ふむ、私がそう簡単倒れては、隊の名折れであろう。しかし、こうも体を動かすことがつらくなるとは。いい加減引退を考えねばならんな。」


 そう言って、腰をさする。


 「それは、ありえません。隊長はまだまだ現役です。自分も付いて行きますので。」


 「むむ、またひとつ余生の楽しみが減ったようじゃ。」


 ひそかな楽しみが奪われつつある男は開いたでっぱりの部分から昇降機を出し、青年の元まで下りていく。そうして、青年の相手によく分からない熱意をがこもった話に付き合いながら作戦本部室まで向かう。そこで今日の戦果を報告した。といっても、彼の階級は准将、中隊以下の部隊を指揮するには分不相応だが彼自身が前線を希望していたため厄介払いとして収まっていた。しかし、彼を指揮する役職の人間は迷惑極まりなかった。今も戦果を報告しているジンテツより聞いている参謀の方が委縮しており、ジンテツの去り際には参謀の方から敬礼をしていた。それを日常として終えると今度は搭乗者待機所に向かう。


 待機所の扉を開けると、そこには自分の部下である10人しかいなかった。しかし、彼らはお互いに顔をほころばせながらこちらへとやってきた。


 「准将閣下!よくぞ無事で戻りました。」


 そう代表して答えたのが、この隊唯一女性である、レイラだった。彼女も先ほどの青年と同じように非常に将来が有望だ。ただ、彼女は前線を希望しているが。


 「うむ。今日もよくぞ全員無事に戻ってくれた。感謝するぞ。」


 そういうと、全員が「はっ!」と敬礼をした。


 そして張りつめた空気が自然と緩み隊員同士で談笑し始めた。


 「いや~、今日も疲れたぜ。ビールでも飲みにいくか!」


 「そうだな。あれだけの数を相手にするのは骨が折れたよ。」


 「そういえば、あんた背後から魔法を撃ち込まれそうだったんじゃない~。」


 「うっ、うるさい!レイラ。あれは敵の作戦であって、決して油断していたわけじゃないぞ!」


 「はいはい。助けてあげたのだから感謝ぐらいして欲しいものね。」


 「グラバス、貴様はまた活躍したそうじゃないか。」


 「いや、皆さんのおかげだよ。今日はちょっと敵が多かったからね。」


 「ほとんどお前がやった…」


 「そうだぜ。俺たちなんかチームでやっているのにお前だけ単独で大群を相手にしていたんだから。」


 彼らは私の言葉が終わるや否や、砕けた調子で今日の戦闘を振り返っている。私はそれでいいと思う。軍であろうと、最低限の規律は守れれば、あとは自由にしていい。そうすることで隊内の連携がうまくいくようになる。私はそう教えてきた。ここにいる教え子たち全員に。 


 そう感傷に浸っていると先ほど私を慕っていた青年であるグラバスが私に今日の戦果を聞いてきた。


 「たしか隊長は「トライフォース」を倒したって話ですよね。二つ名を持つ魔法使いをあっさり倒せるなんてすごいですよ!」


 「ああ、味方の損害がひどいところに駆けつけたら、そんな相手とも戦ったな。あいつらは見事な連携でかかってきた。しかし、所詮は砲台の役目しか果たせていなかったことがあだとなっていた。最初の一撃をしのげさえすれば勝機はこっちのものだったからな。」


 「あー、なんだかすごいことだけど、隊長閣下がやったとなると普通に見えてくるわ。」


 「そうですね。准将閣下を相手に生き残れるような魔法使いなんていませんからね。さすがは「鋼騎」と呼ばれるだけはあります。」


 隊員たちが隊長を褒めちぎる。それほどまでジンテツは強かった。しかし、


 「いや、それは言いすぎだろう。なにせ、今回あの戦場には「紅い死神」や「銀騎士」がいなかったのだから。彼を倒せたら名乗り出てもいいだろうな。」


 「紅い死神」という言葉を聞いてすべての隊員が息を呑む。


 今私が口にした言葉の中の「紅い死神」に反応したのだろう。それは至極当然のことだ。彼は我々の兵器を数多く破壊してきた。その中には、CTRが百機程も含まれる。たかが百機。されど百機。CTRは魔法使い数十人分ともいわれている。それほどまで無敵をほこり、しかし絶対数に限りがあるCTRをたった二,三カ月で無に帰してしまった。そんな化け物を信じるのは、無理だろう。なにせ、実際に姿を見た連中のほとんどが帰ってこなかった。それでついた二つ名が「死神」。そして彼の象徴である炎の魔法を扱い、戦場を血に染めることからついたのが「紅い死神」となったのだ。


 「しかし、隊長。自分達十二名が共同で戦えば勝てなくもないのでは?相手は一人で戦っているのでしょう?」


 グラバスが当たり前の質問を投げかけてきた。たしかに一般的な魔法使いや名有りの魔法使いでも一人ならば勝てるだろう。だがジンテツは言葉を濁した。


 「わからんな。なにしろ奴は、一個大隊を前にしても退かなかったと言われている。」


 「お、恐ろしい…、ほんとにそんな奴がいるのか?」


 「でも、実際にこちらの被害が馬鹿にならないのだから信じざるをえないよね…」


 「戦場で会ったら逃げちまうかもしれねえ。」


 隊員たちは目に見えない恐怖に取り憑かれてしまって勢いがみるみると無くなっていく。


 「まったく・・・戦いに勝ったというのに、辛気臭いぞ。」


 隊員達は活を入れた隊長である私の言葉に耳を傾ける。


 「今日は私のおごりだ。存分に飲んで気分を張らせ!!良いか?」


 「えっ・・・、やっ、やったー!!」


 そう言うと、さっきまでの雰囲気は嘘のように吹き飛んで、場は盛り上がった。


 そうして彼らは待機所を後にして、酒場へと足を向けた。


 後日ジンテツは貯蓄していた貯金までも使うおごりに少し後悔した。


 「次からは親父にストック分は頼めないように言っておくか。」


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