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28 帰還と目立ちたがり

 

 ちょこちょこ会話をしながら地上を目指して階層を上がっていったところ、中層の12に到着したところでギルドの救助隊と遭遇した。

 おそらく私が連絡したことでギルドから救助隊が派遣されたんだと思うんだけど、それにちょうど遭遇したっぽい。

 

「この状況での救助活動、ありがとうございます」

「そちらもご苦労様です」


 救助隊の1人が私たちに気づいたようで近づいてきて声をかけてきたので返事をする。

 しかし、いつもならもう少し人数が多いんだけど、3人だけってことは相当急いで来たってことなのかな。


 女性の救助隊が2人、男性が1人ってことは女性の救助隊が担架で女性を運ぶ役で、男性の救助隊は護衛という割り振りなんだろうか。担架で運ぶなら似た身長の人が良いから多分そうだよね。


「えっと、そちらの方が今回緊急信号を出した方でしょうか」

「あ、はいそうです」


 残りの2人が少し離れたところでここまで持って来たらしい担架を広げているので、ここから救助隊が女性の輸送をするつもりなんだろう。


「あの、できればでいいんだけど、話すなら降ろしてもらえると」

「そうだった、ごめんなさい」


 女性を担いだまま救助隊の対応をしていたことで彼女が申し訳なさそうにそう口に出した。

 担いでいる時の彼女の体勢って頭が私の背中側になるから、救助隊の人から見ると結構アレな状態なんだよね。一応救助隊の人は女性だったからまだましではあるんだけど、彼女を降ろしてから対応すればよかったな。申し訳ないことしてしまった。


「それなら担架の上に降ろしてもらえると助かります」

「あー、そうですね。それで大丈夫ですか?」


 救助隊の言葉に応えつつ、担いでいる女性にそれで問題ないかの確認をする。担架で輸送してもらった方がいいのは間違いないけど、中には担架に乗せられるのが嫌な人もいるから一応確認をしておく。


「大丈夫。ありがとう」


 女性が了承したので担架を持ってきていた救助隊に彼女を託し、私も救助隊に続いて地上に向かう。


 私一人ならさっさと地上に戻ることもできるけど、さすがにこの状況で一人だけ先に戻るのはどうかと思うし。護衛をするほどでもないけど、周囲を警戒しながらついていくことにしよう。



 中層上層は下層や深層に比べてダンジョン内の変化があまりなかったため、道中何事もなく地上まで戻ることができたのだが、ダンジョンから出ようとしたところでダンジョンの出入り口から少し離れた場所には規制線が張られていて、その向こうには結構な数の人が詰めかけていたのが見えた。


 うーむ。ギルドからも緊急のお知らせが出ているだろうし、大半はそれを確認しに来た野次馬なんだろうけどよくこんなところまで来るよね。ギルドはちゃんとあるけど、結構辺鄙なところにあるんだよ樹海ダンジョンって。

 それにまだ調査が始まっているわけでもないし、今ここに来たところで何が分かるわけでもないんだけどなぁ。


「ん? うわぁ」


 物好きが多いなぁって人込みの中を観察していたら、いくつかテレビ局のロゴが張られている大型カメラを構えている人が見えた。

 今まで記録にないタイミングでダンジョンが変質し始めたから、その取材に来たんだろうけど、今のテレビ局ってあまり良い印象はないんだよね。


 ちゃんとしているところはちゃんとしているんだけど、一部は強引な行動というか取材をしてくることが多くて関わりたくないんだよね。

 しかも一番こちら側にあるカメラにあるロゴあそこは悪評も多いところだし、気づかれる前にさっさと建物の中に移動しないと。


「それじゃあ、ギルドの救護室へ行きましょうか」


 少しでも早くあちらの目に映らないうちに、出入り口の近くでせわしなく動いているギルド職員の人たちに紛れて移動しようと救助隊の人を急かすために声をかける。 


「え、あ。えっと」


 私がそう声をかけたところで先導していた救助隊の男性が視線をカメラのある方に移動させ、歯切れの悪い声を出しながら後ろに続く担架の進路を塞ぐように足を止めた。


「ん?」


 そうしてそんな声を出したのか、そうしてそんな邪魔になる位置で足を止めたのか、不自然すぎる反応をした彼に視線を送るとなぜか嬉しそうな表情でこちらへ振り返ってきた。


「これってカメラの前に行った方がいいんですよね?」

「はい?」

「え?」

「なんで?」

 

 その人の発言に私だけでなく他の救助隊の人も理解できないといった声を上げた。


 怪我をしている人を運んでいるのに、どうしてその方がいいという考えになるのか。解毒ポーションで回復してきているとはいえ怪我人を少しでも早く安静にできる場所まで移動させないといけないのに、どうして無駄に時間がとられる場所に行く必要があるのか。


「はぁ、行きたいなら一人で行って来て。私たちはこの人を運んでおくから」


 担架を運んでいた女性の片方が吐き捨てるようにそうこぼした。なんだか棘のある言い方だけど、これには完全に同意である。


 ただ、『行った方がいいんですよね?』という言い方が少しだけ気になる。何か誰かからそうした方がいいってアドバイスをもらったような発言だし。まあ、気になるだけでどうでもいいんだけども。


「え」


 完全にスルーされることを想定していなかったのか、呆けた顔でそう声を漏らした男性の横を担架を運んでいる2人が通りすぎる。私もそれに続いてギルドの建物の中に駆け込んだ。

 


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