ep44.馬車での会話
「クラウス様、本当にありがとうございました!ですが良かったのでしょうか…?この旅行は私たちの身分を明かしている訳ではありませんし、スイーツ店も、食べたい方もいらっしゃったのでは…」
私は有名スイーツ店をとても、それはとても満喫した。今はまた馬車に乗って目的地へと向かっている。
食べるとしっとりのガトーショコラに、濃厚なカスタードクリームの入ったエクレア、優しい甘さと栗の風味を兼ね備えたモンブラン、他にも様々な種類のスイーツがあり、どれもが捨てがたく見栄えや味も一級品のお店だった。
そんな最高のお店を、やはり私たちだけで楽しんでしまっても良いのかと、今更ながらに不安を抱いてしまったわけだ。
「ふふ、やっぱりエヴァは優しいね。大丈夫だよ、今までの君の苦労を思えばみんな口を揃えて『いつでも来てください』と言うだろうね」
「えっ、?そんなわけがありません、私はそもそも…「そこまでだよ」」
私の言いたいことを言い切る前に、クラウス様は私の口の前に人差し指を立てた。
「私は虚言は言わない趣味だ。エヴァに嘘を言ったことは一度たりともないだろう?そんな私を信じてくれないか?それに君は、もう国民にいろんなものを与えているよ」
「…、ありがとうございます…クラウス様」
私のすぐに自分のことに関しては否定的になることに、クラウス様は『そこまで』と言ってくれたのだ。
確かにこんなことを目の前で言われても面白くはないだろう。
「うん、それでいいよ。エヴァはこの1ヶ月で、私の愛を受け取ること、謝り癖を直すこと、自分のことに関する極端な否定をする意見を言わないことを目標にしようね」
「…はい、それと、私に愛することを教えるのも、約束ですよ」
恥ずかしげに返事をした後、私の1番の目的であるものを必ずと言って追加した。これだけは外せない。
クラウス様に恩を返すためには、私も同じくらいの愛を与えてあげたい。と思って言ったのだが、当のクラウス様は何故か両手で自分の顔を覆っている。
「あの…クラウス様?」
「ん、ああ、気にしないでエヴァ。私が悶えているだけだから。うん、必ず教えるよ。本当に、本当」
そこまで言われると逆に怪しく思えてくるのは私だけではないはずだ。
けど私に嘘をつけないクラウス様のことだ。きっと本当のはずだ。にしてもクラウス様、言葉の順番やら他にも色々、おかしすぎます。
まあなんにせよ、私の個人の目的は果たされるので良しとしよう。
「ありがとうございます。クラウス様」
「うっ、そんな満面の笑みで言わないで。私の理性がおかしくなるから」
「?、そうですか?ではやめておきますか?」
先から様子のおかしいのはもしや私のせいかと思い笑うのをやめると、今度はクラウス様が笑い出した。
「ふふ、違うんだ。いや、君はいっぱい笑っている方が素敵だ。ただ、その満面の笑みは私にだけ見せてね」
「?、もちろんです」
意識的に自分でしている表情なら自分がどんな顔をしているか大方予想がつくのだが、先の表情はクラウス様の様子をおかしくさせるほどに笑顔だったのだろうか。あれは無意識だから制御のしようがない。
「エヴァは素直だね、かわいい」
「なっ…、………けです…」
そんな真っ直ぐな好意、慣れない…。
「ん?ごめんねエヴァ、もう一回言ってくれる?」
あまりに恥ずかしいことを言ったので、今度も聞こえるか分からない程度の声で呟く。
「クラウス様の前だけ…です…」
「…!」
それから目的地に着くまで私たちは一言も発さなかった。無論、お互いに含羞だったからである。
ついに、待ちに待った皇室とその重要な関係者しか立ち入ることの出来ないとされている場所に着いた。
「…おつかれさま、エヴァ。大丈夫?疲れてない?」
「はい。大丈夫です。ありがとうございます、クラウス様」
私も疲れていないことが分かると、クラウス様にエスコートされて別荘に入った。
入った瞬間、目に入ったのは出迎えてくれた侍従だった。とても丁寧な所作でお辞儀をしている。
「おかえりなさいませ、皇太子様、皇太子妃様」
「ただいま。私はいつもの場所に、妃には私の隣の部屋を使わせてくれ」
「かしこまりました」
クラウス様は私以外と接する時は元の口調に戻る。だが、それは怖いものではなく、人に安心感を与える言い方だった。
「それじゃあエヴァ、またあとで。上着を置いたら食堂に案内してもらって。一緒に食べよう」
「はい、クラウス様、あとでお会いしましょう」
クラウス様が他の侍従たちといつも使っているであろう部屋に向かう。私とクラウス様が隣の部屋なので同じ方向だと思うのだが、別行動ということは、クラウス様はどこか別の場所に向かうのだろう。
私もまた、別の道を辿って部屋に向かう。侍女長らしき人と廊下を歩きながら言葉を交わした。
「皇太子妃様、ようこそいらっしゃいました。お噂は予々聞いております。誠心誠意、お仕えさせていただきますね」
「ありがとう。出来れば、名前を教えて欲しいわ。名前で呼んだ方が分かりやすいでしょう?」
『名前を教えて欲しい』と言うと、驚くような素振りを見せた後、穏やかな笑みを見えた。
「皇太子妃様に名前を教えるなど、恐れ多いことです。ですが、皇太子妃様がそう仰るのであれば。私はオリーブと申します。侍女長に就任させて頂いております。何かお申し付けがあればいつでもお呼びください」
「ええ、よろしくね、オリーブさん」
こうして、別荘での1週間が始まった。
皇太子妃だなんて、初めて呼ばれた…///
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