ep34.悪女のいつかの恐怖
あれから私の目が覚めて約1ヶ月が経った。
1週間も眠っていた上、魔力も限界を超えて使ったためしばらくはベッドの上での生活を余儀なくされたが、最近はようやく皇宮を歩き回る程度は問題なくなった。
それからいろんなことが変わった。
まず、私の部屋が離宮ではなく本邸になった。それも第一皇子の隣の部屋に…。
それと、第一皇子の距離感も、より近くなった。第一皇子曰く、私は態度に出さないと分からないからいっぱい甘やかすのだそう。
以前好きと言われてから、私は好きという気持ちが分からないと言ったら「これから知っていけば良い。私が教えてあげるからね」と、2年前とは全く異なる優しい口調で言われた。
そしてあれよあれよという間に、第一皇子は当たり前のように触れてくるようになった。
今ではよく膝の上に置かれている。
私が近くにいないと気が休まらないらしい。普通逆じゃないかと思ったけど、第一皇子の顔が蕩けそうなほど笑顔だからあながち間違いではないのが怖い。
さらには、皇族の人たちも今まで以上に私に甘々になった。もう各々の気持ちを隠さなくて良いからなのかは分からないが、皇帝は自慢の娘として皇女殿下と一緒にパーティーに出席するようになった。
皇女殿下と皇后陛下もよくお茶に誘ってくれるようになり、他の貴族令嬢を招待することもあれば、3人でお茶を楽しむ日も増えた。
代わりに侍女はすごく寂しがっていたけど、エリーたちとの時間も取るよと本人に伝えたところ「大好きです!」と満面の笑みで言われた。
私も満更でもなかったから、「私も」と返すと、エリーは「私のエヴァ様が可愛すぎます」と悶えていた。意味がわからなかったので放っておいた。
みんなが変わったのも驚きだけど、今日は戦争の結果について聞ける日でもあるのだ。
私にはそちらの方が重要だった。
「本当に聞くの?」
「はい。聞かせてください」
口調がすっかり変わってしまった第一皇子と皇族のみんなは相変わらず私を心配そうな目で見つめる。
過保護だ。そう思ったけど、けれど、温かい。
「分かった。まず…」
第一皇子が分かりやすく説明してくれたものをまとめると、戦争はこちらの圧勝。掟を破った時点で負けは確定していたけど、まあどのみちティラノ帝国が勝っていた。
次に、私の魔法のことを話された。
私は火が燃え移った街だけを魔力で包んだつもりだったのだけど、あまりに必死すぎて国を囲んで魔法を使っていたそうだ。
どうりで魔力の消費が激しいわけだ。私の魔力の量は規格外だからそう簡単には魔力切れを起こさないはずなのにと疑問に思っていたのがようやく分かった。
普段使う魔法以外を使い、そのうえ自分の魔力量以上の魔法を使ったから、今回のことが起こったみたい。
そして祖国の王や貴族たちは今地下牢獄にいるらしい。もちろん、私の家族も含めて。
本来はその牢屋に私も入るはずだったんだけど、如何せんこれだから…。
「むっ、エヴァ、今何か良からぬことを考えなかったか?」
「えっ!?いえ、そんなことは…」
「自分も本来なら牢屋に入るつもりだった…なんてことは、考えてない?」
最近、私の思考回路を完全に読まれているようで、また別の意味で怖い。
「っふふ、エヴァ。あなたは分かりやすい。流石にあちらの王は処刑にする。だが貴族は優秀なものであれば殺さずこっちで働いてもらおうと思っている。死刑は免れるだろう」
「…そうですか」
私の祖国の皇帝は人使いの荒い皇帝だったから、恨みを持っているものも多いだろう。
このまま生かしてもらって働くという貴族も少なくはないと思う。祖国の皇帝しか信じてない人たちは死刑を選ぶだろうから、自ずと敵は排除出来る。
「…エヴァ、あなたはあの家族と呼べるか怪しい者たちに、会いたいか…?」
「…!」
そういえば、みんな知ってるんだ。
私の、事情を。
私が悪女でいなければいけなかった理由を。
「…一度、お会いしても良いですか…?」
「…うん。だけど本当に大丈夫?手が震えてる」
第一皇子は私の手を甲から包み込むようにして震える手を暖めてくれた。
だから私も腹をくくれた。
「はい。会った後は、もう会わないか、もう一度会うか、決めても良いですか…?」
「…もちろんだよ。あなたの好きにすればいいさ。だけど、私も着いて行く。それでもいいね?」
コクリと頷くと、第一皇子は心配そうな表情から穏やかな笑みへと戻った。
むしろついてきてくれた方が、私としても心強かった。正直、不安だったから。
「ねえエヴァ、これだけは覚えておいて」
「?、なんですか?」
まだ私が心に不安を抱えていたのを察したのか、優しく諭すように言ってくれた。
「あなたが我慢する必要はないんだ。辛い思いをする言われも、悲しい思いする言われも、エヴァにはないんだよ。あなたが会うと決めたから。私はあなたの意思を尊重する。けど、何かあったらすぐに言って欲しい。分かったね?」
ここまで寄り添わなくても良いのに。
そんなことを言われるほど、私は殿下にとって価値のある人間じゃない。
それでも今は縋りたくなるほどに、怖かったから。
「ありがとうございます。第一皇子殿下」
私がお礼を言うと、またみんなの前で、第一皇子は私の頭を撫でた。
恥ずかしいから、2人の時だけにしてほしいと言えば、みんなには生温かい目で見られ、第一皇子からは却下された。
「むしろもっと愛でさせてくれ」と溺愛が増してしまったのは内緒の話である。
一方で、私は密かに決心して翌日地下牢にいる家族たちに会いに行くのだった。
最後まで読んで頂きありがとうございました!
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