ep26.悪女は皇女殿下を怒らせたようです
「エヴァ…あなたやったわね?」
「はい?」
侯爵家から帰宅して離宮に着くと、皇女殿下が物凄い形相でこちらを睨んでいる。
私が何をやったのか、皆目見当もつかない。
「…侯爵様と2人で会ったそうじゃない」
「…!違います。いや、違わなくはないんですけど、取り敢えずお話を聞いてください…!」
「黙りなさい!」
そういうことかと。一瞬で理解した。
私の行動は、全部皇家に筒抜けなのだろう。
今日私がどこに行ってきたのかを知っているのも、多分以前にエイハムさんがつけた護衛からの報告だ。
皇家より上の人間なんていない。つまり、命令をすれば逆らうことは絶対に出来ない。
何がなんでも命令に従わなければいけないのだ。
私が次に皇女殿下に意識を向けたのは、私がビンタされたと気付いた時だった。
皇女殿下にビンタをされるのは久しぶりだ。最近は怒りを買うこともなかったし、むしろ少し好意的に接してくれていた。
その皇女殿下の信用を奪うような真似を、してはいないのだが、誤解させるような行動をしてしまって本当に申し訳なくは思っている。
けれど、皇女殿下がこれからの未来を生きやすいものにするために、私は動かなければいけないのだ。
「…あなたを、信じていたのに。結局、あなたも敵なのね」
「殿下…!」
「もう良いわ。言い訳なら聞かない。アイザックはあなたに靡かないと思うから心配ないけど、あなたはそうじゃないからね。自分が人質だってこと、ちゃんと弁えなさい」
ズキリと、胸が酷く傷んだ。
分かっていたつもりでも、実際に言われるとかなり応える。
そうだ。
私たちは家族にはなれない。
なってはいけない。
「…ッフフ、もちろんですわ。皇女殿下。そのお言葉、しかと胸に刻みます」
「…!あなた…」
「本日は私も疲れているのでお部屋を出ていただいても?今は、皇女殿下とお話したくありませんわ」
えらく無礼な言葉だが、皇女殿下は許容してくれて離宮を出て行った。
その瞬間、離宮にいる間はずっと側にいるようになったエリーが焦りながら応急処置のセットを持ってこちらにやってきた。
「エヴァ様…!大丈夫ですか!?今すぐに応急処置を…!」
「そんなに焦らないで、エリー。私なら大丈夫だから」
安心させるように、穏やかな笑みを浮かべて言った。すると、少しだけ眉をひそめて分かりましたと言ってくれた。
◇◇◇
皇女殿下にビンタされてから2週間、またも、皇女殿下は私のいる離宮へとやってきていた。
ここ最近はずっと私を避けていたのに、急に離宮に来るなんてどういう了見なのだろう。
しかも離宮に来てかれこれ15分くらい皇女殿下は口を閉ざしている。
良い加減この気まずい空気から流れたい…
「えっと、皇女殿下…?どうなさいましたか?」
「…………して、……い…」
「はい?」
ぼそぼそっと何かを言っていて聞き取れなかったので聞き返すと、今度は皇女殿下にしては大きな声で言われた。
しかも頭を下げられて。
「勘違いして、ごめんなさい…!」
「…!そんな、頭を上げてください…!」
一応念を押していたことを皇女殿下は信じて守っていただけだ。
私が前に言った、何があってもホワイト侯爵様のことは信じてと。
そして言った通り、皇女殿下はホワイト侯爵様を信じ、私を信じなかっただけのこと。
それは仕方のないことだ。
私はそもそもこの国の人間じゃない。人質の言うことなど誰が信じるだろうか。
「わたくし、あなたとアイザックが2人でお会いしていたと聞いて、あなたもアイザックを狙ってるんじゃないかと…」
「殿下、私は第一皇子殿下の婚約者であり、人質ですわ。そんな私が勝手なことをするわけには参りませんもの。それよりも、パーティーはどうでしたか?」
皇女殿下が謝ってきたと言うことは、きっとパーティーは成功したのだろう。
「…楽しかったわ」
「それは良ろしゅうございました。ストーカーの方は、まだいますか?」
私は、ここに来て2年、少し気を緩めすぎていたのかもしれない。
私は私が人質であるということを忘れてはいけない。私は…どうせ死ぬ
「…いなくなったわ。アイザックと…あなたの「殿下」」
「…!」
「これは全て、ホワイト侯爵様のおかげです。私は何もしていませんわ。お話を遮って申し訳ありません。続きをどうぞお話しくださいませ」
珍しく皇女殿下がしゅんとなっている。
それと、と。皇女殿下が中々話さないので、付け加えてもう一つ話さないといけないことを話した。
「殿下、私は人質です。人質に謝ることもお礼を言うこともしてはいけませんよ」
「…!あれは…、違うわ」
「何も違いません。私はここ、ティラノ帝国に人質として第一皇子殿下の婚約者になったエヴァ・ウェルズリーです」
そう。何も違わない。
皇女殿下は私に現実を見せてくれただけだった。
ただそれだけのこと。これ以上、私に温かさを教えてほしくない。
「…あなたはどうして、そこまで自分が人質であることを受け入れるの?あなたみたいな令嬢、他にはいないもの……」
「……そうですね…、私は、ずっと独りでしたから。それに比べたら、ここは私にとって天国そのものなんです。だから人質ということくらいへっちゃらなんですよね」
この話し方なら、私がどんな境遇だったかなど分からないだろう。
それに人質の私の境遇に興味を持ってもらっても困る。
「……そう。そうなのね」
意味深な返事をした後、皇女殿下は離宮から帰って行った。
一体どういうことなのか、この時は知る由もなかった。
最後まで読んで頂きありがとうございました!
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