ep15.悪女は人を死なせない
「おねえさーん!来たよ!」
「あ、いらっしゃい。ほら、お土産の品だよ。私が直接お見舞いに行けないのを謝ってたって言っておいてくれる?」
「うん!任せて」
肉屋のおねえさんと少しだけ会話をして、私はメモに書かれている住所の場所へと向かった。
肉屋からそう遠くは離れていなくて、徒歩10分から15分歩いたところで目的地に到着した。
コンコンとノックを鳴らすと、少しして扉が開いた。
「どちらさまですか?」
肉屋のおねえさんの情報に寄ると、常連さんは自分と同い年くらいだと言っていた。
ところが出て来たのは20歳くらいの女性だった。
「あなたのお母さんがよく行く肉屋さんのおねえさんに、お母さんの様子を見てきてほしいって頼まれたんです。良かったら中に入っても良いですか?」
「…そうだったんですね。どうぞお入りください。中にお母さんがいますので」
心なしか表情が暗いその女性は私を中へと入れてくれた。
すぐに、その女性が暗い理由を察した。
明らかに、体調が悪いのだ。
部屋に通してくれるまでに少しだけ女性から話を聞いた。
お母さん本人はただの貧血だと言っているけど、どう見てもそうではないそうで。
症状は軽い頭痛から始まり、貧血、味覚が消えたり、今ではついに歩くこともままならないそう。
部屋に入ると、そこには虚な目をしているお母さんらしき人がベッドに横たわっていた。
「…これは……」
見たところ、収集した情報から常連さんの症状を照らし合わせると、かなり症状が進行しているように見える。
「お母さん、お客さんだよ。肉屋さんの店主さんからお見舞いだって」
「…?…ああ、あの肉屋ね。ありがとう。隣にいる子は、肉屋の店主のお使いで来たのかい?」
「はい。ご体調が優れないとお聞きしました。何か体調が悪いことへの心当たりはありますか?」
日常的な会話を混ぜつつ、情報を得られるよう話した。
「いいえ、全く」
「そうですか。そういえば、最近は何をして過ごされていたのですか?私はお母さんと料理を一緒に作ることにはまっているんです!」
それとなく、私が情報収集に来たことがバレないように自然な町娘を演じる。
これは、私と同じくらいの年代の平民を歩きながら見て、真似したものだ。
「あらそうなの。お母さんも喜びそうね。私はそうね、刺繍をするのが好きだから、殆ど家にいたわねー。家を出る時といえば、食材を買いに行く時か刺繍糸を見に行くときくらいかしら」
「まあ!刺繍!とても素敵ですね!おねえさんが元気になったらその時は是非教えてください!関係がこれで終わってしまうなんて勿体無いですもの」
「あら良いわね。いつでもいらっしゃい」
ある程度常連さんから情報を聞けたことで、今度はその娘さんへの質問に移ることにしよう。
そして同じく、気分転換にはなっただろうけど、話すのがしんどそうな常連さんとの会話も区切りをつけることにした。
「ありがとうございます!是非行かせて頂きますね!それでは、ゆっくりおやすみください。ご回復を心から祈っています」
「ありがとう」
そう言って、常連さんの娘と一緒に部屋を出た。
「着いてきてくれてありがとうございます。実は、もう1つお聞きしたいことがありまして」
「どうしましたか?」
「お母さんがここ最近、そうですね…、1週間の食事を覚えている限りで良いので言ってくださいますか?日にちは問いませんので、ただ食べていた物が知りたいのです」
流石にここまで踏み込んだことを聞けば疑われるだろうと思っていたが、案の定娘さんに疑われてしまう。
でもここで嘘をついたって得することは何もない。
そう、嘘をつかなければ良い。
「それは…何故ですか…?」
「…あなたのお母さんを助けるためです」
「…!……分かりました。私の覚えている範囲で良ければ」
「ご協力感謝します」
嘘か本当かも分からないような私の言葉に縋らなければいけないほどに、お母さんは危険な状態だと言うことなのだろう。
ならば、私も失望させるわけにはいかない。
それから常連さんの娘である女の人に事細かく、それこそ事情聴取みたいな感じになってしまったけど、詳しい情報を得ることが出来た。
「話してくれてありがとう。あなたの期待は絶対に裏切らない。お母さんも助けてみせます」
不安でいっぱいだろうに、頼れる人もいなくて辛かっただろうに、よく耐えてくれたという意味も込めて言った。
すると、常連の娘は小さく笑った。
「…!なんだか、頼りあるお貴族様みたいですね」
「っ!ふふっ、それはどうですかね。私はただ肉屋さんの人柄のいいおねえさんが好きなうちの1人というだけですよ」
正体は伏せさせてもらうが、この言葉に嘘偽りはない。
あの肉屋さんの人柄が、私も好きだ。
今日出会った常連さんも、もちろんあなたもね。
「あそこのお肉屋さんの店主は良い人ですしね。私も好きです」
だからこそ、絶対死なせない。
店主さんにも、常連さんにも、その娘さんにも、誰にも涙を流させはしない。
「それでは、今日は中に入れてくれてありがとうございました」
「いえ、こちらこそお見舞いの品をありがとうございました」
「……」
まだどこか不安そうで寂しそうな彼女に、私は年下ながらに、彼女を撫でる動作をしてしまった。
お母さんの年齢的に絶対娘さんのほうが年齢は上なのに…。まあ、いいか。
年齢なんてピンポイントで当たるはずがないのだから、別に良いだろう。
「すみません。なんだか撫でたくなってしまいました」
「へ?」
私は包み込むように優しくハグをした。
「よく耐えましたよ。頑張りました。だから後は私に任せてください」
背中をトントンとしながら言うと、彼女は静かな嗚咽を漏らした。
お母さんが寝込んでしまって、どれほど不安だっただろうか。
どうにかして、少しでも気持ちを和らげてあげたい。そんな思いから、私も柄にもないことをしてしまった。
慣れというのは凄いもので、もうここを、自分が守るべき国なのだと、今回のことで再認識出来た。
最後まで読んで頂きありがとうございました!
次話も見てくださると嬉しいですm(_ _)m




