ep13.第一皇子サイドのお話(1)
「どうして謝るのです?お礼も、必要ないと申し上げたではありませんか」
エヴァ嬢は平然とそんなことを言う。
初めはどこまでも傲慢な女なのだと思っていたのに、むしろ謙虚にも程があるようにも見える彼女は一体何なのだろう。
「貴方のおかげで1番懇意にしたいと思っていたアイヴァー伯爵との繋がりも出来たし、ワインをかけられたことに気が付かず腕を強く引っ張ってしまった。謝るのもお礼を言うのも当然のことだ。」
もちろん自分の言葉は正論だと私は思っていたのだが、どうやら彼女にとってはそうではないらしい。
エヴァ嬢はため息を吐いてからこう答えた。
「殿下。それはこの国の人たちにするべきですわ。立場的にも。私はそもそもこの国の人間ではありません。私は私生児です。人質です。後の死刑囚です。そのことを念頭に置いてご発言くださいね」
エヴァ嬢のその物言いに、私は何だかとてもやるせない気持ちになった。
確かに、人質と言ったのもゆくゆくは死刑になると言ったのも私だ。
「…ああ」
それでも、貴族令嬢は皆プライドが高いからそんなことを言われればすぐに婚約破棄するか癇癪を起こすと思っていた。
そうすれば、充分不敬罪を働いたとして隣国に乗り込むことが出来るだろうから。
ところが予想外なことに、エヴァ嬢はその事実を受け入れた。それからも一月半放置する時もあったし、一月半後に会ってからまた半月会わなかった。
互いに関わらなくても生きていけると分かっていたから関わらなかった。
だが今回、改めてエヴァ嬢と話してみて、とても悪女だとは思えなかった。
今の発言だって、自分のことをどうでも良いと考えているような、そんな気がした。
「分かってくださればよろしいのです。それでは私は失礼致します。殿下もお疲れでしょうしゆっくりお休みくださいませ」
そう言い残して、エヴァ嬢は自ら離宮へと戻って行った。
そもそも、離宮に追いやっても全く怒らない彼女が私には理解出来ない。
今まで次期皇帝の婚約者という肩書き欲しさに手を出そうとしてくる輩は沢山いた。
ボディタッチをここぞとばかりにしてくるやつもいれば、自分が如何に有能か語るやつもいれば、小賢しい、媚薬を入れてこようとするやつもいた。
だがそれは皆、私の人柄や私を見ているわけではなく、【第一皇子の婚約者】【次期皇帝の妻】と言う肩書きが欲しかっただけのことだろう。
もしくは金か、名誉か。
結局のところ、そう言った外側でしか見るやつはいなかった。
だが彼女は、少し違う気がした。
どうしてだろうか。
先のエヴァ嬢の発言だって、私の立場が危うくならないように、簡単に頭を下げるやつだと思われないようにと言ってくれたのが伝わってきたし、気遣いだったのも分かった。
私の立場に興味のない人間が私の心配をするのは、とても新鮮なことだった。
彼女は自分が人質だということを分かっているからこそ、私の立場にも名誉にも金にも、目が眩むことはないだろう。
そんな女が私の心配をするなんて、前例のないことだった。
「ネイハム」
「どうされましたか?」
私の1番の側近に声をかけた。
「お前は彼女のことをどう感じる?」
ネイハムはかなり洞察力に優れているため、彼に助けられてきた皇族は私だけではないだろう。
つまり、ネイハムの言葉次第で、大体はどういう人なのかすぐに分かる。
「まだあまりお会いしていないのでなんとも言えませんが、少なくとも悪い人ではありません。むしろどちらかと言えば、慈悲深い…、お優しい方だと思いました」
「ふむ…、何かあったのか…?」
「以前図書室で一度お会いしたのですが、今後も殿下を支えてあげてくださいと言われました。」
まさか普段あまり話さないにも関わらずそんなことを言うなんて思ってもいなかった私は驚いた。
「面白いご令嬢だな…」
もう少し、彼女と関わってみても良いのかもしれない。噂の情報隣国からの情報ではなく、彼女を見て、話をしてみて感じる情報。
だがエヴァ嬢は私と話をしてくれるだろうか。
いや、話を聞いてくれはするだろう。彼女は優しいのだから。
だが、あまり話したくなさそうに思う。
それは自分が言った発言に対してエヴァ嬢が傷ついたのか、はたまた、『私は人質なので第一皇子殿下とはあまりお話しない方がよろしいでしょう』と気を遣われているか。
どちらにせよ、そんな理由で断る令嬢は見たことがなかった。
どうすれば、彼女の心を開けるのだろうか。
そんなことを考えている私は、既にエヴァ嬢の魅力へとはまりつつあることにまだ気が付いていなかった。
最後まで読んで頂きありがとうございました!
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