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今日も何かを食べています  作者: 弓軸月子
第一章

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20/124

20 第一回裁判


***


何も食べない回です。


***



『ブン』


 軽い音を立てて、卵が閉まる。

 完全に卵の中にいる感じだ。

 しんみりした別れの余韻を感じる間もなく、おおっ、と驚いた。

 外も見られないし、いつ開くかもわからないんだから、閉所恐怖症でなくたってこんなの怖いに違いない。

 幸いなことに暗さは感じなかった。

 まぶしくもなく丁度いい明るさと温度、そういえば死んでから暑いとか寒いとか思ってないな。

 改めて卵内を確認してみると、低反発素材で出来ていて、座りごごちもとても良い。

 誰かの記憶からなんだろうけれど、どうしてこれを選んだのかは尋ねてみたい。

 それにしても集合体恐怖症の人には酷と思えるほどの卵の数だった。

 どれぐらい待つのかな。

 と思っていたら目の前にプロジェクターで投射したような四角い光が現れたので慌てて振り返る。

 プロジェクターは無い。下から? 上から?

 卵内をきょろきょろ見ていたらマネキン人形のような映像が映る。


「こんにちは。お待ちいただいている間に今後の流れについてご説明させていただきます」


 音声ガイダンスみたいなものかしら。ご丁寧に字幕もついている。


「皆さんは地球で亡くなり、ここ、裁判街に移送されてきました。」


 ああ、これは確かに字幕がないと分からないかも。


「裁判は七日置きに五回行われます。意義がある場合、内容によって控訴審、上告審をすることが出来ます。再審は百日後、一年後、三年後になります」


 地裁、高等、最高裁って感じなのかしら?

 思ったよりシステマチック。

 そういえば調べたときに十王の最後が閻魔様なのかと思ってたら、随分最初の方に出てくるなーとは思ったのよね。地裁だったのか。


「なお、良くあるご質問として、針山や三途の川、賽の河原につきましては効率重視の為廃止された風習となっております。人徳や罪の重さの測定に関しましては、裁判街への移送の際に測定しておりますのでご了承ください」


 なんだかお役所仕事っぽくなってきたけど、効率重視って、地獄って人手不足なの?


「また、皆様が地獄と呼称しているこの世界には地球も含まれております。地球の中に日本があるように、地獄の中に人間界、地球がございます。現在世界の仕組みについては研究チームが作られてはおりますが、解明には至っておりません。職員は常時募集しておりますので、研究にご興味がございましたらお申し付けください」


 やっぱり人手不足なの?

 まぁ、仕事があるって言ってたもんね。でも仕事で何を得るんだろうね? お金?


「生活に関しましてはお好みの居住空間にお好みの居住区を当てはめたものに、一グループ一万人程で構成された居住街にお暮しいただくことになります。金銭システムはなく、移送時同様必要物資は一日三点の供給が可能となっております。三点以上必要な場合は申請が必要です。裁判後にご案内する、居住街の受付窓口までお越しください」


 説明はどんどん進んでいくが、やはりお金は不要そうな印象だ。

 物々交換も出来たし、手に入れたものの譲渡も可能なら、この世界にはやっぱりお金という物はなさそうだけれど、じゃあなんで三点? 何かを消費しているんだろうか?


「物資は供給以外に譲渡による入手も可能です。個人間譲渡の他、店舗譲渡もございます。店舗に関しましては店舗毎に譲渡条件をご確認ください。なお、店舗の開店に関しましても申請が必要です。開店支援も行っておりますのでお気軽にご相談ください」


 さっきから仕事をさせようとしているとしか思えないんだけれど。

 でも、会社ではなく店舗、開業ではなく開店、なのよね。

 この辺ちょっと気になるんだけれど、と思ったが、そのまま説明が流れていく。

 佐藤さんやヤスヒロさんが何となく教えてくれていたことも多かった。

 あの二人、実はとても仕事が出来るんじゃ。


「まもなく裁判が開始されます。裁判後にガイダンス三まで確認済みとお伝えください。お疲れ様でした」


 唐突にそう告げられると再びブンと音を立てて、卵が開く。

 目の前には恐らく裁判官と何かの職員らしき人がニ人がいて、部屋は先ほどのSFチックなイメージは無く、白い会議室と言った雰囲気だった。

 裁判官は普通にスーツを着た、普通の男の人で、職員らしき人も、なんというか、普通の男女。


「こんにちは」


 目が合ったのでこちらから挨拶をしてみる。


「こんにちは。ようこそ第一裁判へ。地球の日本で生きていた高坂和香さん、事故死で間違いないかな?」

「はい」


 穏やかな声で、慌てるでもなく、ゆっくりでもない、丁度いい速度で裁判官は喋る。

 これも私の都合の良いようなイメージなのかもしれないな。


「そうだね。違和感や不快感が無いベストな状態で対面出来るようになっているから、あまり緊張しないで大丈夫だよ。それから椅子から出なくても問題ないからね」


 思考を読まれたように言われる。読まれてても不思議はないんだけど。


「直接的殺人無し、間接的殺人が三名か、かなり少ないね。動物は普通に肉・魚を食していた分と、ああ、カラスを間接的に殺しているね。虫の類はまぁ平均程度。植物も食していた分と、草むしり程度、と。人間的殺生の範囲内、という判決で納得出来るかな?」


 そんな感じだろう、とは思っていたけれど。


「あの。間接的殺人というのはなんでしょうか?全く心当たりがありません」

「間接的な事だから自覚は無いだろうね。君の場合はあまり人間関係を深堀しないタイプだったといえるのかな、少ないね」

「ええっと……具体的に教えて頂くことは出来ますか?」

「高校生の頃コンビニエンスストアでアルバイトをしている時に小学生がパンを買いに来て十円足りなかったという事があっただろう」

「はい」


 とても痩せていて、あまり身なりも綺麗ではない女の子だった。

 今回だけはと言って、私はパンを売った。

 十円を後で自分の財布から入れようと思って忘れて帰宅してしまって、どうしようと思ったので覚えている。レジ金が十円合わなくて大変なんじゃと、寝る前に思い至って、当時は恐怖した。初バイトの思い出だ。

 その後、店内清掃でレジ付近からたくさんお金が出てくると分かって安堵したものだ。良くない方に赤信号的理解と言える。


「十円足りないことで買い物も満足に出来ないのかと暴力を振るおうと思っていた彼女の保護者が、パンを持って帰宅した彼女に泥棒をしたと腹を立てて、その事を暴力を振るう理由とした。結果として彼女の死期は早まったわけで、こういったことが間接的殺人に含まれている」


 聞かなければ良かった。後悔先に立たずとは良く言ったものだ。

 言葉が出て来なくなった私に裁判官は続けて言う。


「まぁ、君が売らなかった場合は泣きながらなんとかして欲しいと訴える彼女に、店長が出てきて売ってしまったので、間接的殺人が別の人に移るだけで、彼女のこの事象は必然であるとも言えるね。

 君の死因も間接的殺人の適応になっている。もう少しだけ、次の店に行きましょうと、誘った同僚がいた。君は誘われなければ一次会で帰宅していたはず。そういう間接的殺人は良くも悪くもある。

 一人では生きていけないように、常に影響を受けあっていて、何かを殺して食べている、それが人間界であるとも言える。

 だから、人間界という地獄の住人は、普通に暮らしている限りは人間界という地獄にいる時間が長いんだ。恐らく君の次の行先も人間界になるんではないかと、私は思っているし、その様に次の裁判官へ伝えるつもりでいる。

 その上でもう一度聞くが、この判決で納得出来るだろうか?」


 私は考える。

 私に悪気はなく、同僚にも悪気はなかっただろう。

 知ってしまえば後悔になるが、私は今の今まで知らなかったし、能天気に生きていたと言える。

 同僚は大丈夫だろうか?

 あの時誘わなければ、あの時声をかけなければ、と思っただろうか。

 誘われて嬉しかったし、楽しかったから、彼らの罪は軽くなればいいと思う。

 少女はどうだったんだろう。嬉しかったのかな、恨んだのかな。

 さっき、聞かなければ良かったと思ったけれど、裁判官は聞かなければ言わなかった。

 罪は罪として、すべてさらけ出されるものと思っていたので、少し意外だった。


「良くも悪くもだ。君が彼らの罪が軽くなればいいと思うように、死んでもその影響はある。一つ一つ、夏に殺された蚊の気持ちや、食べられたニワトリの気持ちを伝えても仕方がないし、覆らない。だから言わないだけだ」


 蚊とニワトリと人間を一緒にされているような気がするのですが。


「等しく生命だろう?」


 それはそうですが。って、声にも出していないことにお返事をしないでいただきたい。


「判別が難しい」


 そういえば、神様仏様枠なんでしたっけ。神社やお寺で声に出してお願いした事って記憶にないかも。お経とか、祝詞とか、食事の前にお祈りとかは声に出すんだっけ、どちらかと言うとああいうのは感謝が多かった気がするけど。


「気が散りすぎではないだろうか? 真面目に判決について考えてもらいたい」

「すみません!」


 はっとして慌てて謝る。


「そうなんだろうな、と思うことが多く、お話しくださった内容に意義はありません。ただ罪の重さがよく分かりませんでした。私の殺生に対する罪はどれくらいの重さなんでしょうか」

「言葉通り人間的範囲内の罪だ。極めて平均的な罪の重さと言える。恐らく君は恐慌や、飢饉、戦争というものに遭遇しても、極めて平均的な数の殺人や盗みを働くのではないだろうか」

「そうですか」


 納得は出来たんだけどもやっとするのは、なんでだろう。


「判決は人間的殺生の範囲内で確定、と。細かい事は後から調べたり聞くことも出来るから、意義があるようだったら手続きをしたらいい。シアタールームで自分視点の人生の振返映像も見ることが出来るし、フローチャート風にもしもの世界の自分を見ることが出来るゲームセンターもある。詳しい事はこの後に説明会があるからそこで確認してくれ」


 なにそれ超気になる。


「それでは、第一裁判はこれで終了する。次の裁判は七日後、今度は迎えは来ないから気を付けるように。お疲れさまでした」


 え? もう終わり? もっと質疑応答とかあるもんなんじゃないの?


「こちらには自覚してるか以外の質問はないからな」


 そらそうですよね。

 ブンっと卵がまた閉まりそうになるので慌てて挨拶をする。


「ありがとうございました!」


 聞こえたかな? 微妙なタイミングだったけど。

 こうして、ちょっと想定と違った裁判はあっさりと終わった。

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