チャプター52
〜王城 国王の寝室〜
驚き半分呆れ半分と言った様子で国王は質問を投げかけた。
「そなた、何を言っておるのだ。何かかつての強力な武具を復興させる算段があったから話をしたのではないのか?」
「父上、それは考えすぎというものです。私はそこまでのことはとても言えません。ではなぜわざわざこのようなものを持ち出してまでこんな話をしたか。それは二つです」
二本の指を立て、国王の前に突き出した。
「一つは、よしんば特別な一振りだとは言えこのような武器が作られていた時代の戦士たちに負けないように、鍛錬をしっかりしなくては、という意識付けをするためです。最低限、きっちり鍛えておかないと、魔物には勝てないでしょうから」
「ふむ、それは一理あるな。それも踏まえての大会か」
騎士団での武道大会は、全員が同一の装備で参加することを義務付け、参加資格は全団員に与える予定になっていた。それであれば、どんな逸材が出てくるかわからない。
可能であれば親衛隊にも参加して欲しいと考えていたが、さすがに立場的に難しいだろうか。すでに実力を認められた者たちなので、面白い戦いにはなりそうなのだが。
「大会は見世物ではありませんが、そういう側面もありますから、盛り上がって欲しいところです。そのためにも、しっかりと話を詰めなくてはなりませんが」
「うむ。これは、そなたの手腕を見るためのものでもある。しかとこなしてみせよ」
あまりプレッシャーを覚えても仕方ないのだが、即位前から次期国王としての働きを評価されるのだと思うと、どうしても緊張してしまう。出来ることをするしかないのだが、できることとは何かと考えると、あまりに漠然としていて、言葉に詰まる。
今回は大会運営委員としての権限も与えられるだろうから、せめてそれを活かしてずっと国王に仕えてきた貴族たちと渡り合っていければいいのだが。
「それでフランツよ、もう一つの目的とは、なんなのだ?」
「はい。世界には現代の人知を超える名剣が存在していて、私たちも世界に散らばるそのうちの二振りを受け継いでいますが、それをはるかに上回る至高の一振りが存在していたんです。しかも、それを持っているのがあのエルさんです。考えただけでも興奮しませんか?」
ニコリと笑ってみせる。そこにあるのは、息子としての屈託のない表情だ。
「そうだな。たまらんな!」
これには、国王も歯を見せて笑って見せた。こちらもまた、国王の看板を下ろした一人の父親の表情だった。
「父上、そういう話題はお好きでしょう? もちろん僕もです」
「よくわかっておるではないか。なかなか共に過ごす時間を持てなかったが、血は争えぬな。それにしても、エルリッヒ殿の剣とやら、もう一度詳しく話してもらえぬか? 先ほどの話と被っても構わぬ、語って聞かせよ。いや、それよりも、騎士団の剣が折れるような何かをしでかしたのであれば、そこから語って聞かせよ。面白い土産話の一つもあるのであろう?」
今度はニヤリといたずらっぽい笑みを浮かべる。それは、普段誰にも見せないような表情だ。身内以外では、ごく親しい家臣にしか見せないし、見せられない。
「父上がそう仰るのなら。今日は、ゲハインスト子爵とラインラント男爵をエルさんに引き合わせるため、街へ出ました。僕たちのような者たちがが出歩くと嫌でも目立ちますから、一般の兵士と同じ格好をして」
「ほう。相変わらず街場へ出ておるのか。まあ、それは良いが、それで、どうだったのだ? よもや、街中で彼女と一戦交えたのではあるまいな」
こう訊くということは、一戦交えた時の様子を語れと言っているのと同じだ。昼間の出来事をできるだけ思い出しながら語って聞かせることにした。
できるだけ国王が楽しめるように、それでいて嘘は交えず、わかりやすく。
「ええ、街中ではありませんが、通りで模擬戦を行いました。同行の二人が彼女の力や正体について半信半疑の様子でしたので、それをよく知ってもらいたいと思いまして。まず、僕が素手の彼女と戦いました。武器は一般兵が身につけているのと同じ槍です。頑張って猛攻を繰り出したのですが、全てかわされ、挙げ句の果てには指二本ですよ。たった二本の指でその攻撃を受け止められ、挙げ句の果てにあっさりと振り回されてしまいました。あんなにあっさりと敗北したのは久しぶりでしたよ」
「そなたをそこまで。彼女であればそれくらいは容易いことかもしれぬが、まさか誇張してはおらぬだろうな」
一応、訊いてみる。話を面白くするために誇張するのはよくあることだからだ。今も、フランツの「楽しませよう」という意志が強く伝わってくる。それならば、話の誇張くらいするのではないか、と踏んだのである。
「悪い冗談はよしてください。話を誇張だなんて。ありのままを伝えただけですよ。でも、本題はここからです。次の試合は、子爵と男爵の二人が一斉に挑むことになりました。しかも槍ではなく剣で」
「散々議題に上がっておる、貧相だと評判の悪い子の騎士団標準支給の剣でか?」
まるで皮肉を込めるように言ってみせる。この剣を騎士団標準の支給品にしようという話が持ち上がったのはずいぶん前のことで、その話に最終承認を下したのは今は亡き先王だ。そこでどんなやり取りがあったのかは知らないが、確かに魔物相手の実用的な武器とは言えないが、経費の節約という意味では、大いに役立ってくれている。
「そうです。この剣でです。でも、その時です。彼女が特別サービスと言ってその剣を取り出したのは。突如足元に漆黒の空間が現れ、そこから一振りのこれまた漆黒の剣が出現したのです。それは決して禍々しいものではなく、むしろ荘厳さを感じさせるような剣でした。彼女はそれを、軽々と振るって見せたのです」
「それで、二人はどう戦ったのだ?」
二人の戦い方を思い出してみる。彼らは彼らでよく訓練しており、騎士団に伝わる剣術に則って見事に呼吸を合わせて戦っていた。少なくとも、今の騎士団の水準から言えば、決して弱くはなかった。
爵位の都合で今の制度ではあまり上層には上がれないだろうし、代々の務めというものもある。だが、これからは変わるかもしれない。そう思わせてくれる二人だった。
「彼らはまず、波状攻撃で不意をつきました。騎士団の剣術にある守りの堅い相手と戦う時の戦法です。男爵が先陣を切り、子爵がわずかに遅いタイミングで攻撃を繰り出す! ですが、子爵の攻撃が繰り出される刹那、彼女はくるりと身をかわしながら剣を振るい、なんと男爵を吹き飛ばしてしまいました。そのまま子爵の攻撃をも回避すると、再び剣を振るって、今まさに態勢を立て直そうとしている男爵のところに子爵を吹き飛ばすではありませんか! これらは、すべて片手で行っています。なんという力でしょうか。このままでは勝てないと判断したのでしょうね。今度は同時に攻撃を繰り出しました! これも、強敵、敵将などと戦う時に用いる二人一組で同じ攻撃を繰り出す戦法です」
「ほほう? 彼らのことはよく知らぬが、やるではないか。二人一組ということは、今度は二人同時に吹き飛ばされでもしたか? 彼女なら、それくらい造作もあるまい」
楽しそうな様子の国王は、頭の中でその様子をイメージしていた。彼女なら、剣の一閃で大の男二人を吹き飛ばしてしまうことくらい、たやすいはずだ。
その様を思い描くだけで、まさかこんなにワクワクできるとは。荒事が好きな性分なのか、彼女が国を守る要でもあるからなのか。
「面白いのは、ここからですよ。ここから先を聞けば、父上も彼女に対して畏怖の念を抱くんじゃないでしょうか」
「勿体つけるでない。早く話せ」
急かすように話の続きを促した。このような父を見るのは、久しぶりだった。
〜つづく〜




