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竜の翼ははためかない9 〜竜王伝説〜  作者: 藤原水希
第八章 それぞれの思い、それぞれの思惑
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チャプター49

〜コッペパン通り 竜の紅玉亭前〜



「あの、竜殺しの勇者がどうかしたんですか?」

「いや、ね。竜殺しの勇者が使っていて、漆黒の刀身。鍛冶屋で聞いた竜殺しの金属なんじゃないかと思って」

 珍しい素材だが、知ってさえいればピンとくるものだ。フランツがどこの鍛冶屋で仕入れた情報かは知らないが、見てすぐに気づいても無理はない。まして、隠し立てするようなものでもない。

「そうですよ。ドラゴンの生命エネルギーに直接作用する漆黒の雷が特長です。でも、その特殊効果は通用しなくても、素材そのものの強さでどんな相手にも高い攻撃力を発揮するんです」

「それはすごいね。直接見たのは初めてだったけど、恐ろしいくらいだよ。いや、そうではなくて、エルさんもドラゴンなのに、こんな危険な武器を使って大丈夫なの?」

 そうなのだ。必ずこの質問がセットで付いてくるのだ。もう、すっかり慣れっこではあるが。

「大丈夫ですよ。うちの一族は竜殺しの力が通用しないんです。いろいろと規格外ですから。もちろん、武器としてとっても強力だから、そこは気をつけなきゃなんですけどね」

「そ、そうなんだ。竜族の王女さまが竜殺しの武器を持っているから、どういうことかと思ったんだけど、通用しないのならよかった。いやー、それにしてもすごかったよ。みんなも、そう思うでしょ?」

 まだ圧倒されているギャラリーに向かって話しかける。バレてはいけないというのに大丈夫なのだろうか。

「あ、ああ、すごかった」

「この兄ちゃんたちもすごかったけど、エルちゃんが凄すぎたよ!」

「うんうん! こんなに強かったら、魔物も倒してくれるよね!」

「エルちゃんがこの通りにいてくれてよかったよ〜!」

「あはは〜、そう言ってくれて何よりです。正直、怖くなかったですか?」

「それは大丈夫だよ。エルちゃんがこの街にとって大切な人で、私たちのことも大切に想ってくれてるってことは、みーんな知ってるから。こういうのは、直感って言うのかもしれないけどね」

 街のみんなは暖かかった。圧倒的な力を前に、それを脅威ではなく、自分たちを守る矛や盾のように受け止めているのだろう。もちろんエルリッヒ本人としてもそのつもりだから、恐れないでいてくれることがとても嬉しかった。

「それにしても、さっきは本当に死を覚悟したよ。あれ、最初から寸止めで終わらせるつもりだったの?」

「当たり前です。あの程度の攻撃を寸止めできなくてどうするんですか。人間相手に戦うんですから、コントロール可能な力しか出しませんよ〜。最初に言いましたよね? そこの城壁に穴を空けるくらいのことは簡単にできるって」

「や、本当に凄まじい力だったよ。正直、俺たちを吹き飛ばした時にこりゃまずいなって思ったからね。それにしても、飛び散った件の破片がすごいね。片付けないと、怪我をする人も出るんじゃないかな」

 そうだった。この片付けがあった。なまじ力をセーブしたばかりに、このような状態になってしまった。もっと強い力を込めていれば、欠片一つ出さないほど綺麗に両断することもできた。少なくともそれだけの鋭さを持った武器であり、それを活かしきるのには生半可な力では足りないが、それを大きく上回るものを持っている。だが、そこまでの力を発揮してしまうと、どこにどんな被害が出るかわからない。抑えざるをえないのだ。

「とりあえず、掃除道具を持ってきますね。や、これどこに捨てたらいいんだろう……」

「あぁ、待って。破片はともかく、こっちの四つになった剣は持って帰るよ。騎士団の備品だからなくなったらまずいだろうし、この断面を父上に見てもらいたいと思って」

「ギョッ! で、殿下、父上って、陛下ですか!」

「それ、俺たちの失態じゃないですか! やめてくださいよ恥ずかしい……」

 フランツの言い出した話に小声で反応する二人。自分たちが負けたことの証拠なので、さすがに不名誉だ。そんなものを見せて何をどうしようというのか。

 しかし、当のフランツは大真面目なようで、しきりに剣の断面を見ている。ここからでも、何か得るものがあるのだろう。しかし、一体何がわかるというのだろうか。二人にはさっぱりだった。

「あの、こんなのを見て、何がわかるんですか?」

「俺たちにはさっぱりなんですけど……」

「二人とも、わからない? これだけ見事な切り口で斬るなんて真似、普通はできないよ。これが、どれほどの力と鋭さで切られたのかがよくわかるよ。これを見たら、父上もいろいろと気付くんじゃないかと思ってね。この国の守護がどれほどのものなのかを」

「あの、それって、私を持ち上げる話ですか? だったら、それはちょっと恥ずかしいかなって。普段はおとなしくしていたいので。せめて、世の中にはもっとすごい剣もあるって話に留めてくれませんか?」

 こんなところで売り込まれて、またお城に呼ばれる。そんな未来が見えた。あれは心臓に悪いので、できれば避けたいのだ。少なくとも、すでに知られている部分、話をしている部分だけで十分だった。

「そう?」

「そうです! それに、こんな断面一つ、そんなに感動するポイントじゃないと思うんですけど」

「そうそう」

「いや、待って。確かに感動するポイントだよこれは。自分がやられたことで気を取られてたけど、普通、この剣をこんなにすっぱりと斬るなんて芸当、やっぱりできない。確かに、俺たちはすごい人を奉ろうとしてるみたいですね」

 あまり持ち上げてほしくないと言ったそばからこれでは、もうどうしようもない。しかし、人知を超えた力を見せつけてしまったのもまた事実、やはり、どこかでは諦めるしかないのだろう。

「あんまりすごいすごい言わないでくれると嬉しいんですけど……っとと、掃除道具、持ってこなきゃですね」

 そうして一人店内に戻っていく。




〜竜の紅玉亭〜



「はぁ〜、やっちゃったかなぁ」

 一人になると、途端に冷静になる。ついつい目立つようなことをしてしまったし、みんなも喜んでくれたが、あれでよかったのだろうか。

 目立ってしまっただけでなく、竜殺しの剣まで使ってみせるという大盤振る舞い。もちろん、自分の正体について、信じていない者がいるのであれば何かしら見せるのは大切な事なのだが、それにしても、である。

 そんな事を思いながら、ほうきとちりとりを手にするのであった。

「……剣も折っちゃったしなぁ」

 あれは、紛れもなく税金で買った備品だ。それを粗末に扱ってしまったような気がして、それもまた頭を抱える種になってしまう。あの状況では、ああするのが自然だったとはいえ、折れ曲がる程度まで力を抑えても良かったんじゃないか、と言う思いも湧き上がってくる。

「こんなに悩んでるのは、お昼ご飯を食べてないからかも!」

 空腹の時に何かをしても、何かを考えても、大体があまりいい結果を生まない。もし考えるとしたら、食後に改めて考えるべきだ。

 今はそれよりも大事なことがある。

「通りの掃除と、お付きの二人を紹介してもらうことが先だよね」

 あそこまでしでかしておいて、彼らのことはまるで知らない。一体、どの程度の貴族様で、騎士団ではどんな役割なのか。一般の兵士でないことだけは、はっきりとわかるのだが。

「あの二人、さすがに王子様のお供だけあって強かったなー。みんなあれくらい鍛えてたらいいのに」

 普段ツァイネともそういった話はしないので、騎士団の内情はさっぱりわからない。彼らは自宅でも訓練を積んでいるのかもしれないし、騎士団の訓練はとても厳しいのかもしれない。

 息ぴったりだったのは騎士団の剣術のようなものがあるからだろう。だが、各家庭には何かしら伝わっていたりしないのだろうか。それとも、それらを統合する形で騎士団の剣術が?

 考え始めたら、こちらの話題も意外と気になってきた。

「その辺も、訊けばいいか」

 今は気持ちを切り替えよう。そう言い聞かせて再び外に出た。




〜つづく〜

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