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竜の翼ははためかない9 〜竜王伝説〜  作者: 藤原水希
第十三章 そして伝説へ
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チャプター4

〜竜の紅玉亭 昼下がり〜



 食事を終え、エルリッヒが片付けをしている間、フォルクローレは食後の休憩をしていた。片付けと言っても手伝えることは少ないので、休憩させてもらっていた。

「いやぁ、お腹いっぱい。美味しかった〜。片付けまで任せちゃって、なんだか悪いなぁ」

「いいのいいの。これくらいなら一人でやっっちゃった方が早いから。お水でも飲んで休んでてよ。いきなりたくさん食べたら体もびっくりしてるだろうし」

 食器を洗う音がかちゃかちゃと響き渡る。心地のいいリズムに、フォルクローレは眠ってしまわないよう気をつけるのが大変だった。

 ここへ来た目的を忘れてはならない。もしかしたら、この後真面目な話をするかもしれないのだから。

「はぁ〜、こんな時間が過ごせるなんて、本当ありがたいよ」

「本当にね。私も友達のために料理を振る舞うのは普段以上に楽しいし、大切な時間なんだよね。魔王軍の侵攻がいつあるのかわからないってのにね」

 いつ訪れるかわからない危機、それとは別に訪れる日常。その日常が少しでも幸せであれば、こんなにいいことはない。そして、つかの間の幸せで終わらないようにしなければ、という思いが湧いてくる。

「よしっ、お片づけ終了!」

「お疲れ様〜。それじゃ、今日の本題だね。しっかりまとめてきたからね! 心して聞くがよい!」

 特にメモ書きのようなものは持っていないが、言葉には自信が満ちていた。きっと、しっかり覚えてくれているのだろう。それならば、ここで話すよりも腰を据えて話をしたい。

「なら、部屋に行こうよ」

「うん、いいねいいね〜。それじゃ、また部屋にお邪魔するね」

 当然、申し出を断るフォルクローレではない。二人は水の入ったコップを手に、二階に上がっていった。




〜二階 エルリッヒの自室〜



 部屋に戻った二人は、テーブルに向かい合って座った。やはり、普段過ごせないこう言う時間はとても大切だ。

「さ、それじゃあ話を聞かせてもらいましょうかね」

「任せて任せて〜。それじゃあどこから話そうかな。とりあえず、開いてる工房の親方全員からは話を聞けたよ」

 さらりと言ってのけるが、それがどれだけ凄いことかは、想像するまでもない。あのコミュニティに入り込むだけでも大変だというのに、しっかり話をしてきたというのだから。

 もちろん、職人通りで工房を構える以上、フォルクローレのアトリエも否応なしに通りの親方組合に属さなければならず、まして一人で切り盛りしているのだから、寄り合いにも参加する機会はあるだろう。だから、親方衆と顔見知りなのは当然だし、この性格で気に入られている可能性もある。

 だが、一方では倍以上生きているような百戦錬磨の男たちだ。どこの馬の骨ともしれない小娘をすぐに認めるとも思えない。これは、本当にすごいことだった。

「いや〜、まさか本当に全員分集めてきちゃうとは」

「ほぼ、だけどね。今日が安息日になってる工房もあったし、親方がお客さんのところに行ってる工房もあったし。それで、肝心の親方たちの意見だけど、さすがにうちの通りは血気盛んな人が多くてね、ほとんどの親方が賛成。魔物を倒すための出費だったらどんどん使って欲しい、税金の払い甲斐がある、なんて親方もいて。こういう話は、男心をくすぐるのかもって思ったよ。女の親方は一人もいないし」

 ひとしきり話を終えると、カップに入った水を飲み干す。職人通りの雰囲気から、大方の予想はできていたが、ここまで予想通りだったとは思わなかった。

「で、少しいたはずの反対意見は?」

「あぁ、それはね、家具工房のタッシェン親方が荒っぽいのは好きじゃないって言って。税金の無駄とまでは言ってなかったけど、今だって街の復興にお金がかかる時期なんだから、まずはそっちに税金を使ってもらって、装備は買わずになんとかやりくりして欲しいって。あの親方、本人も仕事も、すごく繊細で優しい人だから」

 エルリッヒは会ったこともなければ工房が通りのどこにあるのかも知らないが、クローゼットを優しい眼差しで見つめているフォルクローレの脳裏には、タッシェン親方の人となりや、彼の作る家具のことが浮かんでいるのだろう。このフォルクローレにこんな表情をさせるくらいだから、よほどの人物なのだということが伺える。

「というわけで、職人通りとしては賛成として提出することになりそうだよ。これが、服屋の多いあそこの通りだったら、話は別なんだろうけどね。えーっと、なんて言ったっけ」

「絹糸通り?」

 「そうそう」と手を打ちながらほとんど行ったことのない絹糸通りに思いを馳せる。『絹糸通り』とは、この街の衣料に関するほぼすべてのお店が集っている工房で、貴族向けの高級なドレスから庶民の着る服、他にもアクセサリーや刺繍、染色を専門に扱うお店などが揃っており、当然のこと、女性比率の特に高い一帯となっている。

 エルリッヒが服を買うときは、ここの庶民向けのお店を利用するが、フォルクローレはほぼすべての衣服を錬金術でまかなっているため、ほとんど用事がない。素材は街の外で集め、縫製などもせずに錬金術で作ってしまうのだから、それはそれで便利と言うほかないのだが。

「絹糸通りなら、反対する人も多そうだよね」

「そうだね。や、そこまで親しくはないから、その辺の考えまではわからないけど。通りの人たちのことは」

 それでも、なんとなく、「職人通りの親方衆とは違う考えを持ちだろう」という直感めいたものがあった。きっと、無意識に感じている女同士の繋がりのようなものなのかもしれない。

 フォルクローレもそれは感じているようで、やはり「無意識に」そうに違いない、という確信を持っていた。最終的な結論や、納得してくれるかどうかは別にしても、意見の比率だけは確実に違うだろう、と。

「まあね〜。案外、みんな強い人ばっかりだったりして」

「あははー。その方が心強いけどね。今はこんな時代になっちゃったし。とりあえず、フォルちゃんお手製の爆弾を配るっていうのはどう? 昨日の話じゃないけど、力の弱い人でも均等に威力が出せるし。喜んでくれそうじゃない?」

 服を買いに行くときにでも売り込めば、興味を持ってくれる人は多そうだ。ちょっと物騒なアイテムだが、魔物が来るかもしれないという危険を考えれば十分である。

 お城に売り込みたいとまで言っているフォルクローレのこと、早速女性向けの爆弾についてレシピをあれこれ検討し始めている。頭の中でどんな議論が繰り広げられているのかはわからないが、表情は楽しそうだ。

 そんな姿を見ているだけでもこちらまで楽しくなる。

「楽しそうだね」

「楽しいよ〜? 女の人向けの爆弾を作ろうって思ったら、花柄にしたらいいのかなとか、爆発だけじゃなくて花びらでも飛んだら楽しそうだなとか。花ばっかりじゃないけどさ、なんとなく心が浮き立つような爆弾の方が、持ってくれそうでしょ? 平和になっても護身用に売れそうだし。でも、それを考えるとうっかり爆発したら大惨事だし、あたしの責任になっちゃうし、普段は安全に保管できて、いざとなったらしっかり爆発するようなのがいいな〜って」

 この短い間にそこまでのことを考えていたのかと感心してしまう。話を聞く限り、錬金術士は頭が良くなければなれない仕事のようだが、この王都はもちろん、もしかしたら国内全土でも一人しかいないかもしれない中で営業を続けているのだから、その手腕は伊達ではないということなのだろう。

「はぁ〜、フォルちゃんすごいわ〜。私には絶対無理」

「えぇ〜? 褒めても何も出ないよ? そもそも、エルちゃんには爆弾を投げても効かなそうだし」

 そうなのだ。フォルクローレはエルリッヒの正体を心から信じてくれている数少ない一人だ。きっと、それを踏まえての一言なのだろう。

「さーて、どうでしょ。私だって、フォルちゃんの爆弾のラインナップや威力は全然知らないんだし」

「あ、じゃあ、今後のためにその辺の話をしようよ! まだ時間は大丈夫だよね!?」

 勢いよく身を乗り出して来た。基本的にこう言った血なまぐさい話や物騒な話を好む傾向にあるのもまた、フォルクローレの一面なのだ。

「い、いいよ」

 つい気圧されて、受諾してしまった。楽しい話になればいいが、果たしてどうなることやら。目を輝かせるフォルクローレとともに、一抹の不安を覚えるエルリッヒなのだった。




〜つづく〜

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