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竜の翼ははためかない9 〜竜王伝説〜  作者: 藤原水希
第四章 コッペパン通りの場合
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チャプター25

〜王城 中会議室〜



「皆、集まったな。それでは、会議を始めたいと思う。兵士たちの装備強化の是非について、各通りの意見をかせてもらおう」

 会議室には、全ての通りの代表者が集まっていた。多くの者は平民だが、さすがにエッセン通りのような貴族の屋敷が集中しているような通りの代表者は貴族が勤めているようだった。むしろ税金を使い、税金から給金を得る立場の人が何を言うというのか、という目で見ている者がいる。もちろん国が招集した顔ぶれに間違いはないのだが、二つの身分の者がいるとなったら、これは意見が割れそうだ。

 そんなことを思っていると、隣で座る自治会長が声をかけてきた。

「エルちゃん、無事に来られて良かったよ。でも、一体どうやって衛兵の二人を説得したいんだい?」

「あー、いやー、それは……」

 つい、お茶を濁してしまう。さすがに、自治会長が腰を抜かしてしまうので、真相は話しづらかった。


☆☆☆


〜王城 城門前〜



「お、王子!」

「なんでここに!」

「ははっ、ごめんごめん。僕の脱出もますます腕前が上がったということだね」

 声をかけてきたのは、この国の王子、フランツだった。城内にいるはずのフランツが目の前にいる。その事実に、衛兵二人は驚きを隠せない。

 こっそり城を抜け出すことがあるとは聞いていたが、まさか本当に城を抜け出していようとは。いつの間に抜け出したのか、二人はさっぱりわからない。もしかしたら、城を出て行った者たちに紛れていたのかもしれないし、自分たちの前の衛兵の時間に抜け出したのかもしれない。だが、目の前にいるのは紛れもなくフランツその人だった。

「王子、一体どこに」

「どこって、城下を歩いて回っていたんだよ。僕もゆくゆくは国を治める身、城下や市中のことを知らなくちゃいけないからね」

「だからって、勝手に抜け出すなどと! ささ、早く中へ」

 今日のフランツも先日と同じ立派な鎧を着ている。こんな格好で歩き回っていたのでは、よくて貴族、下手をしたら王子だとバレてしまい、市中を学ぶどころではなくなってしまいそうなものだが、そういうところも相変わらずだ。

「あのー、王子様、前から気になっていたんですけど、その鎧、いい鎧ですね」

「エルリッヒ、君はこの鎧の価値がわかるのかい? これは王家に代々伝わる王子用の鎧でね。僕が王に即位するまでは僕が所有することになっているんだよ。もちろん、おとぎ話にあるような、王家の人間しか着られない鎧っていうわけじゃないけどね」

 にこやかに話してくれる間、こっそりと鎧を観察していた。先日も観察したが、今回は鎧の話題を出したことで、大手を振って視線を向けることができた。

「どこまで聞いているかわかりませんが、私、いろんな国を回ってこの街に流れ着いたんです。だから、傭兵や冒険者の人たちにお世話になることも多くて、いつの間にか簡単な目利きができるようになっていったんです」

「そうか。旅暮らしと言うのも面白そうだね。でも、この鎧は本当にいい鎧らしくてね、生半可な攻撃は通用しないそうなんだ。その代わり、古くから伝わっているから、製法は失われてしまったみたいなんだけどね。この鎧が量産できたら、国の守りも少しは楽になるんだけど」

 フランツのこの言葉で大事なことを思い出した。突然の闖入でつい話題がそちらに移ってしまったが、何もフランツと世間話をするためにここにいるわけではない。

 今日はこれから、大事な話し合いがあるのだ。

「王子様、それです! それ!」

「それ? それとは一体……そもそも、君はどうしてこんなところで衛兵たちと問答をしていたんだい? 何か用があるなら、僕を頼って欲しいな」

 王子の言葉は渡りに船だった。少し卑怯かもしれないが、ここはその言葉に甘えるより他はない。これ以上、無駄な問答を続ける時間はないのだ。

「えっと、今日はこれからお城で大事な話し合いがあって、中に入りたいんです。それで、私を中に入れてもらえませんか?」

「なんだ、そんなことでいいの。だったら一緒に行こう」

「王子! なりませぬ!」

「そうです! 一応、呼ばれてもいない平民を通すことはできませぬ!」

 王子が直々に誘ってくれているのに、衛兵二人はそれを止めようとする。魔物の襲来があってからこっち、衛兵のチェックが厳しくなっていたとは聞いていたが、まさかここまでとは。

 しかし、フランツは二人の制止も意に介さない様子だった。優雅な所作でエルリッヒの手を取ると、構わず進んでいく。そして、去り際に二人に向かい、こう言い放った。

「悪いんだけど、彼女は僕の、いや王家の客人だ。危険人物でないことも、氏素性も、全部王家が保証するよ。だから、通してもらうよ。いいね?」

 穏やかな性格で、どこか世間知らずな雰囲気のある王子が不意に見せしっかりとした表情。それには、さすがの二人も何も言えなかった。

「さ、行こう。大事な話し合いとやらのこと、聞かせてくれるかな?」

「もちろんです!」

 かくして、エルリッヒはなんとか衛兵二人を乗り越え、会議に遅れずに城内に入ることに成功した。


☆☆☆



〜再び中会議室〜



「ちょうど、身分の高い知り合いがお城に帰ってくるところだったんで、事情を説明して通してもらったんです。本当に助かりました」

「そうだったか。いや、何より何より。このまま一人で参加するのかと思ったら、緊張して腰が抜けるところじゃったからな。助かったわい」

 中に入れさえすれば、後は簡単だった。軽く今日の用事を話してから王子と別れ、他の列席者に紛れてこの中会議室まで行けばそれでよかった。

 一応、数が一人増えることになるので、椅子が一脚足りなくなっていたが、最後ではなかったために目立つこともなく、数え間違いだったのでは、ということですぐに追加の椅子が用意された。

 これで、準備は万端だ。

「さて、改めて国王陛下からのお触れを整理しておきたいと思う! 要件は簡単だ! 城の兵士の装備を整えようという案が議会で上がっているが、賛成か、反対か。この二つである! 本来であれば、騎士団が独自に判断することだが、多くの兵士の装備を一斉に調達する故、多くの税金が動く。そこで、このように意見を問うことになった次第である!」

 司会をしているのは、見たことのない中年男性だ。おそらくは、どこかの貴族だろう。

「皆、忌憚のない意見を聞かせて欲しい!」

 本当であれば、税金は王都だけでなく国中から徴収されるため、外の街の意見も聞くのが筋だろうが、そのようにはなっていない。さすがに大掛かりすぎるからだろうか、それとも、王都から徴収している分だけで賄う予定なのか。確認しても意味のないことなので、今の段階では黙っていることにした。

「そうだな、最終的には全員の意見を集めることになるが、まずは挙手制で意見を聞きたい。誰か、意見を言いたいものはおるか?」

 その問いかけに、颯爽と手を挙げたのは一人の貴婦人だった。

「はい、そこのご婦人。発言の前に、通りと自分の名前を言うように」

「わたくしは絹糸通り代表のフレアローゼンです! 率直に申し上げて、今回の武具購入ですか? そのようなものには、我が通りは反対いたします!」

 それは、王都で暮らす女性なら知らない者はないというほど有名な、ドレスのデザイナーだった。貴族や大商人を顧客に抱え、何人ものお針子を雇って日夜新作のドレスを作り続けているという、まさに働く女性の憧れのような人物である。そんな彼女が、まさか絹糸通りの代表を務めていたとは。いや、知名度や商売の実勢からすれば驚くことはないのだが、少し意外だった。

(まさか、そんなめんどくさい役職を引き受けるなんて……)

 仕事に集中したいと思えば、他の職人やデザイナーに回してしまうのが筋だし、彼女に言われれば、誰も断れないはずだ。全く面識もなく、その名声だけを知るに留めていたため、こういう一面もあるのだろう。

「さて、反対意見ということだが、もう少し詳しく聞かせてもらえるかな?」

 司会の言葉を受け、フロイライン・フレアローゼンは水を得た魚のように語り始めた。




〜つづく〜

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