ニート、道理を説く
「まあ、フォルツァーノ様の言葉を信じるとしても、私にとっては予想外だったんですよ。私がこんなに早く見つかってしまうことも、ジークムント・エルマンが生きていることも。貴族って、案外しぶといんですね」
にっこりと笑われるがそんなことを言われましてもって気分だ。
「どうして。アイマー先生、君は本当に、自分の行いが正しいと、間違っていなかったと考えているのかい?」
理事長はまだ信じられない、という顔をする。
この人にとってのアイマーはよっぽど『いい人』だったんだろう。
貴族嫌いで、貴族いっぱいの仕事場を辞めて学園に戻ってきて、生徒をずっと見ていたっていう時点で私としてはそりゃあ貴族嫌いがカンスト――許容範囲を超えても仕方ないだろうと思うんだけどね。
ああ、もちろんそれを実行するかどうかは別としてだけど。
アイマーは理事長の悲しそうな顔を見てすっと目を伏せる。
理事長もいい人なんだなあ。慕われてるっていうのかな。
宮廷魔術師長の所為でおびえて震えている姿しか思い浮かばなかったけど。
「だって、だってエルマンは嫌な貴族でした。いつでも自分が正しいみたいにふるまって、私たちを苦しめるんです。一般生徒は痛くても耐えなくちゃいけない。痛かった、私たちを苦しめながら、笑って、先生に訴えてもだめだった。みんな向こうの肩を持つ。だから私が自分たちを守る必要があったんです。私達を、私を――!」
アイマーは自分の正当性を必死にアピールしていた。
していたんだろうけれども、なんかおかしい。というかこれはきっと彼女の学生時代と混ざっているんだろう。
エルマンは確かに嫌な貴族の子供だったし教師でも貴族出身じゃない相手には高慢だったみたいだけれども、ほかの教師に目をつけられないように姑息な手段だったみたいだ。ドンナー君に攻撃していたけれども教師に対してはそんなことをしないだろう。
それに、アイマーが主席で卒業したほどの力があるならばエルマン程度なら敵ではない。
先生に訴えたってのもね。彼女はおそらく、前職を辞めた後教師になる前に一度休んだ方がよかったのかもしれない。
まあ、休むほどの余裕があるのかはわからないけれど。
「私を、私たちを守るために必要な行動だった!貴族なんてみんなそうよ、だから私は」
「攻撃的な守りですわね。ねえ先生」
彼女も傷が癒えていなかった、それは彼女の不幸だ。
「アイマー先生が教師になった、その時から、貴族の子供たちはみんな敵だったのかしら」
私の言葉に対してアイマーは口をパクパクさせながらも何も返さない。
「もし、そうだったのなら。そう思いながら教師になったのなら、それはとてもひどい行いだと思いますわ」
学園の卒業生なら、学生時代に貴族に関することで嫌な思い出があるのなら、学園で教師をすることで貴族とかかわらなくてはならない、なんてことはわかっていたはずだ。
嫌いな『貴族の子供』相手の仕事だとわかって就職して、イライラをためる。
その結果が多くの人を、一般の人も巻き込んだあの有様だとしたら、それは彼女の罪だ。
嫌いなものとかかわる仕事を自分で選んで、それが嫌いだから他も巻き込んで命まで脅かす。
それこそ傲慢じゃないか。
「だって、でも、私は」
「別に、教師たるもの完璧であれ、なんて言いませんわ。嫌いなものがある、よろしいじゃありませんか。どんな人間でも受け入れるといわれる方が信じられませんもの。人間というものは合わない人間や嫌いな人間がいるものですわ」
貴族の子供がトラウマになるほど嫌いだってわかってて関わる仕事に就くのはどうかと思うけどね?
「でも、それでも、だからと言って相手を危険にさらすことは許されないことです。だから通常はそんなことをしないのです。そんなことをする前に、その人たちから離れた方がいいのです」
「――」
「力ある者が規則を、規律を破る。それは、貴女が嫌っている高慢な貴族と同じなのではありませんこと?」
「あ、ああ」
私の言葉に、アイマーは顔を両手で覆い、床に座り込んでしまった。
理事長が慌てたように彼女に駆け寄り、背中をさすってあげている。
それがきっかけになったのか、彼女は本格的に泣き出してしまった。
漏れ聞こえる嗚咽に、私も宮廷魔術師長も何とも言えない表情を浮かべてしまう。
ああ、もっと悪役然としていてくれればいいのに。
こうして、少々後味が悪い形で今回の事件は幕を下ろした。




