ニートの前で犯人は語る。
日付感覚麻痺
あーあ、なんて大げさに嘆いて見せるアイマーに、理事長は困惑気味だ。
私は彼女がやったことの理由は結構どうでもいい。
というか彼女と理事長の関係のほうが気になるぞ。仲良しか?親子?
まさか兄弟は――ないだろうなあ。年齢が離れてるし。むしろ祖父と孫のほうがしっくりくる。
そんな、私の心の中のどうでもいい疑問はもちろん無視されてしまう。当たり前だけど。
「アイマー先生」
「ジークムント・エルマンは、本当に貴族の子供らしい子供でした。私みたいな庶民での教師には威張りっぱなし、反対に自分より身分が上の貴族なら、下級生にすら媚びへつらう。貴族の子供の、嫌なところを集めたような子供。ジークムント・エルマン以外にもそういう生徒はいたけれど、彼は本当に目立っていた。だから、彼を選んだんですよ。いくら貴族だといっても、しょせん魔法が使えず自滅する程度なんだ、そんな見せしめの意味も込めてね」
ふっと笑うその目はじとりと暗い湿り気を帯びていた。
恐らく、アイマーはエルマンが嫌いだろう。だが、彼女の中の、『貴族への怒り』を作ったのはエルマンではない。
彼女はエルマンをその怒りの矛先に仕立て上げたのだ。そうしながら、最初からエルマンを選んだのだと口にする。
「もし、ジークムント・エルマンが魔法を発動していたら、どうするつもりだったんだね?」
「ジークムント・エルマンには無理でしたよ。だってあの子、緊急回避用の呪文を覚えようともしなかったんですもん」
宮廷魔術師長の問いかけにアイマーはくすくすと笑う。
「エルマンだけじゃない、君の嫌いな貴族だけじゃない。君は大勢の命を危険にさらしたんだぞ!」
そんな軽い態度のアイマーを理事長が怒りの表情を浮かべて強く詰った。
そんな理事長の怒りを向けられても、アイマーはどこ吹く風。
「大丈夫ですよ、だってフォルツァーノ様がいましたから。それに、宮廷魔術師長だってシュラーク・ドンナーの成果を確認しに来るって話がありましたし」
そういって、彼女は私に目を向ける。
嫌な目だ。いじめられっ子が、自分を助けようとした委員長を責めるときの目だ。私は我関せず派なんで思いっきりにらまれた経験しかないけど。
「でも、残念だなあ。本当はフォルツァーノ様がジークムント・エルマンごとあの魔法をびしっと片付けてくれるって思ってたんです。でも、助けちゃうんですもの。結局フォルツァーノ様も貴族を助けるんだなって、がっかりしました」
「勝手に期待されて、勝手にがっかりされても困るわ。助けられる人間がいたから助けただけですから」
私も人間だからね。目の前で私なら助けられる人間がむざむざ犬死するのをティータイムしながら観劇するような鬼ではない。
胸糞悪いし後味悪いし薄気味悪いからね。
そんな私の心からの言葉を、しかしアイマーは信じてくれないようだ。
彼女の中の私像はいったいどうなってるんだ。どんな血も涙もない鬼なんだよ、さすがに血も涙もあるよ人間だもの。
「どうせ貴族だから助けたんでしょ?シュラーク・ドンナーでも、関係のない一般生徒でも助けたんですかあ?」
「私の目の前で助けられる状態でしたら、もちろん」
心からの言葉なのに信じてもらえないリターンズ。なんであんなじとっとした、嘘つけこの貴族みたいな目で見られなくちゃいけないんだ。
これ、私のイメージというより貴族全体のイメージがあり得ないくらい悪いな?悪い方に振りきれてるな?
そんな血も涙もない鬼みたいな所業をする貴族ばっかじゃないよー。いないとは言えないけどね。




