ニート、ドンナーの話を聞く。
「エルマンは、その、すっげえ嫌な奴で、俺、あまりいい思い出はないんです」
眠り続けるエルマンを見下ろしながら、ドンナーくんがぽつりぽつりと語り出す。
その内容はなんというか、嫌味を言ったり集団で囲んだりとやりたい放題だ。
エルマンは典型的な貴族の子供だったらしい。それも、悪い意味で典型的な。
ドンナー君は理事長たちにも聞いたのだが、いわゆる彗星のごとく現れた天才児、みたいな奴だったらしい。
普通は魔法の素質があるかどうかで入学が決められる。
貴族ならまだしも、平民からやってくる場合は呪文書だって読めないのだから魔法が使えるはずがない。
そんな中、ドンナー君は雷属性の魔法が使えた。そのことで注目されていたドンナー君のことが許せなかったようだ。
自分に突っかかってくる貴族、そりゃあ平民なら怖い。
ドンナー君は委縮して、さらに文字が読めないことで呪文書を読み解くのに時間がかかり、落ちこぼれていったみたいだ。
雷の魔法については、実家であるお店によく顔を見せる魔法使いが一つだけ、魔法を教えてくれたんだそうで。そんな話を無詠唱呪文を教えていたときに聞いた。
教えてもらった子供たちの中で自分だけが使えたんだと照れたように話してくれていたっけ。
「エルマンは自分の魔法のほうがすごいっていっつも言ってました。僕だってそれくらいわかっているのに、何故か僕にずっと言ってきてて。――でも、こんな風になっていいわけじゃないと思うんです」
「エルマンさんは自分の行いが返ってきただけ、でもあると思うわよ」
「でも、禁書を持ってきた人がいなかったら使おうとしなかったと思うんです。きっと、僕がフォルツァーノ様に無詠唱魔法を教えてもらって、それを使えるようになって、そのことに焦って、それで――」
「ドンナーさん」
ドンナー君の言っていることはある視点からいえば正しい。
ドンナー君が自信をもって魔法を使えるようにならなければエルマンも焦らなかった。
黒幕が禁書を渡さなければエルマンは禁書を読むこともなかっただろう。
だが、それでも。
「それを選んだのはエルマンさんであること。それだけは変わりません。たとえ、その道に進むように誘導されたとしても。ドンナーさんが努力をして焦るのも普通のことでしょう。ですが、エルマンさん以外の貴族の子女は禁書に手を付けておりませんわ。貴方をいじめる、という手段を択ばなかったものも多いでしょう。禁書を与えられても。それをすぐに教師に伝えるという方法もありました。禁書に書かれた呪文に手を付けないことも選ぶことはできました。そのことについて、ドンナーさんが悩む必要はありません。エルマンさんは、その対価を支払う必要がありますわ」
ドンナー君は悲しげに目を伏せた。
いじめている、と感じられても困るが事実だ。
例えば、私と出会ったことで自信をへし折られた魔法使いが過去何人もいるのだが、彼らが全員それ故に私を攻撃したり、禁断の術に手を出したりしたかといえば答えはノーだ。
自分をもっと磨くことにした者、諦めた者、やさぐれた者、罵倒してきた者、色々いた。もちろん、禁書系の呪文に手を出した者だっていたと思う。
でも、全員じゃない。何故か魔法使いを辞めてトップクラスの剣士になった人もいたくらいだ。
ただ、それはみんな自分の足で立って、生きて、魔法を使っていた人たちの話。
エルマンは学生だった。私はそのことについては重きを置いている。
「ただし、学生であるエルマンさんの考えを誘導したということですから、その犯人を許すつもりはありません。今回は怪我人もエルマンさん本人以外いませんもの、もう一度、やり直すこともできると思いますわ」
「フォルツァーノ様……」
「その道は険しいでしょう。それでも、やり直すことができれば、強くなることもできるでしょうね」
そのために手を伸ばすのは学園の仕事だ。私の仕事じゃない。
今は私にできることをするだけだ。
「さて、私はそろそろお暇しますわ。ドンナーさんも、思いつめないように。考え込んでしまうようでしたら魔法の練習をするといいですわよ」
「そう、ですね。はい、頑張ります。フォルツァーノ様もお気をつけて」
何か考えていたらしいドンナー君ははっとした顔をして、頷いた。
そんなドンナー君に見送られて私は部屋を後にする。
下準備は終わったし、あとは魔法を使うだけだな。
どうせだから教師を一か所に集めてもらおう。そうすればポインターの魔法だけで確認できるからね。




