ニート、後処理をする。
「本日はご足労いただきまして、誠にありがとうございます」
深々と頭を下げるのはこの学園の理事長。
魔法使いに関しては宮廷魔術師長が最高責任者だが、実際に学校として経営したり今回の試験のようなイベントごとを管理するのは理事長以下学園の教師たちである。
その理事長は宮廷魔術師長と私に何度も何度も頭を下げるのだ。
「それくらいにしたまえ。幸い客席、学園関係者とも大きな被害は出ていないのだ」
「はい、本当にお二方のお力のおかげでございます」
鬱陶しそうに理事長を止めようとした宮廷魔術師長の言葉にますます理事長が頭を下げてくる。
この人がこんなに腰が低いのも、あの試験のごたごたの所為だ。
観客席は宮廷魔術師長の張った結界によって守られた。
エルマンの魔法は私の魔法で止めることができたが、元々制御できそうになかった魔法の余波で舞台上は悲惨なことになっていたから、結界がなければ破片とかで怪我人は出たかもしれない。
エルマンも生きている。
怪我はそれほどでもなく、喉を壊すこともなかったが自分の魔力で扱いきれない魔法を使おうとした代償として魔力の枯渇が起きてしまったようだ。
これに関しては、本人の自然回復を待つしかない。
ただMPが0になったのとは違うからね。どちらかというとMPゲージが使えなくなっているって感じかな。格闘ゲームで必殺技が連発できない仕組みみたいな感じ?できるのもあるかもしれないけど。
そんなエルマンには宮廷魔術師が数名付いている。
彼が目を覚まし次第ことのあらましを聞く必要があるからというのが一つ。
もう一つは彼にあの魔法を与えた人間がもう一度接触してくることを警戒して、だ。
「我々としましても、お恥ずかしながら犯人探しが進んでいませんで……」
「あの本自体は図書館に置いてあるからな」
理事長に対して宮廷魔術師長が苦虫を噛み潰したような顔で返す。
その顔めっちゃ怖いからやめればいいのに。理事長がガタガタ震えていて可哀想だ。
そんなことを思いながら私は前に置かれている紅茶に手を出す。
うーん、エルザが入れる紅茶のほうが美味しいわね。ま、専門家じゃないからしかたないね。
この学園では禁書はちゃんと禁書置き場に置いてある。
置いてはあるのだが、その禁書置き場は図書館の地下にあり、地下に向かう扉には鍵はかかっているものの、ごく普通の鍵なので開けようと思えば開けられるし、鍵自体も職員室に置いてあるから教師ならだれでも手に入れることができるのだ。
え?なぜ私がこんなに詳しいかって?
……いやあ、禁書って響きからして惹かれるものがあるよねえ。
「容疑者の数が多すぎる。どうにか絞れればよいのだが」
宮廷魔術師長も頭を抱えているようだ。
あれ、私ってそのために呼ばれたんじゃなかったの?そのつもりだったんだけど。
「オーデム宮廷魔術師長閣下。私がお手伝いしますわ」
誰も話を振ってこないので自分から手伝いを申し出る。
理事長はきょとんとした顔、宮廷魔術師長は、何故か渋い顔だ。
「しかし、エルヴィーラ嬢。貴女への負担が大きすぎるのでは」
「この魔法は得意ですもの、負担にもなりませんわ。それに、私の魔法が一番簡単で正確な結果をもたらしますわ」
それでも宮廷魔術師長は渋い顔だ。
なんだなんだ、もしかして心配してくれてるのか?このおっさ――もとい宮廷魔術師長は。
私の名前を貴族たちに知らしめた一番最初の魔法
それ以来それなりに愛用し、改良してきたので防御膜の次くらいに身に馴染んだ魔法だ。
まあ、あまりにも効果がありすぎて、疑心暗鬼が捗ってしまうんだけどね。
「未来のある生徒を巻き込んでいるのです。この学園の生徒にかかわったものとして、私にも責任がありますわ」
ドンナーくん以外とはあまり関わってないけれど。
でも、そのドンナーくんはエルマンのことをとても心配しているみたいだった。
仲が悪そうだったのに意外だがやっぱり関わりがあった分気になるのかなあ。
「――エルヴィーラ嬢、頼みます」
「頼まれましたわ」
宮廷魔術師長は渋い顔のまま。
私もすました顔のまま、紅茶の香りを楽しむ。
理事長だけが置いて行かれたままだった。




