ニート、本領発揮
さて、あれをどうにかするためにも下準備が必要だ。
私はハルを振り返る。あの魔法が万が一にも暴走した場合、本人以外で一番危険な場所にいるのはハルだからね。
「ハル、良いと言うまで後方待機してくださいね」
「しかし」
「アレの始末は骨が折れますの」
私の言葉に渋々ながらハルが一歩退く。
念のために防御幕の応用で客席側と舞台を引き離すようにしておいた。
しかし、少し困った。
魔法使い相手なら私は最強なのだが、それだけでこの魔法を止めることはできない。
というか、この魔法のいやらしいところは呪文を言い終わる前に唱えることを辞めさせると暴走して唱えていた魔法使いを巻き込んで暴走してしまうのだ。そうならないように、呪文書には緊急回避の呪文が乗っている。
あの本に目を通したのならそれも知っていると思ったが、ここまで魔法に呑まれているとほかのことが頭から消えてしまうようだ。
それ故に私の≪魔法使い殺し≫は封印せざるを得ない。
下手しなくてもエルマンの命はないからね。
「仕方ありませんわ」
この呪文、作用も中断した場合のペナルティも最悪なのだが、作った本人もそう思ったのか反対呪文として本人以外がこの魔法を止める方法も同じ呪文書に書いてくれている。
それでも、その危険さから門外不出の書扱いなんだけれども。
呪文を頭の中に思い出しながら、私はエルマンが突然移動したり物理で襲い掛かってこないように足止めの魔法を繰り出す。
まあ、よくある蔓草の縛りつける魔法なんだけれども。よくある気がする、こういう宝食いとか、モンスターとか。
エルマンは邪魔だと言わんばかりに顔をしかめて、腕や足をでたらめに動かしてなんとか拘束を解こうとする。しかし呪文は唱えたままだ。
こういう時、火の魔法とか使ったほうがいいんだけどね。
あれ、もしかしてエルマン君は緊急回避の魔法を知らないとか?
あの本を丸々読んでないのか、読んだけれども必要だと思った場所しか覚えなかったのか、どっちだろうね。
そんなことをぼんやり考えているうちに、呪文書にあった呪文をすべて頭の中に思い描くことができた。さすが私。自分で自分をほめておこう。
「では、まいりますわ」
そう言って手をエルマンのほうに向けてかざす。
足元に複雑な文様が蔓のように浮かび上がる。これは私の演出だけど。
エルマンに向けた手の中には青っぽい光。
その光はいったい何だと不思議そうな顔をしているエルマンを一瞬で飲み込んだ。




