ニートノットイコール謙遜
いやあ、さすがドンナーくんだ。私も鼻が高い。
今にも吐きそうな顔いろで出てきたときは試験なんぞ諦めて休んだ方がいいんじゃないかと思ったが、私がいるこの貴族用観客席を見た後何故か吹っ切れたような顔をしていた。
その後の魔法はとても素晴らしかった。何より、苦労してますという表情を見せずに魔法を披露できたのが良かった。見るからに「頑張ってます~無理してます~」じゃあ私の伝えたいことは伝わらないからね。
「いい魔法でしたわ。ねえ、ハル」
「お嬢――様、の教えが良かったのだと思います」
いつも通り呼べばいいのに何故か間をおいて様付けしてきたのはなんでしょうね、嫌がらせでしょうかね。
私の後ろ側にいるので顔が見えないのが残念だ。見えたらほっぺたとかつねってやるのに。
「さすがはエルヴィーラ嬢、でございましたな」
宮廷魔術師長が感心した、といった様子で私に声をかけてきた。
何故かそっと距離を開ける貴族席の人たち。従者のうち数人は誰に言われるでもなく温かい飲み物を作りに奥に引っ込んでいってる。
そんなに寒いか?パフォーマンスをしている生徒たちだって平気そうだけど。
「あら、そのお言葉、有難く受け取らせていただきますわ。ですが、先ほどの魔法の披露に関しては、ドンナーさんが努力した結果にすぎませんもの」
「まさか、エルヴィーラ嬢の口から謙遜を聞くことができるとは」
「まあ、私は事実しか言いませんの。ですから、出来ることをできないと申し上げないだけですわ」
自己評価は高くもなく低くも無くが一番だ。まあ、どんなに低く見積もっても私はこの国最強の魔法使いなんだけどね。
いやあ、才能チートってすごいわあ。身分もあるし、美貌もあるし、素敵なメイドさんたちもいるし、謙遜でも自分を貶めることは口にできませんわな。
それに、ドンナーくんが頑張ったのは本当だ。別に私の教えた無詠唱魔法は誰でも簡単に魔法が使えるようになるお手ごろツールじゃないからね。
ドンナーくんは私の無茶ぶりに頑張ってついてきたし、自分は何もできないと言いながら講義を休むことはなかった。なにより、今のパフォーマンス中も私の言った通り、防御膜を維持し続けていたのだから彼の魔法は彼の努力によるものとしかいえないだろう。
「ですから、ドンナーさんの頑張りは、ドンナーさんの頑張りとして口にさせていただきますわ」
「……なるほど」
私の言葉に、宮廷魔術師長は何か言葉を探すように沈黙して、一言だけ返してきた。
「さて、次はどなただったかしら」
「ジークムント・エルマンですな。エルマン子爵の息子ですが、魔力の容量が大きいためかなりの魔法が使えるとか」
「あら、そうなの」
会場に上がってきた生徒を見て貴族席の、少し離れたところにいた中年男性が立ち上がって応援しだした。あれは父親か何かだろう。
一方の男子生徒、エルマン少年はどこか思いつめたような顔をして、そして、にやりと笑った。
「良くない顔ですね」
「ハルもそう思う?私も、よろしくない予感しかしませんわ」
後ろにいたハルが思わず、といった様子で少し前に出てきてしまっていた。ちらとみれば護衛として付いてきていた従者のうち、数人が同じような反応をしている。
そうでなくても勘がいい大商人や数人の貴族が不安そうな顔をしているところからこの予感が根拠のないものではないと知る。
「オーデム様」
「エルヴィーラ嬢、申し訳ないがこちらは任せても?」
「いいえ、私が行きますわ」
何が、や何を、という言葉は口にはしなかった。
だが、宮廷魔術師長が考えていたことも私と同じだったのだろう、しかし、と口を開いたがそれ以上は言葉が出ず、お願いいたしますと目礼が返された。
「こちらの席はお願いいたしますわ。ハル、付いてきて」
「はっ」
椅子から立ち上がった私にハルがついてくる。
背後では、彼の魔法が開始されたのであろう、歓声が聞こえていた。




