ニート、≪瞬間移動≫を体験させる。
城門につくと少し周囲がざわりと騒がしくなった。
まあ、突然人間が目の前に現れたらこういう反応にもなるだろう。
「も、もしやフォルツァーノ様ですか?」
恐る恐る、と城門に詰めている兵士の一人が声をかけてくる。
突然現れたからと言って「怪しい奴、であえであえ!」みたいな展開にはあまりならない。
≪瞬間移動≫を使える時点で魔法使いであることは確定だ。それも、それなりに強いことになるらしい。
この国で強い魔法使い、白い髪であること、それは私を思い浮かべるのに十分な情報なのだ。
まあ、他の魔法使いでも様子見をされてすぐに捕まるってことはないけどね。というか門番兵には荷が重すぎるんだよ、魔法使いは。
「お仕事中失礼しますわ。すぐに移動しますから」
「え、まさかまた」
「≪瞬間移動≫しますわ」
驚きで固まっていたドンナー君が私の言葉にばっと顔を上げてきたので頷いておく。
そんな絶望した、みたいな顔しなくてもいいじゃない。ただの≪瞬間移動≫よ。
次に向かうのは外と隔てる門、の詰所だ。
城門は思ったより人がいるし、こっちの方がなじみがあるだろうからね。
私はもう一度、ドンナー君を掴んで≪瞬間移動≫を行った。
「フォルツァーノ様、今日はどうされましたか?」
「御機嫌ようハインツ。今日は彼に≪瞬間移動≫を教えているの」
ハインツの問いにドンナー君を紹介する。
「これからこの子だけでも≪瞬間移動≫することがあるかもしれませんわ。よろしくね」
「はい、かしこまりました」
ハインツが頷き、ドンナー君に頭を下げる。
それに対して慌てるドンナー君。門兵長と顔を合わせることってそんなにないからかしら。
「では、先ほどの部屋に戻りますわ。ちゃんと≪瞬間移動≫の感覚をつかんでくださいね」
「え、そんな無茶な」
何か言っているドンナー君を連れてもう一度≪瞬間移動≫を行った。
「お帰りなさいませ」
「あら、ハルにそう言ってもらうのは新鮮だわ」
部屋に残っていたハルがこちらに気付いて軽く頭を下げる。
主に対して軽く、というところはどうなんだとも思うがお帰り、なんて言ってもらえるのはちょっとした移動であってもうれしいものだ。
ドンナー君はへたりと床に座り込んでしまった。
≪瞬間移動≫は同行者の魔力とかを利用したりはしないから疲れる要素ないと思うんだけどなあ。
ああ、でも運転しなくても車に長時間乗っているだけで疲れることってあるから、それと同じかしら。
だとすると、ちょっと悪かった気もするわね。時間は短かったけど。
「さて、ドンナーさん。貴方には最初にこの≪瞬間移動≫を覚えていただきますわ」
「そ、そんな。≪瞬間移動≫はかなり高度な魔法で」
「それは呪文と魔法陣を使うから、ですわね。その手間を省けば使いやすい魔法の一つですわよ」
距離が離れていたり記憶があやふやだと魔力も使ってしまうが、学園からハインツたちがいる門のところまでならドンナー君レベルでも一日に数回はチャレンジできるはずだ。
「最初は門付近の風景をはっきりと思い浮かべるところからですわ。大丈夫、一度覚えてしまえば簡単ですから」
「その覚えるというのが難しいと思うんですけど」
ものすごく暗い表情で呟くドンナー君をみていると私も落ち込みそうになるわね。
「さあ、実際に見てすぐだから今のうちに始めましょう」
しかし、そんなことで立ち止まるわけにはいかない。
少々厳しいかもしれないが、びしばしと指導を始めようと思う。
すっとドンナー君の目を覗き込むようにして開始を知らせると、なぜかドンナー君がひっと小さな悲鳴を上げた。




