ニート、学園に向かう
今日も今日とて外出である。
あれからしばらくして宮廷魔術師長から生徒選出の知らせが届いた。
向こうはやる気らしい。まあ、強くなれるなら最初から嫌がるってことはないでしょうけど。
馬車で学園に乗り付ける。
「ようこそお越しくださいました、フォルツァーノ様」
案内役の教師が恭しく頭を下げる。彼に連れられて、私とハルは学園の中を移動することになった。
今日はシックに灰色のロングワンピースだ。向かう先が学園だから飾りもできる限り減らしてもらっている。
長期休暇が始まった学校はとても静かだ。貴族たちは茶会や夜会で忙しいから顔を出さないし魔法科に通う一般市民だって家の手伝いに帰っているのがほとんどだ。
残っているのは比較的富裕層であり、貴族でもない家の子や家に帰ると迷惑がかかるため残っている子、勉強や研究が残っている子、帰りたくない反抗期、といった所か。
いないわけでもないその生徒たちは、私を見ながら何かひそひそしている。制服ではないからか、見知らぬ人間だからか。
両方か。
どうでもいいことを考えながら歩いていると、ようやく指定された部屋にたどり着く。
教師が扉を開けてくれたので礼を言って中に入る。無論、ハルも一緒だ。
「御機嫌よう。貴方がシュラーク・ドンナーですわね?」
「は、はい!」
扉の向こうにいたのは赤毛の少年だった。
緊張していたのか、入ってきた私を見てびくりと肩をはねさせ、声をかけると詰まりながらも元気に、緊張が空回りしたような大き目の声で返事をしてくる。
前情報によると、彼は新入生ではない。そして、学園側からの提案に一も二もなく飛びついてきた。
これはつまり、彼は落ちこぼれ側の人間なのだろう。
魔法が使えるからこの学園に入れられたが周囲にはついていけず、落ちこぼれる。
そんな自分が提示された最後の道として私の指導を受けることにした、というところかしら。
そもそも、この国の識字率はそれほど高くない。世界的に見ても同じだ。
冒険者ギルドなどのギルドではギルドメンバーのために文字を教えているところも多い。むしろ、金をかけず文字を読み書きできるようになりたいのならギルドに入ることが一番の近道だ。
幼いころから文字の読み書きを教えられるのはゆとりのある商人の跡取りか貴族ぐらいだろう。
最初から文字が読める状態で入学する貴族と一般市民とではその時点で大きな差が生まれているのだ。
呪文は文字で起こされている。音声で伝えるなんて無理と無駄がありすぎるからね。
文字が読むことができれば読めない人間が文字の解読をしている間に呪文の練習ができる。
それが積み重なれば、大きな差になるだろう。
つまりは、そういうことだ。
そんな緊張している少年。年齢は私と同じくらいだろうか。
「よ、よろしくお願いします!」
ロボットのようにぎこちなく頭を下げるその少年を見ながらそうね、とつぶやく。
「まずは、自己紹介からにしましょう。お茶の準備をしなくてはね」
私の言葉に、少年はぽかんとした表情をこちらに向けてきた。




