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ニート、魔法論議

今回いつもより長いです。

 簡単に倒した、なんて口にするけれども割と重労働だった。

 というか時間がかかるのなんのって、正直この階層ごとぶっ壊したくなったよね、仕方ないよね。

 弱った人間がいることを感じ取った宝喰いが集まってきていたのか、人数の所為か、そもそもここにしか人間がいないからなのか。

 なんとか安全と言えるほどに殲滅が終わったときには仮死状態だった冒険者たちも目を覚ます頃合いになっていた。

「お嬢様、ご無事で」

「ええ。みんな、その、ありがとう。無事で、よかったわ」

 少し照れたようにお嬢様が目を覚ました冒険者たちにこたえ、彼らも心からほっとしたようにお嬢様に声をかけていた。

「お嬢ちゃん、本当に助かった。あんたらがいなけりゃおれたちどころかお嬢様も生きてなかった。本当にありがとう」

 ルッツは私に頭を下げていた。隣にいた魔法使いは頭を下げつつこちらをじぃっと見つめていて、少々気になる。

「かまいませんわ」

 とりあえずルッツに軽く返しながら魔法使いの方をちらりと見る。

 それに気づいたルッツも魔法使いの方に視線を向けた。

「ゲルト、どうしたんだ」

 魔法使いはゲルトというらしい。まじまじとステータスを見たりしていないから名前知らなかった。

「あんたの、それはなんなんだ。魔法なんてもんじゃない」

 何を言うかと思ったら、少し呆れてしまう。

「おいゲルト。助けてくれた相手にその言い方は」

「お前も見ただろう、ルッツ。呪文を口にせずに魔法は使えない。なによりあれだけの大魔法ならば魔法陣の準備が必要だ。そもそも、魔法陣を用意したところで死にかけだったウェールド達を回復させるなんてできるはずがない」

 この人こんなにしゃべるのね。

 お嬢様は理解していないらしく首をかしげている。仮死状態だった二人も同様なので彼らを仮に脳筋グループとしよう。まあ、魔法使いでもなければ詳しく知らないでしょうけど。

 ルッツはパーティーに魔法使いを入れているだけあって少しの知識ならあるらしい。

 ううむと唸りながら魔法使いの発言を否定できずにいる。

「それは勘違いですわ。魔法とはもっと自由ですもの」

「ありえない。俺はこれでもこの国の学園で魔法を学んだことがある。あんたよりは魔法に詳しい」

「私の魔法を知らない時点でそれは間違いですわねえ」

 まあ、この国の魔法方針は呪文必須、高難易度の場合は魔法陣必須だから彼の言葉が間違いとまではいわないけれど。

 この国に限らず大抵呪文必須だけれども、魔法陣に関しては実は距離が離れている国だともう少し自由だったりする。

 短冊状に切った紙にあらかじめ簡易魔法陣を書いたものを利用する国や、自分だけの魔法陣辞典を作る国、地面に杖を使って書く国があれば床にペンキで書く国だってある。

 私の場合は演出以上の意味がないので書くのではなく発動するときに出てくるものしかないけれども。それも面倒な時は省くし。

「俺は魔法宰相殿の講義も受けたことがある。あの方もそんな話はしていなかった」

「あの方は魔法の腕はそれなりにありますが、完ぺきではありませんもの」

「おいおい、さすがに不敬じゃねえか?」

 私の言葉にルッツがさすがに口をはさんできた。

 まあ、普通の家ならそうだろう。私にとってあのジイさんは兄をいじめる老いぼれだから風当たりは強いのだ。

 それに、私の魔法はちゃんと魔法なのだから、それを存在しないなんて言う方がおかしいのだ。自分が見たものくらい信じろよ。

「と、とにかく!」

 私と魔法使いがヒートアップし始めたことに気付いたのか、お嬢様が突然大声を出す。

 全員の視線が――われ関せずだったハルやエリーザも含めて全員――一斉に自分に向けられてさすがのお嬢様もびくりと肩を震わせたが気丈に顔をそらさず、お嬢様は私たちを見て言った。

「貴女のおかげですわ。私は、魔法というものをよく存じ上げてないけれど。貴女が魔法だというのなら、きっと魔法なのでしょうね。その、私たちの常識を超えた魔法がなければ私たちはこうして貴女と会話もできていないもの。本当に、ありがとう」

 これには少し驚いた。このお嬢様、ちゃんとお礼が言えるのである。

 いや、こんな言い方は失礼だと思うけれども、やっぱり驚くものはしょうがない。

 そんな私の驚きを感じ取ったらしくお嬢様は顔を真っ赤にしてぷいと顔をそらしてくる。

「わ、私だって、感謝の気持ちを伝えることくらいできますわ!――これまでの態度が悪かったことはわかっていますけど」

 わかっていたのか、なんだこれツンデレか。

 別にツンデレが好きなわけではないが、素直に礼を言ってくれるのは受けとる程度に素直な子は好きだ。

「知った危機を見捨てるほど非常ではなかった、それだけですわ。まあ、これに懲りたなら無理はしないようにしなさいな」

「そうね、私のせいでみんなまで危険にさらしたんだもの、反省しているわ」

 しゅんと肩を落とすお嬢様に冒険者たちが大慌てである。どうやら今までこんなに殊勝な態度をとったことがないらしい。さすがはお嬢様。

「俺達もすみません。お嬢を守るのが仕事だというのに」

「ルッツが止めてくれたのに進むと言ったのは私よ。そう、私は私と同じくらいお嬢様らしい貴女が強いということを認められなかったの。冒険者どころか貴族失格だわ」

「そんなことありません!」

 ルッツが慌てて慰めているが、彼女の言葉は正しい。

 そもそも貴族の令嬢が自分の身を危険にさらすことはあまりにも非常識だ。

 貴族の命は個人のものではない。それを支える従者や家の者、家名、ものによっては派閥全体の財産でもある。

 なんてことを私に言われたくないだろうから口にはしないけれど。それに、彼女もわかってはいるんでしょうしね。

 冒険者としても同じだろう。こちらは前世で読んだ本とハルの話でしか分からないものだけれども、負けたらそこで終わりになる現実世界なのだから自分たちの力量を知ることはとても大切だ。あと仲間との意思疎通。1+1になるのか、1-1になるのかはその人次第。うまくいけば掛け算に――1×1ではなく1×100とかそれくらいの効果が発揮されることもある。

 それを知ることも冒険者にとって大切なことじゃないかと、前世で冒険ものの読者だった人間視点で思うのだ。

「それで、これからどうするの?」

「さすがに一度帰るわ。そのあとは、もっと自分を見直したいと思っているの。ルッツたちにはきっとまた迷惑をかけてしまうけれど」

 私の問いにお嬢様が答える。後半の内容には冒険者たちがそんなことはないと否定している。

「そう、ここからすぐに戻れるの?」

「ええ。ルッツが帰還石を持っているから。戦闘中にも使えればいいのだけれどね。ううん、そうなる前にちゃんと使わなくちゃいけないのよね」

「そうねえ。でも、改良の余地はあるわね」

 お嬢様の言葉にぽつりと漏らす。え?と聞き返してくるお嬢様に何でもないと返しながらこれに関してはここを出てからだな、と頭の中に置いておく。

「それでは、本当にありがとう」

「本当に助かった。この礼は今度是非させてくれ」

「かまいませんわ」

 お嬢様とルッツに軽く返して見送る。

 帰還石を使うと彼らパーティーメンバーを淡い光が包み込み、ふわりと消えてしまった。

 ダンジョンの入り口まで帰ったか自宅まで帰ったのかは知らないけれどもこれで一安心だ。

「お嬢、お疲れ様です」

「さすがにちょっと疲れたわね。このあたりで休憩しましょうか」

「かしこまりました。エル様、地面に座らないでくださいまし」

 ふう、とそのまま座ろうとしたらエリーザに怒られた。いや、だって疲れたし。

 仕方なく大判の布を取り出してエリーザとハルにひいてもらう。

 さて、休憩したらまた先に進むとするかな。


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