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閑話――決断

もう一度別視点です。

地の文にいつも悩みます。


 ゼイゼイゼイ


 誰の呼吸音だろうか。ハイデマリーはそれを確認しようとして、やめた。

 今この時、目の前の敵以外に気をそらせば確実に死が訪れることくらいハイデマリーにもわかっていた。

 ルッツ達を説得し、足を踏み入れたその階層は拍子抜けしてしまうほど宝喰いが出てこなかった。

 出てくるのも最初の階層に出てくる宝喰いが1,2グループ程度。

 折り返しだからと言って最初と同じなのかと呆れてしまったほどだ。

 だから、引き返すという選択肢はなくなっていた。

 次の階層に足を踏み入れて、そしてこの絶望するほどの戦闘を繰り広げることになったのだ。

 ルッツたちが前に出て敵を切り、攻撃を受ける。

 ハイデマリーと魔法使いのゲルトは後方からの支援をする。

 しかし、取り囲まれている現在、正しい意味での後方は存在しないのだ。近接攻撃を得意とするルッツ達に囲まれ、中央から焼け石に水程度の支援しか行うことができない。

 ゲルトが息を切らしながら必死に呪文を唱え、ハイデマリーは弓で敵を穿つ。

 一体倒し、新しい矢を番えている間にも敵の集団が包囲を狭めておりハイデマリーにできることは少なくなっていく。

 ルッツたちは傷だらけである。ゲルトは彼らの防御力を増加させる呪文を唱えるも、一人一人に欠けている間に最初の一人に掛けた魔法が突破されてしまう。

 じりじりと消耗するこちらとは違い倒しても倒しても増えていくばかりの宝喰い達。

 ゲルトは魔力も底をつきかけているらしく、時折ふらりと倒れそうになるのをハイデマリーが支えていた。

「すみま、せん。お嬢、さま」

「大丈夫よ。私も、あまり力になっていないもの」

 あまり、その言葉が自分を過大評価していることくらいハイデマリーはわかっていた。

 どうしてこんなことになってしまったのか。

「お嬢様、ゲルト」

 ルッツがこちらを見ずに声をかけてくる。

「どう、したの?」

「今から道を開けます。幸い、ひとつ前の層は宝喰いがほとんど出てこなかった。そちらに逃げてください。ゲルト、お嬢様を頼むぞ」

「……俺は、もうほとんど魔法は使えないぞ」

「だからこそだ。ここで足止めする力もないだろう? なら」

 ゲルトはその言葉の意味を正確に理解したらしい。硬い表情ながらもしっかりと頷いた。

「で、でも、貴方達は!」

「大丈夫です、お嬢様。俺たちはこれでもそれなりの冒険者なんでね、足止めくらいはできますよ」

 傷だらけの顔で、ルッツは少し笑って見せる。

 すぐに目の前の宝喰いに視線を戻し、飛びかかってきたその腹を真横に切り捨てた。

「だから、早く!」

 怒声にも聞こえるその声に体を震わせ、ハイデマリーとゲルトは彼らが開いた道を走る。

 走って、走って、追いかけてくる宝喰いの足音に、ハイデマリー達は普段は感じない死の恐怖を味わった。

 だからこそ彼女たちは自分たちの向かう先が一体どこなのか考える余裕もなく走った。

「そんな……」

 ようやくたどり着いた他階層に移る階段。

 しかし、それは前の階層に戻るものではなく、次の階層に進むものだった。

「どう、しよう」

 足から力が抜けるのを、ハイデマリーは必死にこらえる。

 ここで座り込んでしまえば二度と立てないだろう。そのまま宝喰いに殺されることだけは避けたかった。

「――行きましょう」

「ゲルト?」

 何かを考えていたらしいゲルトがはっとその階段の先を見つめ、そういった。

 何を言うんだと驚いたハイデマリーに、ゲルトはしかし何か希望を見つけた目をしてハイデマリーを見る。

「ここに留まるよりも可能性があります。お嬢様をお守りすることも、ルッツ達を助けることも」

「もしかして、この先に誰かいるの?」

「おそらく。魔法を使用した形跡がこの階段付近で発見できました」

 ゲルトの言葉に今度こそハイデマリーは座り込みそうになった。

 今度は安堵からである。

「わかったわ、行きましょう」

 ゲルトに力強くうなずいて見せ、ハイデマリーは階段へと足を踏み入れる。

 早く先を行く冒険者を見つけなければと焦りを抱きながら二人はその未知の階層へと向かったのだった。


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