閑話――冒険者の憂鬱
ここから先は危険だと冒険者たちが噂する、三十階層。
その、たった1層の差だが、生存確率は天と地ほどの差があるという。
護衛対象を抑えられなかった時点で自分たちの負けは決まっていたようなものだ。ルッツ――『蒼炎の剣』のリーダーは他のメンバーを見る。
ある顔には諦めが、ある顔には絶望が、ある顔には怒りが浮かび、しかし雇い主からの依頼を守るために令嬢を中心に置き、もしもに備えていた。
彼女は戦闘においてさほど頼りにはならないが、それでもこちらが無理だと判断したことには渋々ながらも従ってくれていた。
おかげで今まで生きてこられたのだ。いくらルッツ達がこの国では有名な冒険者パーティーだとはいっても自分たちの領分を超えた場所へ進んで入ればもっと早くに限界が来ただろう。誰かを守りながらというのならばなおさらだ。
そんな彼女がこちらの話を聞かずに先に進もうとしている理由。
入り口のところで出会った――否、ハイデマリー嬢が絡んだ相手のことを思い出す。
白銀の髪をした、どこかの令嬢らしき人物。伯爵家に雇われたとはいえ冒険者であるルッツは貴族のことはわからないので彼女がどんな家の人間なのかはわからない。ハイデマリー嬢の知り合いではないようだ、ということだけしかわからない。
冷たい目は魔法使い特有の魔宝眼。その目から彼女が魔法を使うことができることはわかった。
しかし、その色はほとんど見ない色であったし、そもそも魔法使いは数が少ない。
そして、効果の強い魔法には魔法陣や長い詠唱が必要だという点から冒険者ではなく国に雇われるものの方が多いこともありルッツが見たことのある魔法使いはパーティーメンバーの魔法使い以外には数えるほどだ。
だからこそ、彼女がどれほどの強さなのかはわからなかった。
連れがメイドと護衛だけという点からも物見遊山でしかないように思えたためハイデマリー嬢を止めることをしなかった。
ダンジョンの中では人間の理は通用しない。
貴族だからと言って、女性だからと言って守られる彼女のいた世界とは違うのだと教えてやろうとした。
それはすべての意味で失敗だった。
自分たちよりも先に進み、生きて帰った。
自分たちのパーティーより先に進んでいた『金の槌』を助けたという。
それが本当ならば彼女たち3人は自分たちのパーティーよりも強いということになる。
同じパーティーの魔法使いによればけがを治すことのできる魔法は聖魔法以外だと水魔法だというから、水魔法の達人なのかもしれない。
ハイデマリー嬢はそれを認められなかった。気持ちはわかる。だが、力の差を認めることは冒険者には大切なことだ。
このように、自分の力以上の場所へと向かってしまう位ならば。




