ニートと金の槌。
冒険者はそれぞれ、リーダーらしい最初に治したヴォルス、最後に治した軽防具のスドーに重装備、盾役のオーラン。
ようやく目を覚ましたのがハルが連れてきた少し小柄なオットーに魔法使いのリリット、弓装備のシヴァーチカという名前だった。
魔法使いの彼なんて本当に驚いたような顔で自分の体をしげしげとみていた。まあ、私の魔法は完璧だからね。
「改めて礼を言わせてもらいたい。俺は『金の槌』のリーダーをしているヴォルスという。あんたらがいなかったら俺たちのパーティーは良くて壊滅、悪くて全滅だった。あのありえねえくらい強かった牛頭を一人で倒しちまう兄さんもだが、嬢ちゃんの回復魔法、あれは本当に魔法か?こんなに短時間で、しかも傷跡も治っちまうなんて」
「まったくです。体力までほとんど回復しているなんて、普通はあり得ないことです」
ヴォルスの後に続いてリリットも頷いている。
そりゃあ、私は最強の魔法使い令嬢である。普通の魔法使いと一緒にしてほしくはない。
「しかも、無詠唱なんて聞いたことがない。貴方は一体……」
「何はともあれ本当に助かったわ。ありがとう!」
私の正体を探ろうとするリリットの言葉を遮り元気よく礼を言ってきたのはシヴァーチカ。彼女は――シヴァーチカはこのパーティー唯一の女性冒険者のようだ――私の手を握り、何度も上下に振っている。
「かまわないわ。私もこの魔法を試してみたかっただけですもの」
これは本当だ。ここまで重症の人間に出会うことはないため多くのデータを取ることができた。
より強力な魔法を使うためにもこういった実地ができる環境は大切である。
いやあ、ダンジョンに潜る許可が出て本当によかった。
「私はエル。エルヴィーラと申しますわ。こちらがハルバード。そしてこちらがメイドのエリーザよ」
私が紹介するとハルは軽く、エリーザはメイドの鑑のように丁寧な礼をした。
エリーザのその華麗な仕草に男どもはほう、とため息を吐く。
「しかし、メイドだのなんだの連れて、しかもたった三人でここまで潜ってくるたああんた、どこのオジョーサマだよ」
「オーラン」
呆れたというような口ぶりのオーランをスドーがたしなめるように名前を呼ぶ。
まあ、間違いではない。私はお嬢様だ。それも名門侯爵家の。
「俺たちはさすがにダンジョンを出るつもりだ。あんたらがいなかったら死んでたからな、ここはまだ早すぎたってことだ。あんたらはどうするんだ?ここからの敵はどうやら段違いに強いらしいぜ」
「まだ先に行くつもりよ。私たちはこの程度で苦戦はしないもの」
ねえ?とハルを振り返れば当然ですねと頷く。
牛頭だってハル一人で十分だった。私にとっては敵ではないということでもある。
「普通なら止めるとこだが、あんたらなら平気だろうな。……本当に世話になった。渡せるようなものがなくて心苦しいが……」
「必要ないわ。私は魔法を試すことができて、それで十分ですもの」
冒険者同士での手助けは推奨されていない。
ドロップ品の取り合いになるし、いざこざの原因になるからだ。
それでも死にかけていた場合は別らしい。その場合は助けられた方が助けた方にそれなりの金銭やアイテムなどで支払いをして、その場で清算するのが習わしだという。
悪い冒険者だと助けてやった恩があるからと脅迫して奴隷のようにこき使おうとする奴もいるっていうんだから、冒険者の世界も大変だ。その点、私にはそんなもの必要ないしお金も彼らから巻き上げる必要がないくらい持っている。
私の目的である回復魔法のお試しができただけで十分な対価だ。
「本当にありがとう。もし、冒険者がらみで問題があったら私たちにできることなら力になるわ」
「私としては貴方の魔法についてもう少し知りたいところですが、助けていただいた恩人に対してこういった態度は失礼にあたりますね。本当にありがとうございます。また機会があれば」
リリットは自分の欲望を隠しきれず、いや隠さずか?口に出しながら礼を言う。魔法使いは欲望に忠実な方が伸びると言われているから彼はこれからもっと伸びるだろう。
向こうには話したいことがまだあったようだが私も一日でできるだけ進みたいし彼らも日が沈む前に帰りたいようだからここでお別れだ。
「ではごきげんよう」
「ああ」
彼らが何かしらのアイテムで帰還魔法を使うのを見送って、私たちはこのエリアの奥へと足を進めた。




