ニート、人助けをする。
探知の精度を上げて怪我人を確認する。
どうやら動かない状態ではあるが死んではいないらしい。死にかけ、というより気絶に近いだろう。後衛、魔法使いと遠距離攻撃らしき二人は血を流しているようには見えない。ただし脳震盪を起こしている可能性はあるので動かす前に確認が必要だろう。
少し離れたところに倒れている前衛は出血が多いから止血から始めるべきか。かすかに動いてはいるので意識はありそうだ。
残りの三人が一番傷だらけ。一人なんて片足がぺたんこ座りみたいに外側に折れている。あれは痛そうだ。
残り二人は逃げる機会を窺って――あ、逃げた。パーティ全滅を避けるためだろうが一か所に集まってないと面倒だな。
『ハル、聞こえるかしら?パーティーの二名が戦線離脱したわ。離れすぎると危険だから回収してちょうだい』
『了解。エリーザさんが向かうそうです』
『頼んだわ』
≪通話≫でハルに伝えるとエリーザが移動先の変更を始めた。
視認できる距離だからすぐに捕まえることができるだろうし、問題はない。
ハルがもう一段回スピードを上げ、牛頭の懐に飛び込む。
「はあ!」
気合いと共にそのまま剣を一閃。足の付け根からおびただしい量の血液が溢れ、耐えられず牛頭が膝をつく。
振り上げられた金棒も下ろされることはなく、ハルはその腕に狙いを定める。
私も、怪我人たちのところにたどり着くことができた。
その中の一人、前衛の男と目が合う。
「あら、ちょうどいいわ」
まずはこいつから治療するとしよう。
私の扱う回復系の魔法は聖魔法ではなく水魔法中心だ。そもそも聖魔法は普通の魔法と違って使える人間は少ない。そのため基本的に回復系の魔法は水魔法と風魔法のみとされている。
水魔法で作った薄いヴェールをその男にふわりとかける。薄いので息苦しくもならないし魔法なので濡れることもない。
回復魔法を物質化して薄くのばしたものだ。それがかけられた男の体表から傷がすぅっと消えていく。
驚いた顔の男をしり目に今度は骨も折れていそうな足にとりかかる。これは結構面倒だ。変な形で繋げてしまうと冒険者生命どころかこの世界だと普通の生命も脅かしてしまう。
細心の注意を払って足を元の形状に戻す。時間の巻き戻しをしてけがを無かったことにする、という魔法も考えはしたがその部分だけ年齢が若い状態という大変面倒な形になってしまうので他人に使ったことはない。
「な、あ、んた、は」
「あら、しゃべることもできるようになったのね」
ものすごい回復力と精神力だ。気絶してもおかしくはなかったのに。
とりあえず見た目の傷と探知できる範囲での異常を取り除き、この冒険者の手当ては終わりだ。
比較的近くにいた後衛二人にも回復魔法をかけ、飛ばされたもう一人のもとに向かおうと立ち上がった。
「お嬢、残りの二人はエリーザさんが連れてきてます」
「あら、回収ありがとう」
振り返るとハルが飛ばされていた一人を担いで立っていた。
あの牛頭はどうなったんだ、とそいつがいたはずのところを見ると、なんというか、肉の塊が置いてあった。
――そう、置いてあったのだ。死体が消えているということは倒したのだろう。飛ばされた人物を連れて戻ってくることができるくらい前に。
「ばかな……あの牛頭だぞ?俺達パーティーですらこのありさまなのに」
呆然とした様子で最初に手当てをした冒険者が呟くがそりゃあハルは元優秀な冒険者で現在優秀な私の護衛なのだ。ごく普通の冒険者と一緒にしてはいけない。
「あら、骨が折れてるわね」
さすがに飛ばされて地面に叩きつけられているので骨が折れているみたいだ。ただし軽装だったために防具からのダメージを受けてはいないらしい。
防具の種類によっては押さえつけられていたり飾りの部分が刺さったりで怪我が悪化することもあるからね。
「エル様、お二人もお連れいたしました」
「ありがとうエリーザ」
骨を正しい形で治して全身の傷に回復魔法をかけ終わるとタイミングよくエリーザが戻ってきた。
「ヴォルス!無事だったのか!!」
「オーラン、スドー。お前らも無事でよかった」
私が最初に助けた冒険者はヴォルスというらしい。
「このお嬢さんたちが助けてくれたんだ。回復魔法までかけてくれた、んだと思う」
「はあ?回復魔法って、まさかそんな高位魔法持ちと出会うなんて……」
回復魔法は高位魔法らしい。知らなかった。
私は最初の方で取得したからね。やっぱり魔法といえばキュア系の回復魔法とファイヤボール系の遠距離攻撃だと思うので。
「呪文がなかったからはっきりとは……。なんにせよ、本当に助かった、ありがとう」
後半は私に向かって、頭まで下げてくるその冒険者に後から来た二人の方が驚いていた。
とりあえずこの二人の手当てをしましょうかね。




