ヴォルス視点――慢心と女神
今回はとある冒険者視点です。
ドサリ
善戦もむなしくその軽い体が宙を飛び、地面にたたきつけられる。
「オットー!」
「くそ、オーラン、来るぞ!」
そんなオットーの姿を振り返る余裕もなかった。
目の前のデカブツは狂ったように叫びながらその金棒をまた振り上げる。
あれに当たればオットーの二の舞だ。あれほどは飛ばなくてももう動くこともできなくなるだろう。
どうしてこうなっちまったんだ。
俺は自分の慢心を呪った。
俺たちはこれでもランクDの冒険者だ。このダンジョンも何度も潜っている。
だからといって油断はしない。今回だって携帯食料も燃料も武器の替えや薬草だって気にしすぎだというほど用意した。
これはこの国で仕事をしている冒険者の特権だと思う。
他の国では富裕層やB以上の冒険者でないと手の届かない拡張袋が格安で売買されているのだ。
最初にこの国についたときは驚いた。国の端にある村でも村長だけではなくただの農夫も拡張袋を持っているのだ。
さすがに買うには大きい街に行く必要があったが興奮して大量に買ってしまった。拡張袋には大中小があったがシヴァーチカは迷わず大を買っていたな。
そんな大容量の拡張袋のおかげで準備に綻びはなかった。俺は今もそう思っている。
今までよりもさくさくと進めるようになり、これならもう少し先にも行けるのではないかと欲を出したのが問題だった。
たった1層。たった1層下がっただけで俺たちの自信は粉みじんになった。
「避けろヴォルス!」
オーランの声にハッとして身をひるがえすも軸足になった左足が犠牲になった。
「ぐっ」
立っていられない。痛みだけではなく物理的に不可能だ。
後衛だったシヴァーチカは最初にやられた。背後からの奇襲だった。次に傍にいた魔法使いのリリットが、俊敏さが売りのオットーはその防御の薄さの所為で倒れた。
残されたのは前衛の俺とタンカーのオーラン。寡黙だが腕はピカイチのスドー。
「スドー、オーランをつれて前の階層に走れ」
「ヴォルス……」
幸い、俺たちの前にいるのは巨躯ゆえに足は速くない牛頭。タンカーのオーランがいるとはいえスドーならば逃げ切れるはずだ。
「何言ってんだヴォルス!お前らを置いていけるか!」
「お前も何を言ってんだ。このままじゃ全員死ぬんだぞ!」
目をかっぴらいて叫ぶオーランに俺も叫び返す。
そう、これは全滅か、立った二人とはいえ生き残らせるかの瀬戸際だ。
近接が得意な牛頭に俺達前衛だけでは歯が立たないのは誰でも知ってることだ。
「いけ、スドー」
「……他の冒険者がいたら連れてくるぞ」
それだけは譲らないとスドーは強くいってオーランを引きずって走り出した。
牛頭は走り出したスドーたちを追いかけようとしたがもちろん追いつくはずがない。
そのことに激怒した牛頭がやたらめったら持っていた金棒を振り回す。
それを交わす余裕は俺にはない。ああ、ここで終わりなんだ。
「あら、ちょうどいいわ」
死が訪れる間際、俺は確かに女神の姿を見た。




