ニート、出発
ハンカチもった。靴は動きやすい靴を履いた。洋服も特注の、防御力の高い布地で作った動きやすい市井の女性風ワンピースを着ている。
お弁当と飲み物は料理長が外で食べやすいようにと作ってくれたサンドイッチをバスケットに入れて、私の異次元収納に入れてある。
準備万端。完璧だ。
「お嬢。そういえばお嬢は何か武器は持たないんですか?体裁のために」
「体裁のためってわかっているものを持つのもねえ。ああ、一応杖は持っているわよ」
そう言って異次元収納から取り出したのは魔法使い用の魔法石がついた杖――をおしゃれにしたものだ。
私は普通の飾りのない太めの木の枝みたいなので十分だったんだけど、兄がどうせだからと魔力をためていられる魔法石をつけ、その周りや持ち手の部分を加工させたのだ。
こうして正直言って普段使いさせる気がないな、というものが出来上がった。どうせ見た目重視だからいいんだけどね、しかし今まで出番が一切なかったのも事実である。
「派手ですね」
ハルのその一言に全てが集約されていた。
「私もそう思うわ。まあ、これほど派手ならばどこかの金持ちが道楽で来ているってわかりやすくていいんじゃないかしら」
普通の冒険者はここまで見た目重視の飾りなんてつけない。持ち歩きに不便だし、売って金になるこの見た目だと色々と狙われて危険だ。
これを持ち、連れが護衛と戦闘用とはいえメイド服を着ている女性とくればどこからどう見ても金持ちの道楽だ。変な喧嘩を吹っかける命知らずはいないだろう。
「知ってますか、お嬢。そういうのをフラグ、というんですよ」
「あら、それはそれで面白いじゃない」
にっこりと笑ってやればハルがため息を吐く。ため息をつき過ぎると幸せが全部出て行ってしまうぞ。
「エル様、ルード、お待たせいたしました」
準備を整えたエリーザが合流した。待たせたことを詫びてくるが集合時間はまだ先である。準備をエリーザに任せて暇な私と普段とあまり準備するものが変わらないハルが早すぎるだけである。
「エリーザ、早かったわね。それと、その服が噂の戦うメイド服かしら?」
「はい。冒険者の方が防具に使う素材でできていますので、強度もですが気温の変化にもある程度対応できます」
なんかすごいんだな、戦闘用メイド服。私の服もそうだけれど、それならもっと普通の冒険者の服を買った方が安く済みそうなんだけどな。
「お嬢様に身に着けていただくものは上質な生地でなくては、お肌を傷めますわ」
「その程度で痛むなんて、私ってそこまで肌弱くはないわよ」
どんだけだ、それは。私の前世はナイロン100%でも平気だったぞ。
そう言ってみるがすでに服は用意されているし服のデザインも良いものなので今から変更する必要なんてないわけで。
「このメイド服も屋敷に正式に登用していただいたときに普段の服と共にいただくものです」
「まあ、服はいいんじゃないですか?早く集まったのならさっさと出発しましょう」
ハルがどうでもよさそうに提案する。まあ、男にはこの服に対する情熱はわからんのかもしれんな。私も前世で服を自分で選ぶときは値段以外に興味が無かった。安ければよかろうなのだ。
「では行きましょうか」
「馬車の準備はできています」
外に出るとハルが馬車の扉を開けてくれる。私とエリーザがその中に乗り、ハルは御者台だ。
御者の隣に座るのは何かあったときにすぐ行動するためと、女しかいない馬車の中に乗りたくないからだと言っていた。
門まで≪瞬間移動≫してもよかったんだけど、そこからダンジョンまで歩くのは面倒だし鹿を召喚するのも目立つから今回は馬車。
一応、家の馬車ではなく紋なしのものを用意した。
馬車がゆっくりと動き出す。
ああ、楽しみだ。
※御者がいないと後々困るんじゃないかと思って同行者に御者が増えました。




