ヴェスパジアーノ視点――最強の魔法使い。
今回は番外編。王子から見たエルのことなど。
ここまで説明回です。
「エルヴィーラ嬢は相変わらずだな」
夕食まで侯爵家で世話になり、その後自室に戻るというエルヴィーラ嬢と別れ、アルヴァーロの私室に通される。
表情の少ないところも相変わらずだ。今回は話をする前に言い訳を始めるという面白い一面も見せたがその時も表情が変わることはなかった。
『魔宝眼』という魔法使い特有の瞳は感情が読みにくくはあるが王宮にいる魔法使いたちはもう少し感情がわかりやすいから、瞳だけが問題ではないだろう。
もしかすると遺伝かもしれないな、と妹と別れた途端に表情を消して冷たい目をこちらに向ける友人、アルヴァーロを見た。
「なにか?」
「いや、エルヴィーラ嬢といる時とは本当に違うなと思ってな」
「当り前だ。何故お前の前であんな顔をしなくてはならない」
これでも王族なのだが、この友人はそのことに対して遠慮することはない。
エルヴィーラ嬢はこの冷たい顔を外用に作っているというが、どちらかといえば彼女にしか見せないあのでれでれの顔の方が作っているだろう。誰の前でもこの顔だぞ。
「それで、第二妃の話は本当か」
アルヴァーロに切り出されてここに来た目的を思い出す。
「ああ。すでに第二妃の実家が動き始めているようだな。おかげで母上もなにやら画策しているようだ」
「王宮の女狐たちは本当に仲がよろしいようだな」
痛烈なアルヴァーロの言葉に頬がひきつる。一応、片方は己の母親のことなので賛同するわけにもいかない。
この件で面倒なのは第二妃だけではなく第一妃も何かをしようとしていることだ。
彼女の動きが侯爵家に利益をもたらすとは思えない。彼女は自分の足を引っ張る第二妃を叩き潰すことを第一の目的にしているのだから、邪魔になる可能性があれば、息子の友人だろうが構わず叩き潰そうとするだろう。
そして、第一妃にしろ、第二妃にしろ、エルヴィーラ嬢の恐ろしさを理解していないということも悪い方向に影響している。
そもそも≪魔法使い殺し≫は魔法使いでないものには理解しづらい魔法である。
呪文を唱えることを阻止するその魔法は、魔法による攻撃をしない人間相手には一切意味がないものだと思っている。
その魔法がこの国にいるどの魔法使いもたどり着けなかった秘術中の秘術であること、その魔法を使える魔法使いが他の魔法を使えないはずがないことを、どうして理解できないのか。
それだけではない。この目の前にいる友人、現フォルツァーノ侯爵のことも理解できていないのではないだろうか。
元々フォルツァーノ家は王家に忠誠を誓っている侯爵家の中でも長い歴史を持つ家である。
しかし先の当主夫妻が亡くなり、その死に様々な貴族の思惑が関わっていたと知ったアルヴァーロは貴族達に対して友好関係を築こうという考えはない。それは自分たちの思惑で夫妻を見殺しにする結果を産んだ両妃に対してもだ。
そんな彼が唯一大切にしている掌中の珠であるエルヴィーラ嬢に対して何か動きを見せれば彼はすぐに敵対する道を選ぶだろう。
それは王家として、アルヴァーロの友人として、次代国王の座を狙うものとして許すわけにはいかない。
「母上の方は私がなんとかしよう。問題は第二妃だが、これは冗談ではなく、本当に他の婚約者を立てるつもりはないのか?フォルツァーノの縁者ならば悪いようにはなるまい。確かお前たちの親類、ターン伯爵家にはエルヴィーラ嬢とそれほど変わらぬ子息が二人いると聞いたが」
「嫌に決まっているだろう。それにカーターやピーターはだめだ。例え飾りとしての婚約者であろうともエルを守れるだけの力がなければならないからな。私より強いのはもちろん、エルが安心して守られていられるような強い男でなければならない」
「いや、それはもう誰も無理だろう……」
エルヴィーラ嬢は現在この国で最強の魔法使いである。
いや、この国どころかこの周辺の国には≪魔法使い殺し≫を習得した魔法使いはいないから、この周辺で最強の魔法使いと言っていいだろう。
そんな魔法使いを守る――彼女よりも強い男などまずもっていないだろう。世界を旅し、宝喰いや害獣、果ては人間とも戦うという冒険者の中にすらいるとは思えない。
むしろこの国最強の魔法使いよりも強い者がいたとして、それは人間だろうか。
さすがにアルヴァーロの言葉に顔を引きつらせるしかできなかった。
魔宝眼:オパールのようなきらめきを持つ目のこと。魔法使いはこれを持って生まれる。




