ニート、苦情を入れる
「殿下、何とかなりませんか」
「本当にすまない」
予想通り兄の執務室にいた殿下に王女の苦情を告げる。
あの後もずっと身に覚えのないことを責められ、面倒だからさっさと兵舎内に入りたかったのに入り口を塞ぐし何とか中に入ったと思ったら後ろからついてきて同じことを繰り返すしで本当にウザ――こほん、うるさかった。
許容範囲を超えそうだったので最終的に≪瞬間移動≫を使うことになったよね。仕方ないよね。
建物内間の移動は壁や天井、部屋の小物といった障害物が多くて場所の指定が面倒だから本当はあまりやりたくない。
自室や何も物を置いていない場所ならまだいいんだけどね。兵舎はそれほど知っている場所でもないから≪第三の目≫なしだと難易度が跳ね上がる。
しかしこの王女がいる場所で≪第三の目≫に集中するわけにもいかず、わりと強引な方法で転移してしまった。ので本当に身も心もだるい。
しかもあの王女の行動理由が身に覚えがなさすぎるのも困りものだ。
ふう、とため息をつきながら、兄の従者が入れてくれた紅茶に手を伸ばす。
うむ、美味しいではないか。もちろん、仕事として行っているメイドさんたちには及ばないが格差があるほどではない。凄腕だ。
殿下は青い顔で私に謝ってくれた。兄と話している最中に突然部屋に現れた私に対しても丁寧な態度だ。
兄はあの王女に会った、と伝えた時点でブリザードを発している状態だ。
魔法使いでもないのに室内の温度を下げるとは、すごいな兄よ。
「なぜかこのことだけは何度言い聞かせても理解しないんだ……」
「お前が我々に顔を見せないという手もあるぞ」
「アル……」
兄の割と本気らしい言葉に殿下は頭を抱える。
兄と殿下の中がこじれるのはあまりよろしくない。特に殿下にとっては優秀な部下であり、信頼できる友人である兄と距離を置くことになると心理的にも政治的にも困ることらしいからね。
「エルヴィーラ嬢、妹の件はこちらで対処させてもらう」
「よろしいのですが、このやり取り、何回目でしょうか」
「……エルヴィーラ嬢には本当に済まないことをしている……」
いや、別に嫌みのつもりはないんだよ?本心から言っただけで。
私があの王女を苦手にしてしまうくらいの回数は同じことが起きている。
そして、そのたびに殿下は自分が言い聞かせるといってくれるのだ。
――うん、その度に言って聞かせてるってことは聞いてもらえてないってことだよね。馬耳東風てきな?ダメじゃん。
この人、兄並みに妹に甘いのよねえ。まあ、兄として生まれた宿命かもしれないけど。
「しかし、最近は落ち着いていたと思うのですが」
私の前に顔を見せなくなっただけともいうが。
私が屋敷を出ないから、というのもあるな。
まあ、それでも顔をちょっと合わせた程度ではあそこまで絡んでこなかった気がする。絡むすきを周囲が与えないようにしているというのもあるだろうし、彼女がわざわざ兵舎まで足を運ばなかった、というのもあるけど。
「原因は――心当たりがあるんだがな」
「それ以外あるまい」
殿下の言葉に兄まで頷いて賛同している。
なんだろうと首をかしげてみるがそもそも記憶にないものなんだから頭に浮かんでくることもなく。
「これ以上は、国益にも障るからな。大丈夫だ、エルヴィーラ嬢にこれ以上の負担はかけないよ」
疲れ切った顔でそういう殿下に、何か癒されるものでも贈った方がいいかなと本気で思ったのだった。




