ニートと王女
「いったい何をしに来たのかしら、エルヴィーラ・フォルツァーノ!」
「何って、兄への届け物ですけれど」
兄から家にあるものを持ってきてほしいと言われ、城へ向かったらこれだ。
王女が何かしでかしそうと聞いたから城内、殿下の執務室近くの部屋ではなく兵舎の方に届けることにしたというのに、何故いる。
あれか、兄がこっちにいるから殿下が出向いてきたのか。意味ないじゃないか。
うわ、いやな奴にあったぜ、という感情を表情には出さない私と違って王女の表情は素直だ。
どちらかというと可愛らしい方に分類されるだろう顔を般若みたいにして私をにらんでいる。吊り上がる眦に刻まれる眉間の皺、ほほを真っ赤にしているのはわりと迫力がある。
「お兄様に近づかないでくださらない!?」
「はあ」
別に殿下に会わなくても私は問題ないし、私から殿下に会いに行くことはほとんどないんだけどね?
そもそも私が殿下と会う機会なんて大抵殿下が我が家に来た時くらいなんだから、殿下が我が家に来なけりゃいいのよ。王女がそれを止めればいいじゃない。
なんなら兄に進言して殿下を我が家立ち入り禁止にしようかしら。
別に殿下を嫌っているわけじゃないけれど、会えなくても困らない人ではあるからね。
お城にだって兄に用がある時くらいしか足を運ばないし――あ、最近は宮廷魔術師長と無詠唱魔法についての話がある時もあるのか。
殿下と会わなくていいようにその点も考えなくちゃいけないわね。
「ちょっと、話を聞いているの!?」
これからの行動を考えていたら王女がまた叫んだ。
この子本当によく叫ぶわね、貴族の令嬢としてもマナーがなっていないと思うけど、王女だったらさらに困るんじゃないの?
内心呆れながらも「なんでしょう」と王女の方に意識を戻す。
こんなことで不敬罪だ、なんてことはできないと思うけれど私に問題がないということはちゃんと証明しないとね。
私をにらみつける王女と、それを無表情で見ている私。そんな私たちをおろおろしながら見ている王女の侍女達。
いや、おろおろしてないで止めろよ、なんて思うけれどただの侍女にこの国の王女を止めるなんてできないだろうってことくらいはわかってるんだけども。
「お兄様にはね、貴女よりももっともっと素敵な婚約者がいるの!貴女なんてお呼びじゃないわ!」
うん、私もお呼びじゃない。
殿下に婚約者がいようといまいと、私には関係ないというのに。
この王女の問題点。
それは、何故か私が殿下に懸想していると思っていることだ。
――本当に、どういう思考回路なんだろう。




