王子と侯爵と侯爵令嬢(と書いてニートと読む)と
新しいキャラの登場です。
「今日も何もしなかったわねえ」
「そうですね」
本を置いて伸びをする。今日も良い読書だった。
「あら?アル兄さん……?」
ふと、窓を見ると兄の使う馬車が屋敷の門をくぐっているところだった。いつもの帰宅時間には少々早い。
「どうされたのでしょうか……。見て参りましょうか」
「いいわ、一緒に行きましょう」
エリーザが先に見てくるといったがあの馬車に兄が乗っていない、ということはありえない。
それならば私が行かないと落ち込んでしまうかもしれないため、私はエリーザと共に玄関に出迎えに行くことにした。
玄関にたどり着いて少し驚いてしまう。完璧なメイドの見本みたいなエリーザも少し息をのんだ様子だった。
周りのメイドたちもいつになくぴりっとした空気を纏っている。
「ヴェスパジアーノ殿下。ご機嫌麗しゅう」
「やあ、エルヴィーラ嬢。お邪魔するよ」
階段から降りてドレスの裾を少し持ち上げたそれなりに正式な礼をすると相手もにこやかに応じてくれる。爽やかな笑顔がとても眩しい。これだからイケメンは困る。
兄とともに現れたのは、兄の幼馴染でありこの国の第一王子であるヴェスパジアーノ殿下だった。
第一王子、第一王妃の長子。
そういった肩書だけではなく爽やかで人当たりの良い笑顔と聡明で優しい性格から世の令嬢たちのあこがれの的である。たしか、第一妃の遠縁の女性が婚約者だったはず。
殿下がこの家を訪れることはこれが初めて、というわけではない。
初めてではないが、あまりないことなので驚いた。兄と殿下は共にお城で働いているのだから向こうで話す時間はいつでも、とは言わないがそれなりにあるだろう。
しかし一方で納得でもある。兄も忙しいとはいえ殿下が一緒なら帰る時間は殿下に合わせてもいいのだろう。
「お前たちもご苦労」
「帰りは我がフォルツァーノ家が責任をもってお送りする。お前たちは下がれ」
「はっ」
殿下の供をしていたらしい男たちが殿下と兄に一礼して帰っていった。帰っていいのか護衛達。帰るまでが仕事ではないのか護衛達。
「エル、僕のエル、僕にお帰り、は?」
彼らが出ていき、扉が完全に閉まると外行きモードだった兄のスイッチがオフになり、いつもの兄の状態に戻った。クール系イケメンが台無しの顔はいつ見てもそこはかとなく残念感が漂う。
冷たい感じの兄はかっこいいんだけどね。まあ、無理をするよりはいいんだろう、うんうん。家でくらい素の自分でいたいよね。
「エル?」
「おかえりなさい、アル兄さん。今日は早かったですね」
「ただいま、エル。今日はヴェスと話すことがあったからね」
そのままぎゅっと抱きしめ合うと殿下が呆れたような顔でため息を吐いた。
「本当にお前は裏表激しいな、アル」
「うるさいぞヴェス。本当はお前にだってエルと会わせたくないというのに」
「いや、私は一応王子だぞ」
私に抱き着いたまま殿下を睨みつける兄に殿下は頭を抱えていた。
兄も何を言っているんだ。私だって家に引きこもるだけではなく王家主催のイベントなら出かけているじゃないか。殿下とはそれなりに顔を合わせているんだぞ。
「殿下は、今日はどうされたのですか?」
「ああ、エルヴィーラ嬢に関する話がこいつとあってな。城でするには少々危険な話であるから、この家ですることにしたのだ」
「私の、ですか」
私に関する話、と聞いて真っ先に浮かぶのは魔法についてである。
最近は大人しく――は全然していないが貴族を攻撃したりもしていないから怒られるようなことをしていないと思うのだけれど。
「ああ、君が何かをした、という話ではないよ」
私がほとんどを部屋でゴロゴロした、としか出てこない自分の最近の行いを振り返っていると気付いた殿下が手を横に振って否定してくれた。
ではなんだというのか、この話を殿下がしてから兄の纏う空気がとてつもなく冷たい気がするのだが、それも関係あるのか。
聞きたいことは多いが殿下相手に玄関で立ち話することもためらわれるため兄と殿下をサロンへお連れすることになった。
――あ、もしかしてつい先日魔法道具師達とこっそり作った全自動掃除機械人形の件か?あれは確かにあまりのオーパーツさに城に知らせてないけど、ばれた?
※誤字を一つ直しました(最後の文章 白→城)




