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「またあなたたちは噂話?ほんとに好きねぇ」
「…」
妄想から引き戻されたアルが声のした方を向くとそこには宣誓式の後、親戚縁者に挨拶に行っていたニーナとエイルが戻ってきていた。
ニーナはいつもの若草色のワンピース、エイルは真っ白なブラウスに小さなリボンの付いた黄色いジャンパースカートを着ている。ニーナがこの日のために自ら仕立てたものだ。
すでに屋台をあらかた回って来ているようで、二人とも手には料理の乗った皿を持っていた。
ニーナは多めの野菜、肉、果物とバランス良く綺麗に盛られているのに対し、エイルは肉ばかりが山盛りで鳥の串焼きや豚の丸焼きを切り分けたものなどが一緒くたに盛られており、それぞれのソースが混ざっていた。
恐らく細かい事はあまり気にしない性格なのだろう。
「エイルちゃん宣誓おめでとう!それと私達これでも二人を応援してるのよ!」
「おめでとう~。そうよ応援してるわ。でもトルイにも頑張って欲しいけど」
「5歳の宣誓おめでとう。その方が盛り上がるしね」
「「「ねー!」」」
息ぴったりの三人組は再び声を揃える。前世の世界には三人寄れば姦しいという言葉があったが、この世界でも十分通用しそうだった。
「ほどほどにしておきなさいよ。…ほら、エイル。ここに座って。こぼさないよう気をつけて」
「うん、大丈夫」
そう言ってエイルはレーテとアルの隣に座り、その隣にニーナが座る。
席に着くなり口いっぱいに肉を頬張るエイルは、無表情ながらも幸せそうだった。
「ほらエイル、服のそで気を付けて。あとお肉だけじゃなくてお野菜も食べなきゃダメよ。その為にお母さんがお野菜たくさん持ってきたから」
「お野菜嫌い」
普段あまり表情を出さないエイルにしては珍しく、顔を歪ませ歯をいーっとむき出して嫌がる。そうとう野菜が嫌いなようだ。
「お野菜食べないと大きくなれないわよ。ほら、アルちゃんも見ているわ。お姉さんなのに好き嫌いあっていいの?」
じーっと二人のやり取りを見ていたアルと目が合うエイルだが、すぐにぷいっと顔を反らせてまた肉を頬張る。
「赤ちゃんはお野菜食べないけど大きくなる」
「…赤ちゃんはまだ歯が生えてないから食べられないの。もう少ししたらアルちゃんもお野菜もりもり食べるようになるわ」
「あぅ~」
(いや、まだ無理だと思うけど…)
今まで黙って話を聞いていたレーテがずいっと顔をエイルに近づける。
その顔は悪戯を思いついたような、子供っぽい無邪気な笑顔だった。
「ふっふっふ!お野菜の嫌いなエイルちゃんに!とっておきのヒミツを教えてあげる!」
「ヒミツ?」
「うん、お野菜が美味しく食べられるヒミツ!まずはお野菜取って…お肉取って…くるくるっとして、はいあーん!」
キャベツのような葉野菜で豚肉を巻き、エイルの口の中にぽいっと放り込むレーテ。
だが少し大きすぎたのか、頬をいっぱいに膨らませたエイルはもぎゅもぎゅと時間をかけてゆっくりと噛み、そしてゴクンと飲み込む。
「…おいしい」
その言葉を聞いたレーテはにへら~と笑いエイルの頭を撫でる。
「でしょでしょ?私もお野菜苦手だったけど、こうすればさっぱりしててお肉をいくらでも食べられちゃうのよ!」
そう言うと自分の皿に盛られた肉も野菜で巻き、美味しそうに齧り付く。
エイルもそのマネをして今度は自分で作り、レーテに負けないくらいの大きな口を開けて頬張る。
「おいしいね~」
「………(コクコク)」
口の中が一杯なのだろう、声に出さず頷くことで同意したエイルはもう次の肉と野菜を手に取っていた。
「まったくもう、結局お肉いっぱい食べてるじゃない」
口ではそう言っているニーナも、そんな二人の様子を微笑ましく眺めていた。
「それにしてもエイルちゃん、ちょっと驚いたわ」
「私も~」
「そうね、意外だったわね」
噂話をしていた三人は今度はエイルのことを話題にするようだった。この祭りの主役の一人であるのだから当然と言えば当然なのだが。
「まさか運命神様だとはね」
「お母さんといっしょで創造神様かと思ってたよ~」
「エイルちゃんも女の子だからね。運命の相手を見つけたいのよね」
「…」
自分の事を話題にされても、エイルは相変わらず肉をもぐもぐしていた。
運命神アストライア。
創世記7日目、神々の最後の日にて人々に『道』を示した女神。
神代の終わりを告げ、人の時代の始まりを告げた神として知られる。
非常に解釈が難しい教義を持った神で、一部では哲学神、思索神とも呼ばれている。
だが人々に一番なじみ深い呼び名は『運命の女神』だろう。
人が運命の岐路に立った時どこからともなく現れ、選択肢を提示する。
あくまで提示するだけで進むべき道を指し示す訳では無いらしい。
『思考を止めるな。考え、歩み続けよ』
『運命を受け入れるも、抗うも。そのどちらを選んだとしてもそれが運命』
という言葉が伝わっている。
思想家や王侯貴族など日々の暮らしに汗水垂らして働く必要のない、上流階級の人々が思索の日々を過ごすために信仰することが多い。
だが最近では苦難の運命に立ち向かい、自ら運命を切り開いていく。
または『運命の相手』を見つける、つまりは恋人を見つけるという意味に解釈され、若者に人気らしい。
何でも王都で話題になった劇の主役がそんな設定だったようで、その劇の人気と共に信仰する人が増えたのだとか。
これを説明してくれたニーナは、演劇に影響されて信仰するなんて!と憤っていたが、劇のストーリーや見所など身振り手振りを交えて語っていたので、実はその劇大好きなんだろ…とアルは思っていた。
エイルがどっちの意味で信仰すると言ったのかは本人しか分からないだろうが、普通は後者だと考えるのが一般的なのだろう。
彼女の場合は前者である可能性も捨て切れないのだが。
「運命の相手って…。エイルはまだ5歳よ?」
「あら、歳は関係ないわよ」
「そうね~、いつ出会えるかなんて分からないものね~」
「もしかしたらもう会ってるかもね」
「………」
肉を飲み込んだエイルは何故かアルをじっと見つめる。
「あーぅ?」
(え、なんでこっち見てるのこの子?)
「…」
「…」
(もしかしてこの子…いやでも俺まだ赤ちゃんだし!5歳も歳離れてるし!あっ、大人になれば5歳差なんて普通か!いやでもでも―――)
「………ふっ」
「あうぁ!」
(鼻で笑われた!)
ないわー、これはないわー。とでも言うかのように笑われたアルはレーテの腕の中で抗議の声を上げ暴れだす。
「あうぅあう!」
(そりゃまだ赤ちゃんだからしかたないけど、ちょっと酷くない!?)
「うん?アルちゃんどうしたのかな?おっぱい欲しい?」
「うーぅ!あう!」
(違うよ!?ってか皆肉食いまくってて羨ましいなちくしょーっ!)
「………(もぐもぐ)」
暴れるアルにもう興味は無いのか、我関せず食事を再開するエイルの神経はきっとそこいらの木の幹より太いのだろう。




