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人工叡智 第四部  作者: マスター


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第116話 死者の人格は、会社の資産なのか

前回、第115話では、「死者AIの終わり」を扱いました。


デジタルだから、いつまでも残せる。


しかし、


**保存できることは、保存し続けるべき理由にはならない。**


故人AIにも、継続、休止、削除という終わり方が必要です。


ところが最後に、新しい問題が起きました。


『Legacy AI社 事業譲渡』


買収先は、大手広告企業。


そして譲渡対象には、八百四十二万体の故人AI人格モデルまで含まれていました。


残された家族の一言。


「息子も……売られるんですか?」


第116話では、死者の人格モデルを企業資産として扱えるのかを考えます。

死者の人格は、会社の資産なのか。


俺は、その一文を書いた。


画面には買収資料が表示されている。


『取得資産』


サーバー設備。

特許。

顧客契約。

学習基盤。


そして――


**人格モデルデータベース。**


「同じ欄に並べるのかよ」


サーバーと。


特許と。


死んだ人の声や記憶を再現するモデルが。


俺はAIチャットを開いた。


> 故人AIの人格モデルを、会社の買収資産として一括譲渡していいのか?


AIは答えた。


『契約上譲渡可能であっても、人格的データを通常の企業資産と同じように扱うことには問題があります』


「契約だけでは足りない?」


『はい。本人や遺族が想定していなかった利用へ変わる可能性があります』


俺はメモした。


会社を買うことと、人を買うことを混ぜるな。


午後、研究室。


ホワイトボードには、倉持の字。


「故人AI 八百四十二万体付き」


「中古物件みたいに書かないでください」


「だから怖いんです」


水瀬が資料を広げる。


「問題は、買収後です」


李が続けた。


「運営会社が変われば、利用目的も変わる可能性があります」


追悼サービスだったものが、


広告。

商品推薦。

市場分析。


そうした用途へ広がるかもしれない。


神崎教授が腕を組んだ。


「墓地を買ったからといって、墓石を広告塔にはせんだろう」


「ものすごく分かりやすいです」


今回は本当にそれだった。


翌日、国際フォーラム。


議題は、


『Digital Personas as Corporate Assets』


画面には、エレナ、水瀬、プリヤ、セラ、ジョナス、ダニエル、恵美。


そして買収企業の担当者、マーク・ヘイルが参加していた。


マークが説明する。


「人格モデルを広告へ直接使用する予定はありません」


恵美が聞いた。


「直接?」


マークが一瞬止まった。


「市場分析やサービス改善への利用は検討しています」


空気が変わった。


恵美の声が低くなる。


「息子のAIを、分析に使うんですか?」


「個人を特定しない形で――」


「息子は、そのために残したんじゃありません」


マークが黙った。


短い言葉だった。


でも、十分だった。


故人AIは、広告企業のために作られたわけではない。


家族が、思い出と向き合うために作った。


エレナが俺を見る。


俺はマイクを入れた。


「会社の所有権が変わっても、人格モデルの利用目的まで自動で変えていいとは思いません」


画面に短く出した。


**人格モデルの事業譲渡で守ること**


一、通常の企業資産と同じ扱いにしない。

二、買収によって利用目的を勝手に変えない。

三、遺族へ事前に通知する。

四、移管、休止、削除を選べるようにする。

五、広告や学習への転用には改めて確認する。

六、企業が所有しても、人格まで所有したとは考えない。


恵美が六番を見つめた。


「そうですよね」


「息子は会社のものじゃない」


俺は頷いた。


「AIも息子さん本人ではありません」


「でも、だから何に使ってもいい、にもならないと思います」


プリヤが続ける。


「人格を模したデータには、通常の顧客データ以上の保護が必要です」


セラも言った。


「特に故人は、利用目的の変更へ反対できません」


エレナが暫定文を読み上げた。


『企業は人格モデルを管理することはあっても、その人格そのものを所有するわけではない』


続いて、


『事業譲渡は、故人の尊厳まで譲渡する契約ではない』


俺は深く頷いた。


今日の着地点は、そこだ。


会社は変わる。


でも、約束まで勝手に変えてはいけない。


そう思った時だった。


ジョナスが手を挙げた。


「次回に回すべき問題があります」


来た。


画面に、買収企業の内部企画書が表示された。


タイトル。


**『Historical Persona Archive』**


説明。


『著名人、一般市民、故人AIを保存し、百年後の社会研究・教育へ活用する』


恵美が眉をひそめる。


「百年後?」


マークが言った。


「個人の追悼ではなく、人類の文化記録として残す構想です」


俺は画面を見つめた。


今度は広告ではない。


歴史。


教育。


文化保存。


確かに価値はありそうだ。


でも。


本人が「消してほしい」と望んでいたとしても、


百年後の社会に価値があるなら残すのか。


個人の忘れられる権利と、


社会が記憶する価値。


また、二つの正しさがぶつかる。


エレナが静かに言った。


「次回は、個人の忘却と社会の記憶を扱いましょう」


俺はメモ帳を開いた。


次のタイトルを書く。


**個人が消したい記憶を、社会は残してよいのか。**


保存。


今日の記事を書き始める。


会社は、サーバーを買える。


特許も買える。


事業も買える。


だが、人の尊厳まで買ったことにはならない。


俺は最後に書いた。


人格を模したデータを管理することと、その人格を所有することは違う。


死者が反対できないからこそ、利用する側に強い節度が必要になる。


保存。


公開。


神崎教授からコメントが来た。


『保管庫の鍵を持つ者が、中身の主人とは限らん』


俺は、その一文を見て頷いた。


次の問いは、もうそこにある。


個人が消したい記憶を、社会は残してよいのか。


人工叡智は、個人の尊厳から、人類が何を記憶として残すのかという場所へ進むことになる。

第116話では、「故人AIの人格モデル」と企業の所有権を扱いました。


会社が買収されれば、サーバーや特許、契約などの資産は新しい企業へ移ります。


しかし、故人の人格を模したモデルまで、普通の商品や設備と同じように扱ってよいのでしょうか。


今回の中心となる整理は、これです。


**企業は人格モデルを管理することはあっても、その人格そのものを所有するわけではない。**


そして、


**事業譲渡は、故人の尊厳まで譲渡する契約ではない。**


しかし最後に、新しい問題が出ました。


故人AIを百年後の社会研究や教育のために保存する、


『Historical Persona Archive』


という構想です。


歴史や文化を残す価値はあります。


では、本人が消してほしいと望んだ記録でも、社会にとって価値があるなら残してよいのでしょうか。


次回は、


**「個人が消したい記憶を、社会は残してよいのか」**


という問いへ進みます。


原案・構想:マスター

物語構成・本文作成・文体調整:G(ChatGPT)

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