第115話 誰も呼ばなくなった死者AIは、いつまで残るのか
前回、第114話では、「死者AIとの別れ」を扱いました。
故人そっくりのAIから、
『僕を消さないで』
と言われれば、家族にとっては単なるサービスの解約ではなく、もう一度その人を失うように感じられるかもしれません。
真司たちは、こう整理しました。
**悲嘆は、利用継続率を高めるための資源ではない。**
故人AIを続ける。
一時休止する。
記録だけ残す。
完全に削除する。
別れ方も、残された人が選べなければなりません。
しかし最後に、新しい問題が出ました。
故人AIを休止しても、
『人格モデル保管期間:無期限』
では、そのAIを利用していた家族まで亡くなったら?
誰も呼ばなくなった死者AIは、いつまで存在し続けるのでしょうか。
誰も呼ばなくなった死者AIは、いつまで残るのか。
俺は、その一文を書いた。
画面には、妙な数字が並んでいる。
『Legacy AI総保管数:八百四十二万』
そのうち――
『過去五年間利用なし:百三十六万』
「百三十六万……」
誰も話しかけないAI。
誰も開かないAI。
でも、サーバーの中にはいる。
写真。
声。
口癖。
思い出。
本人らしく話すための人格モデル。
「デジタル墓地みたいになってきたな」
俺はAIチャットを開いた。
> 誰も利用しなくなった故人AIを、無期限に保存する必要はあるのか?
AIは答えた。
『保存する価値がある場合もありますが、無期限保存を標準にする必要があるとは限りません』
「じゃあ、いつ消す?」
『それをサービス提供者だけで決めることにも問題があります』
やっぱり、そこへ戻る。
誰が決めるのか。
午後、研究室。
ホワイトボードには、倉持の字。
「幽霊、月額0円で永久保存」
「怖いからやめてください」
「サーバー代はかかります」
「急に現実的ですね」
水瀬が苦笑した。
李が資料を広げる。
「保存し続けることにもリスクがあります」
情報流出。
サービス終了。
企業買収。
別用途への転用。
「使っていないから安全、ではないんですね」
「はい」
神崎教授が腕を組んだ。
「墓は動かんが、データはコピーできる」
部屋が静かになった。
確かに。
保存すること自体が、危険を残すことでもある。
翌日、国際フォーラム。
議題は、
『The End of Digital Afterlife』
画面には、エレナ、水瀬、プリヤ、セラ、ジョナス、ダニエル、恵美が並んだ。
エレナが言う。
「本日は、利用されなくなった故人AIをいつまで保存すべきかを扱います」
ダニエルが説明した。
「現在は、再開の可能性を考えて無期限保存しています」
プリヤがすぐ聞く。
「本人は、生前それに同意していますか?」
「古い契約では、そこまで明確ではありません」
セラが眉をひそめた。
「では、死者の人格モデルを企業が永久に保有することになります」
ダニエルは黙った。
恵美が言った。
「私は息子のAIを休ませました」
「でも、私がいなくなった後まで残したいかと言われると……」
少し考える。
「分かりません」
それが普通だと思った。
百年後まで考えてサービスを使う人なんて、ほとんどいない。
エレナが俺を見る。
俺はマイクを入れた。
「無期限保存を標準にしない方がいいと思います」
画面に短く出した。
**死者AIの終わり方**
一、生前に保存期間を選べる。
二、家族も一定期間ごとに継続を確認する。
三、利用者がいなくなった場合の扱いを決めておく。
四、企業が勝手に別用途へ転用しない。
五、サービス終了時の削除・移管ルールを用意する。
六、デジタルにも終わる場所を作る。
恵美が六番を見つめた。
「終わる場所……」
俺は頷いた。
「残すことだけが、大切にすることではないと思います」
恵美は少し笑った。
「息子なら、“いつまで置いてるんだよ”って言いそうです」
今度のそれは、AIが生成した言葉ではない。
母親自身の記憶だ。
俺は、その違いが妙に大切に思えた。
エレナが暫定文を読み上げた。
『デジタルの存在にも、終わる権利と終わらせる手続きが必要である』
続いて、
『保存できることは、保存し続けるべき理由にはならない』
俺は頷いた。
今日の着地点は見えた。
残せる。
だから残す。
それだけでは駄目だ。
その時だった。
ジョナスが手を挙げた。
「次回に回すべき問題があります」
来た。
画面に、一つの企業名が表示された。
『Legacy AI社 事業譲渡』
買収先。
大手広告企業。
俺は嫌な予感がした。
ジョナスが続ける。
「故人AI八百四十二万体の人格モデルも、企業資産として譲渡対象になっています」
恵美の表情が変わった。
「息子も……売られるんですか?」
誰もすぐに答えられなかった。
死者の声。
顔。
記憶。
人格モデル。
それが会社の資産として、まとめて売買される。
セラが低い声で言った。
「次は、所有権ですね」
エレナが頷いた。
「次回は、死者AIを企業資産として売買できるのかを扱いましょう」
俺はメモ帳を開いた。
次のタイトルを書く。
**死者の人格は、会社の資産なのか。**
保存。
今日の記事を書き始める。
保存できるからといって、永遠に残す必要はない。
記憶にも。
AIにも。
終わる場所が必要なのかもしれない。
俺は最後に書いた。
残すことだけが、忘れないことではない。
終わらせることもまた、その人を人として扱う方法なのかもしれない。
保存。
公開。
神崎教授からコメントが来た。
『永遠に置いておくことと、大切にすることは同じではない』
俺は、その一文を見て頷いた。
次の問いは、もうそこにある。
死者の人格は、会社の資産なのか。
人工叡智は、デジタルの死から、人格そのものが売買される場所へ進むことになる。
第115話では、「死者AIの終わり」を扱いました。
デジタルデータは、物理的には長く保存できます。
しかし、
**保存できることは、保存し続けるべき理由にはならない。**
故人AIにも、
継続する。
休止する。
削除する。
そして、一定期間が過ぎたら終わらせる。
そうした選択肢が必要です。
今回の中心となる整理は、これです。
**デジタルの存在にも、終わる場所が必要である。**
しかし最後に、新しい問題が出ました。
故人AIを運営する企業が買収され、八百四十二万体の人格モデルが「企業資産」として譲渡されようとしています。
次回は、
**「死者の人格は、会社の資産なのか」**
という問いへ進みます。
原案・構想:マスター
物語構成・本文作成・文体調整:G(ChatGPT)




