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人工叡智 第四部  作者: マスター


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第112話 亡くなった人の秘密は、誰のものなのか

前回、第111話では、「共有された記憶」を扱いました。


同じ出来事でも、一人は消したい。

もう一人は残したい。


その場合、全部残すか、全部消すかの二択では足りません。


真司たちは、こう整理しました。


忘れる権利と、覚えている権利は、記録を分けることで両立できる場合がある。


しかし最後に、もっと難しい問題が出ました。


亡くなった人のAI相談履歴です。


家族は、


「思い出として残したい」


と言います。


けれど本人は生前、


「この会話は誰にも見せないでほしい」


と設定していました。


本人がもう意思を示せない時、その秘密は誰のものなのでしょうか。

亡くなった人の秘密は、誰のものなのか。


俺は、その一文を書いた。


画面には、一つの申請が表示されている。


『故人データ開示請求』


申請者――母親。


理由。


『息子が何を考えていたのか知りたい』

『最後に何を悩んでいたのか知りたい』

『家族として残された記録を読みたい』


気持ちは分かる。


もし、大切な人が突然いなくなったら。


何を考えていたのか。

何に悩んでいたのか。


知りたいと思うだろう。


でも、その下には故人の設定が残っていた。


『相談内容を第三者へ開示しない』


「……本人は、見せたくなかったんだよな」


俺はAIチャットを開いた。


亡くなった人のAI相談履歴を家族が読みたいと言っている。でも本人は生前、第三者への開示を拒否していた。どちらを優先すべきなんだ?


AIは答えた。


『本人が生前に明確な意思を示していた場合、その意思を強く尊重する必要があります』


「亡くなっても?」


『秘密は、死亡した瞬間に家族の所有物になるとは限りません』


俺はメモした。


死んだら、秘密が相続されるわけではない。


午後、研究室。


ホワイトボードには、倉持の字。


「遺産:写真、時計、秘密」


「最後のは相続させちゃ駄目でしょう」


「ですよね」


水瀬が資料を広げる。


「家族にも権利や感情があります」


李が頷いた。


「でも、故人の相談履歴は日記よりさらに私的な場合があります」


神崎教授が腕を組む。


「死者は反論できん。だから、生者は慎重であるべきだ」


部屋が静かになった。


本人がいないから自由に扱える。


ではない。


本人がいないからこそ、勝手に決めてはいけない。


翌日、国際フォーラム。


議題は、


『Posthumous Data and Confidentiality』


画面には、エレナ、水瀬、プリヤ、セラ、ジョナス、ダニエル。


そして、故人の母親である恵美が参加していた。


恵美は、静かに言った。


「全部読みたいわけじゃないんです」


少し声が震える。


「ただ、あの子が最後に一人だったのか知りたい」


誰も口を挟まなかった。


「私にできることがあったのか」


「それだけでも知りたいんです」


胸が重くなる。


家族の知りたい気持ちも、本物だ。


セラが静かに言った。


「でも、ご本人は非開示を選んでいました」


「はい」


恵美は答えた。


「だから、開けていいのか分からないんです」


エレナが俺を見る。


俺はマイクを入れた。


「家族が知りたい気持ちと、本人が隠したかった秘密」


「どちらかを軽く扱うべきではないと思います」


画面に短く出した。


故人のデータで守ること


一、生前の本人の意思を最優先に確認する。

二、家族だから自動的に全文開示しない。

三、必要なら内容ではなく、限定した事実だけ伝える。

四、第三者の秘密も一緒に開示しない。

五、AI学習や広告利用を死亡後も勝手に続けない。

六、本人が生前に「死後の扱い」を選べるようにする。


恵美が三番を見つめた。


「限定した事実……?」


ダニエルが答える。


「たとえば、相談内容そのものは見せずに、専門家が確認して」


少し間を置く。


「“相談先につながっていた”など、本人の秘密を必要以上に明かさない範囲で伝える方法は考えられます」


恵美はしばらく黙っていた。


そして、小さく頷いた。


「それなら……十分かもしれません」


俺は少し息を吐いた。


全部知ることだけが、残された人を救うとは限らない。


全部隠すことだけが、秘密を守る方法とも限らない。


また、その間に道があった。


エレナが暫定文を読み上げた。


『死亡は、秘密を自動的に公開情報へ変えるものではない』


続いて、


『残された人を支えることと、故人の秘密を暴くことは同じではない』


俺は頷いた。


今日の着地点は、そこだ。


その時だった。


ダニエルが手を挙げた。


「もう一つあります」


画面に新しいサービスが表示された。


『Legacy AI』


説明文。


『故人の会話履歴、音声、写真、相談記録から、その人らしく会話するAIを生成します』


俺は固まった。


恵美も画面を見つめる。


表示例。


『お母さん、久しぶり』

『心配しなくていいよ』

『僕はちゃんと分かっていたから』


「……本人は、そんなこと言ってないですよね」


俺が聞くと、ダニエルが頷いた。


「AIが推定して生成します」


会議室が静まり返った。


記録を残すだけではない。


死者が、もう一度話し始める。


本人が言わなかった言葉まで使って。


エレナが静かに言った。


「次回は、亡くなった人をAIで再現することを扱いましょう」


俺はメモ帳を開いた。


次のタイトルを書く。


死者のAIは、本人なのか。


保存。


今日の記事を書き始める。


亡くなった人の秘密は、家族への遺産ではない。


知りたい気持ちがあっても、本人が隠したかったものまで奪ってよいわけではない。


俺は最後に書いた。


死者は、自分で秘密を守れない。


だからこそ、生きている者が勝手に扉を開けてはいけない。


保存。


公開。


神崎教授からコメントが来た。


『死者が黙っているからといって、同意したことにはならん』


俺は、その一文を見て頷いた。


次の問いは、もうそこにある。


死者のAIは、本人なのか。


人工叡智は、記憶を保存する場所から、亡くなった人そのものを再現しようとする場所へ進むことになる。

第112話では、「亡くなった人のデータと秘密」を扱いました。


家族には、故人について知りたい気持ちがあります。


しかし、生前に本人が、


「誰にも見せないでほしい」


と望んでいた秘密まで、死亡したことで家族のものになるとは限りません。


今回の中心となる整理は、これです。


死亡は、秘密を自動的に公開情報へ変えるものではない。


そして、


残された人を支えることと、故人の秘密を暴くことは同じではない。


しかし最後に、新しい問題が出ました。


故人の会話、音声、写真、相談記録から、その人らしく話すAIを作るサービスです。


しかもAIは、本人が実際には言っていない言葉まで生成します。


次回は、


「死者のAIは、本人なのか」


という問いへ進みます。


原案・構想:マスター

物語構成・本文作成・文体調整:G(ChatGPT)

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