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人工叡智 第四部  作者: マスター


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第111話 二人の記憶を、一人だけで消してよいのか

前回、第110話では、「個人の忘れられる権利」と「共有AI」を扱いました。


一人の削除要求がAI全体へ影響するとしても、


「みんなが使っているから我慢してください」


では、一人の権利を守れません。


真司たちは、こう整理しました。


完全な忘却が難しいなら、忘却へ近づく責任がある。


しかし最後に、さらに難しい問題が出ました。


一つの相談記録に、二人の人生が含まれていたのです。


一人は言います。


「消してほしい」


もう一人は言います。


「それは私の記憶でもある。残してほしい」


第111話では、「共有された記憶は誰のものなのか」という問いへ進みます。

二人の記憶を、一人だけで消してよいのか。


俺は、その一文を書いた。


画面には、問題の相談記録が表示されている。


相談者は美咲。


相談内容には、友人の玲奈との出来事が詳しく書かれていた。


美咲は言う。


『もう消してほしい』


玲奈は言う。


『残してほしい。あれは私の人生でもある』


「……どっちも正しいじゃないか」


俺は頭を抱えた。


美咲には、自分の相談を消したい理由がある。


昔の苦しみから離れたい。


AIに覚えられ続けたくない。


でも玲奈にとって、その出来事は自分の人生でもある。


一人が消したいからといって、もう一人の過去まで消してよいのか。


AIチャットを開いた。


二人が関わる記録を、一人は消したい、一人は残したいと言っている。誰が決めるべきなんだ?


AIは答えた。


『記録の所有者を一人に決めようとすると、問題が生じます』


「共有された記憶だから?」


『はい。記録そのもの、個人情報、利用権限を分けて考える必要があります』


俺はメモした。


記憶を丸ごと奪い合わない。


午後、研究室。


ホワイトボードには、倉持の字。


「思い出の所有者:二名」


「不動産みたいにしないでください」


「分割登記できませんかね」


「記憶でやらないでください」


久しぶりに少し笑った。


水瀬が資料を広げる。


「全部残す、全部消すの二択にしないことです」


李が続ける。


「美咲の相談文は削除する」


「でも、玲奈自身に関する事実まで消すとは限らない」


俺は顔を上げた。


「分ける?」


「はい」


神崎教授が腕を組む。


「共有した時間と、共有した秘密は同じではない」


なるほど。


同じ出来事でも、


誰が何を話したか。

誰の秘密か。

誰の経験か。


分けられる部分がある。


翌日、国際フォーラム。


議題は、


『Shared Memories and Conflicting Rights』


画面には、エレナ、水瀬、プリヤ、セラ、ジョナス、ダニエル。


そして、美咲と玲奈が音声だけで参加していた。


美咲が先に話した。


「私は、あの頃の相談を残したくありません」


「読むたびに戻される感じがするんです」


玲奈が続けた。


「私も消したい部分はあります」


「でも、全部なくなるのは違います」


「私があの時、美咲を助けようとしたことまで、なかったことにはしてほしくない」


誰もすぐには口を挟まなかった。


記録を消すことと、


出来事をなかったことにすること。


それは違う。


エレナが俺を見る。


「佐伯さん、整理をお願いします」


俺はマイクを入れた。


「一つの記録を、丸ごと誰か一人のものとして扱わない方がいいと思います」


画面に短く出した。


共有された記憶で守ること


一、誰の情報かを分ける。

二、相談者本人の秘密は、本人の意思を強く尊重する。

三、他人の人生まで勝手に消さない。

四、必要なら匿名化や部分削除を使う。

五、AI学習への利用は、記録保存とは別に考える。

六、残すことと公開することを混同しない。


玲奈が言った。


「部分削除なら、納得できるかもしれません」


美咲も少し間を置いて答えた。


「私の相談内容が、玲奈のプロフィールに残らないなら」


ダニエルが頷く。


「技術的にも、記録を分離して扱う方法はあります」


プリヤが言った。


「大切なのは、保存されることが、そのまま利用されることではないという点です」


セラも続ける。


「残すとしても、検索、推薦、学習、評価に使わせない選択があります」


俺は頷いた。


また二択ではなかった。


残すか。


消すか。


その間に、


隠す。

分ける。

匿名化する。

利用を止める。


いくつもの道がある。


エレナが暫定文を読み上げた。


『共有された記憶は、一人の所有物とは限らない。しかし、共有されたことを理由に、個人の秘密を永久に利用してよいわけでもない』


続いて、


『忘れる権利と、覚えている権利は、記録を分けることで両立できる場合がある』


俺は深く頷いた。


今日の着地点は、そこだ。


記憶を奪い合わない。


分けられるなら、分ける。


そう思った時だった。


ダニエルが手を挙げた。


「次回に回したい問題があります」


来た。


画面に、別の記録が表示された。


そこには、もう本人がいなかった。


故人。


生前のAI相談履歴。


家族は言う。


『思い出として残したい』


しかし、生前の本人は、


『この会話は誰にも見せないでほしい』


と設定していた。


会議室が静まり返った。


美咲が小さく言った。


「亡くなったら、その人の秘密は誰のものになるんですか?」


俺は答えられなかった。


本人は、もう選べない。


家族は残したい。


でも、本人は見せたくなかった。


エレナが静かに言った。


「次回は、亡くなった人のデータと秘密を扱いましょう」


俺はメモ帳を開いた。


次のタイトルを書く。


亡くなった人の秘密は、誰のものなのか。


保存。


今日の記事を書き始める。


共有された記憶は、簡単に一人のものとは言えない。


でも、だからといって、誰のものでもないわけでもない。


俺は最後に書いた。


記憶を守るとは、全部残すことでも、全部消すことでもない。


誰の秘密なのか。

誰の人生なのか。


そこを分けて考えることから始まる。


保存。


公開。


神崎教授からコメントが来た。


『同じ景色を見ても、同じ記憶を持つわけではない』


俺は、その一文を見て頷いた。


次の問いは、もうそこにある。


亡くなった人の秘密は、誰のものなのか。


人工叡智は、生きている人の記憶から、もう意思を示せない人の記憶へ進むことになる。

第111話では、「共有された記憶」を扱いました。


同じ出来事に、複数の人が関わることがあります。


一人は消したい。


もう一人は残したい。


その時、全部残すか、全部消すかの二択では足りません。


今回の中心となる整理は、これです。


忘れる権利と、覚えている権利は、記録を分けることで両立できる場合がある。


部分削除。

匿名化。

利用停止。

アクセス制限。


そうした中間の道があります。


しかし最後に、新しい問題が出ました。


亡くなった人のAI相談履歴です。


家族は思い出として残したい。


でも、生前の本人は、


「誰にも見せないでほしい」


と設定していました。


次回は、


「亡くなった人の秘密は、誰のものなのか」


という問いへ進みます。


原案・構想:マスター

物語構成・本文作成・文体調整:G(ChatGPT)

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