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静寂の彼方へ  作者: 宙子
6/15

6.



 ようやく休憩ポイントへ着いた時には空が白んできていた。


 やっとビバークできる!喉も乾いた。



 沸かしたお湯が、とても美味しく感じた。

 冷えた全身が少しずつ回復していく。



 数時間の眠りから覚めたリサは、柔軟や腕立て伏せをする。

 身体を温めるためもあるけど、ルーティンだから。


 ___________


 翌日12日目、昼。


 さらに上まで来た。数メートルに渡り、何やらカラフルな模様が描かれた岩壁。

 風と鹿などの動物を、躍動的に抽象で表現したものに見える。

 

 つくづく、こんな環境なのに消えていないのが不思議だった。



 一方のリサの身体はというと、これまでになく頻繁に疲労を訴えてくる。


 ビレイ解除のタイミングで、あったかくて甘~い紅茶を……。

 残念!もう冷めてた。



「旧型……いや、ドローン。ルート取りのアドバイスをして」


 ここまでは自分で決めてきたけど、この壁は……先が見えない。とにかく心許なかった。


 やや時間をおいてから、ドローンが小さい文字盤に回答を表示する。


『36メートル上方、左』


「うん、そこが次の目標候補だね、OK」


 ……といっても、ムダ足は己の命運を左右する。

 リサ自身も念入りに確認した。


 かなり上のほうだし、岩がせり出していてハッキリしないけど。



 そこで、機器のランプが光った。___通信だ。


 イヤな予感が的中。トニーからだ。

 リサは反射的に、眉間にしわを寄せた。


『おおーい、返事くらいしてくれ。こっちも仕事なんだよ。

 くだらないことでいいんだ。

 今日、こんなことを思いました。何を食べました~とか。

 とにかく、何でも。一言!』



 あの様子。かなり切羽詰まってるようだけど___。


「誰か、薬を塗ってやってよ。どうしようもない誰かに効くヤツを」



 今は、本当にそれどころじゃない。

 岩壁の色が変わった。グレーから、濃いブラウンに。



 さらに、大きな問題に直面している。


 ピトンが入っていかない。この岩壁は硬すぎる。

 ……性能が足りないのかもしれないけど。


 ピトンが打てないということは、休息が取れない。さらに、滑落すると痛い。

 気持ちの面でもかなりのハードル。



 でも、いつも通り。それしかない。


 見たところ、すべてが硬い岩壁ではない。

 まだら模様の層になっている。


 ______________



 滑落、滑落、もう何度滑落してやり直したか、数えられない。



 嵐みたいな突風とともに雨風が叩きつけてくる。ぶつけた身体も痛い。

 最高にクライマー泣かせな環境だ。


 大荒れの最中は登りを中断し、しっかりと岩壁にすがりつかないと、風にあおられるたび落ちることになる。


 ただしそのぶん、時間を浪費しなくてはならない。


 凍傷寸前かもしれない。右手の指の感覚が……。


「勘弁して!!」


 口をついた弱音が、雨水が滝みたいに伝い落ちる岩壁に反響した。


 失敗ばかり。ルート取りが悪かった?こんなところで……。



 食料も水も、これでは尽きてしまう。それに喉も乾ききっている。

 手がかじかんでピトンを1つ取り落としてしまい、予備はあと2つだけ。


 もし、登りきれなかったら、と考えてしまう。



 これまで温存していた薬を飲んだ。

 手足の感覚が、マシになる。


 残った体力をふり絞り、リサはより高い位置へと足を運んでいく。





「ハッ……」



 ___疲れ果てて、ビレイ解除と補給のあとに寝落ちたらしい。

 切り立った岩壁の途中、強風にあおられる1本のザイルだけを命綱にぶら下がっている。


 激しい揺れのなか、支点になるピトンが岩から外れずいてくれたのは、ドローンが施してくれた《《クラック充填剤》》のおかげだろう。


 これも、リサイクラーで作れるらしい。

 リサは初見だったから驚いた。

 充填剤はナッツが入っていたプラスチックの空き容器におさまっていた。




 さっきまでビュンビュン吹き荒れていた風が、弱まっている。でも……。


「さ……寒い」


 身体が冷え切っている。……あと、少しなのに。



 ビレイを解除。なけなしの体力だけど、戻り切ってからクラックに手を伸ばす。

 チョークも使い、最後の難関を_____超えた。



 岩が覆いかぶさっており、入り口が少し奥まっていて分かりづらかったけど、洞窟のようだ。自然にできた造形に見える。


 暗がりのなかを歩いてみる。……とくに物資は見当たらない。



 どうやってテントを設営したか分からない。泥みたいに眠りに落ちた。




 _____________


 受信を報せる音で目が覚めた。朝7時。寝過ごした。



『おはよう、リサ。イネスよ。こっちはお天気。

 昨日は友達が来てくれて、ボードゲームしたの。

 リサも一緒に何人かで集まってよく遊んだよね、夜中まで。

 ……彼女、貴方のことすごく心配と言っていたけど、応援もしてくれてる』



 繰り返し遊んだボードゲーム。もうルールはうる覚え。まだ取ってあったんだ。

 物を大事にするイネスらしい。と身支度しながらリサは思う。


『そうそう、SNSにリサの活動を載せているでしょ。

 セルヌのこと報告したら、1日で3000もグッドを押してもらえた。


 リベルテの時もだったね。無事に戻ってきてほしいというコメントが多い。

 私も同じ気持ち。また、2人で毛布にくるまって、熱いココアを飲みながら沢山話したい。あ、マグカップ、新調したんだ。私のには小鳥、あなたのは小犬のイラストが入ってて。


 長くなってごめん。……またね』



 マグカップ?……どんなのだろう。


 SNSの案を出してくれたのは、イネスだった。

 リサはそれまでちゃんとSNSを見たこともなく、気難しさから口喧嘩にもなった。

 それでもイネスはあきらめず、勧めてくれた。


 開設から運営までほとんどを受け持ってくれている。



 山には都会みたいに愉しいものは1つもないのに、とリサは思う。

 興味を持ってくれる人たちがいるのは、すごく意外だった。


 3000個の弾けるようなグッドをイメージしたら、背中を押される思いがした。



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