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終わって見れば

『はあぁ、はあぁ、はあぁ、ここはどこなの?』


 薄暗い洞窟のような空間がグルグルと渦巻いている。

 私がいる場所だけが平らな場所でどうしてここにいるのかも分からない。


 自分の両手が光り輝いている『おぉおぉぉ』と声を上げてしまった。


 さらに全身が温かい光に包まれてゆったりと意識が飛んで行きそうになり。

(ガクッ)とヒザがこける。


 それでも気持ちが良くなり高揚する。

『ふぅ………………



                         ――オウッ・イッツ・ア』


(ああ、それは、(あふ)れんばかりのエナジー)横溢(おういつ)と呟いて……再び目蓋(まぶた)を閉じた。



      *


 好事(こうじ)魔多(まおお)し、「ふがっ」と目覚める。

「…………」目の前にある知らない天井。目をパチくり。


「チハルさん。良かったですわ」


 その不安はすぐに吹き吹き飛んだ。声の主はユイナさんだった。

 どうやら私はアズネさんの家で彼女の部屋にあるベットに寝ていた。


 ロンはベットの端で丸まっていて私が目覚めると(むくっ)と立ち上がる。

『チハルちん。心配したのじゃ』と涙声で言う。


 ユイナさんの隣でアズネさんが目をうるうるしながら謝る。

「チハルちゃん。足手まといになってごめんなさい」


 私は彼女を見つめて励ますように応える。

「うぅん。大丈夫だよ。アズネさん。みんな無事だったから良かったんじゃない」


「チハルさん。そんなことを言って無理は駄目ですよ」

 隣に立つユイナさんから注意をもらった。


 その様子からして、どうやら負傷した体はユイナさんが治癒してくれたようだ。


 ……そうか、守護神様がユイナさんを呼んでくれたんだね。

 まだまだ、私は死ねないらしい。死ぬつもりもないけどね。


 今回、宇宙怪獣に初めて単独で立ち向かった感覚がある。

 しかし、無理はしたが無茶はしていないと言いたい。

 だが、あの場所からどうやって私を運んで来てくれたんだろう。


 それはロンが教えてくれた。コハクは大きな姿に変えて空を飛べるらしい。

 アズネさんが倒れた私をコハクに乗せて、みんなでコハクに乗り空を飛んで戻って来たそうだ。


 町は祭りの期間中。店は閉店だし、家の近所は人通りが少なくて目撃者はいなかったそうだ。


 そのときにタイミングよく、ユイナさんがアズネさんのお店を訪れて合流した。

 私の状態を見るやいなや、急いで治癒を(ほどこ)してくれた。


 ……その話を聴いて吐息する私。

「みんな、ありがとう」


 宇宙怪獣は倒せたが反省することは多々ある。とりあえずは作り笑顔でみんなを安心させ反省するのはひとりになってからこっそりと……うん。私は強い子です。


 ベットから起き上がって水をもらい、ゴクゴクと飲んでユイナさんと話す。

 彼女が駆け付けた経緯によれば、やっぱり、守護神様たちが連絡をしてくださったようだ。

 ……まあぁ、アズネさんちはユイナさんの方が近いからね。


 ユイナさんちはこの町の一つ先の駅から下りた温泉街。私とユイナさんが暮らす町の間にアズネさんちがある。


『さて、ロン。どうしましょうか』

 私はロンの方を向いて念話で尋ねた。


『うむ。待つのじゃ』

 ロンはアズネさんの方へと(ぷぃ)と首を向ける。

 ……なに!? その動作。


「あわわ、みなさん。待って下さい」

 と、アズネさんは私たちに呼び掛けて慌てて部屋を出ていた。


 ――待つこと数分。アズネさんが何かを持って部屋に戻って来た。

 その手に持っているお盆の上には小さな和菓子がちょこんと並んでいる。


「おぉぉ。それは……イチゴ大福!」と私は目を大きく開く。


 お盆の上に置かれた大福は、耳がちょっとだけ立っていて目鼻がチョコレートで書かれいる可愛いウサギさんの形をしていた。


 アズネさんは、ほっとした表情を見せて笑顔で言う。

「はい、そのほかにもバナナ大福、キュウイ大福もありますよ。お疲れ様でしたのでみなさんでどうぞ! 召し上がってくださいね」


「いえ、わたしは何も……」ユイナさんが真面目に遠慮する。

「ユイナさんも、一緒に食べて下さいよ~」と私は勧めた。


「そうです。ユイナさんが来て下さらなかったら、私、救急車を呼んでチハルちゃんを病院に運ばないと行けなかったんですよぉ」


 アズネさんがお盆をユイナさんの前に(クイッ)と差し出す。


「そう言うことで食べましょう。ユイナさん」

 私も右手でユイナさんに(ほれほれ)と勧めると。


「はい、そういうことなら頂きます」

 断り切れないユイナさんは大福の乗った皿をひとつ取ってくれた。


「ロン様もどうぞ!」

 アズネさんが大福が乗った皿をひとつ床の上にそっと置いた。


 ベットの上から(ぴょーん)と飛び立つロン。――華麗に床の上に着地。

 いつものぐうたらロンではない。その俊敏な動きに違和感がある。

 ……戦場では違和感が無いんだけどね。


『うむ。頂くのじゃ。アズネどの、ありがとうなのじゃ』

 ペコリと頭を下げてから(パクッ)とひと口。……大福を咥える。


『ホム、ホム。うまいのぉ~』とほころぶロン。


 いつもの光景だが、何となく和む。……私は涙目になってイチゴ大福を頂いた。

 こうして無事に美味しいものが今日も食べれる。

(……良かった。良かった)


「これ、なかなか美味しいですね」

 ユイナさんだけは、始めにキュウイ大福を食べていた。


「このフルーツ大福は私の店の大人気商品ですよ。どなたでも喜んでもらえるように鮮度も品質も気を使った一品です。あっ! 飲み物も持ってきますね」

 アズネさんは自慢したかと思えば、部屋を飛び出していった。


 騒がしい女だ。もっとゆっくりすれば良い。気を遣わせ過ぎたかな?


 ベットから離れて、私は窓の外を目で見つつ、固まった体をほぐすように背伸びする。その様子を見守るようにユイナさんは優しく言葉を掛けた。


「チハルさん。今回のようにアズネさんを尋ねるのは良いのですが、このような事態になるのでしたら、私とマサミさんにも声を掛けて下さいね。ひとりで張り切らないこと」


 ユイナさんに小言を言われて悄気(しょげ)る。


「うん。次はこんな無理はしないよ。あっ、『画竜点睛(がりょうてんせい)を欠く』と言わせないよ」

「なんですか? その『画竜点睛(がりょうてんせい)を欠く』とは……」


「うん。私も教えてもらったんだけど。物事の肝心なところが出来ていないときに言うことわざ。昔の偉い絵師が竜の絵を描いて目を書き忘れたので後から書き込んだら絵から竜が飛び出てどこかに飛んで行ったとか、ようは台無しになると言う意味」


「ふっ。分かっているなら何も言いませんわ。でも、逃げれるときは逃げて下さいね。多分、チハルさんのことだからアズネさんを庇って負傷したんでしょ」

「うん。気をつけます」


 私とユイナさんの話をロンは黙って聞きながら、うなずく。


 アズネさんが再び、冷たい緑茶が入ったポットとコップを持って部屋に戻ってくる。「お待たせしましたぁ~」と言いつつ、みんなにそれぞれ緑茶を注いだコップを渡す。


 ロン用にと深皿に入れた水を用意してくれた。


 ひと息ついて、それから土の守護神様に報告とユイナさんの挨拶を兼ねて向かった。


 目を(つぶ)った先に現れる毛むくじゃらの守護神様。


『おぉぉ。チハルさん。無事で良かった。良かった。お主たちの活躍をワシは見守っていたのだ。ユイナさんも間に合って良かった』


 私はさきに言葉を返す。

『はい。何とか無事に退治できました』

『はい、無事で何よりでございます』とユイナさんも言う。


『守護神様、私が力不足のためにチハルさんを危険な目に合わせてしまいました』


 やっぱりアズネさんは引け目を感じているのか。


 それも守護神様は分かっているので、声を掛けて慰めていた。

 しかし、彼女はこれから努力して行かねばならない。


 そうだよね。私も日頃から強くなろうと特訓しているから何とかできた。

 だが、対岸の火事ではないので……私も反省する。

 少し調子に乗っていたのかも。安易に協力したことが良くなかった。


 ユイナさんも初めてお会いする土の守護神様と会話した。

 火の守護神様と土の守護神様はどうやら仲が良いらしく、今回の件で定期的にアズネさんとユイナさんを合わせようとするような話をしていた。


 でも、私は自分で決めて会いに来たので無駄にはなっていない。たまたま、来た時が運が悪かっただけなんだし、あれこれと理由を語ることもない。


 こうやって、みんなで協力していけば良いし、早くお互いを知って情報共有できた方が前向きに取り組めると思う。


 ……だってねぇ。宇宙人や宇宙怪獣だよ。

 か弱き乙女に何できるの? と言っても文句はでないはずだ。


 自分以外の仲間がだんだんと増えていき、先代の存在まで知ると何も特別感は無くなった。これが私の日常、ほんとに不思議な日常。


 まだ、私はロンが側にいるから不安はないが、彼女たちは常に守護神様へ心配事を話すしかない。


 私以外の人が、どのように守護神様と出会ったのか、一度訊いて見た方が良いのかもしれないのかなぁ……そんなことを思う日だった。


 さて、報告も無事に済ませて、これといって守護神様からのご褒美は何も無い。

 例の宇宙怪獣の死骸はコハクが処理したそうだ。大陥没も埋めたらしい。

 どうやって埋めたかは、今度来た時にでも訊いて見ようと思う。


 ――三人と一匹は(ほこら)をあとにして再び町に戻る。


 帰りの道で遠くから聴こえる祭りの喧騒。夕日を背にみんなで歩く。


 私はユイナさんを誘った。

「ユイナさん。少し祭りを見てから帰りませんか?」


「それも良いですね。チハルさん」と笑うユイナさん。


「それでは私が案内しますよ。地元ですから」

 アズネさんにも笑顔が戻った。


「うん。お願いします」

 私が言ってユイナさんもアズネさんを見てコクリとうなずく。


 こうやって、新しい仲間と友達になった。珠江たまえおばちゃんの時代とは違う。

 現代の仲間は積極的に協力して行けば良いのだ。


「それじゃ。いっぱい遊んで行こうね。みんなぁー!」


「「おぉぉー!」」


 と、私に乗せられてみんなも声を上げた。


 その日、ロンは出店で綿菓子と言う食べ物を知った。

『あまいのじゃ。チハルちん』


最後まで読んでいただきありがとうございます。

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