しゃぶしゃぶ道
――彼女が自分の気持ちを話してくれた翌日。
私とロンは守護神様に報告に祠へ向かった。
例のごとく守護神様はあまり良い感じを示さなかった。
但し、護符を使ってミディアルたちを識別したことについては感謝される。
それが何を意味しているかは分からない。
マサミちゃんとユイナさんとで、しばらくはミディアルたちと距離を置くことについても、それでよいと返事をもらった。
何やら守護神様たちも考えがあるようにも取れる。
――その日の夜、家族全員が揃ったということで晩御飯は〈しゃぶしゃぶ〉となった。
いつから広まったのかは分からないが、我が狭井家には〈しゃぶしゃぶ道〉と言うものがある。
水炊きする時間を惜しんでリアルタイムで行われるのがこと〈しゃぶしゃぶ〉。
お兄ちゃんはこう語った。これを食のゴールデンタイムと。
それは我先に熱湯をくぐり通したものだけが食せる栄光――これは日常においての僅かな争い……。
その中で繰り広げられる競争に遅れた者は、湯に残りし、食物の雑味を含み、段々と新鮮みが落ちて行くものを味わうのだと、これが湯でなく出汁ならば、それは顕著に現る。
――それは〈濁り〉。
華麗に汁は少なく、そいつをお玉で救いつつ繰り返される。ひとときの加熱処理は続く、これらを誰かは面倒と言うが、そこに自分好みの食材を過熱し、求め、極める。
あるシェフが言った。
「料理とは食材の選択と火の使い方を間違えなければ一番美味しいタイミングを逃さない」と……
ここに並べられた品々。……私は迷う。
豚しゃぶにするべきか、餅しゃぶにするべきか、これが問題だ。
そうなのだ。〈しゃぶしゃぶ〉とは、湯につけて熱処理を施して食する動作を見て、つけられたネーミングのはず。
だが、実際はタレにつけて食べるのが主だ。
そうなると本来であれば、つけ麺のようなネーミングのはず。
つけ肉、つけ餅、ええぃ。総括して「つけ物」だ!
……言葉が漏れていたらしく、――ママが冷蔵庫から持って来た。
私が好きな〈しば漬け〉。
私はしば漬けをぽりぽり食べた。ご飯が進むよ。まったくぅ~。
「早くロンちゃんにも食べさせなさい」とママに怒られる。
ロンはさっきからお口を開けて待っている。
こういう時はなぜか素直だ。
汁物は床が汚れるので、湯通したあと。お肉を葉っぱに巻いて、少しだけタレを乗せてから口に放り込む。
『チハルちん。お肉美味しいのぉ。むしゃむしゃ』と食べる。
『〈しゃぶしゃぶ〉用だから肉厚が無くて、ごめんね。ロン』と念話で伝える。
『チハルちん。こういう変わったお肉も、それなりに味があって良いのじゃ』
にこりと答えるロン。
次は餅しゃぶをと、……スライスした餅をひとつ湯がいてチーズに巻いてロンに食べさせた。
『くちゃくちゃ。……おぉぉ。チーズと餅がこんなにあうなんて、チハルちん。ありがとうなぁ』
ロンは新しい食べ物を発見したときの驚きっぷりが楽しい。
今回、我が家では、豚派と餅派に別れたためにテーブルの上には鍋が二つある。
よって、豚しゃぶはアクが浮いているが、餅しゃぶはダシ汁が薄っすらと黄金色に輝いているようにも見える。
タレはゴマだれとポン酢薬味入りとなっている。豆苗にお豆腐、長ネギも入って途中から豚しゃぶは〈しゃぶしゃぶ鍋〉に大変身を果たした。
――そして、シメはやっぱり、〈うどん〉。
シメの投入にも、七回裏の攻撃と同じく野球監督が推考するのと似た熟練の技があるとパパは語った。ある小料理屋では、このシメの投入が遅くて宴会の予約が減ったと聴かされる。
さらにパパはビールが入ったコップを片手に社会人の飲み会の心得を語り出した。
〈飲んだら乗るな、乗るなら飲むな!〉は聞くが、〈飲んだら食うな、食うなら飲むな!〉は誰も言わないと、豊かな食の時代から始まった大人の洗礼の理とかと話だして、オチがゲロネタだったからママから脳天チョップをもらい終了した。
そのあと、パパはママから別の話を振られてビールをグビりながら楽しそうに会話が始まり弾む。その隣に座るお兄ちゃんを見れば、さきに食べ過ぎたらしく箸を止めて満足げな表情をしていた。
私とロンも美味しく頂き、「うん。満足!」――お粗末様でした。
「ロン。食べたねぇぇ~」
『チハルちん。お腹いっぱいなのじゃ!』
こんばんわ。ラシオです。
お読み頂いきましてありがとうございます。




